仕組債のヤバい仕組みと舞台裏

高利回りへのハードルが高く、大きな損失を招きやすいのはなぜ?

2015年3月10日(火)アナリスト工房

リーマンショック後の4年間の円高局面(2008年秋-2012年秋)で、多くの日本企業を苦しめたのが「為替デリバティブ問題」です。

問題となった”ノックイン”や”デジタル”という特殊なデリバティブ(金融派生商品)は、為替がある水準に達すると金融機関の顧客が大きな損失を被る、ハイリスクの金融商品。もちろん、為替ヘッジ目的の企業財務には適しません。

なのに金融機関が積極販売したこれらの商品は、大手から零細までにわたる数々の輸入企業に、急速な円高進行のなか巨額の為替差損をもたらしました。

為替デリバティブ問題が一段落して2年後のいま、その元凶となったデリバティブを用いた”仕組債”が、マス富裕層以上の投資家の人気を集めています。

仕組債は、普通の債券にデリバティブを組み込んで利回りを高めた、ハイリスクの運用商品です。普通債はデフォルト(債務不履行)しない限り確定利回りに対し、仕組債は大幅なマイナス利回りとなるケースが多数みられます。

今回は、次の典型的な例(ブラジルレアル連動型 デジタル・クーポン債)を題材に、為替仕組債のとんでもない仕組みと舞台裏を解説しましょう。

【例】ブラジルレアル連動型 デジタル・クーポン債

欧州のC公社が本日発行する5年物の円建て仕組債は、最初の1年間の利回りが7.5%。後の4年間は、次のようにレアル/円(本日は1レアル=40円)の為替に連動して決まる。

<為替連動の概要>

・レアル/円が本日から1年後42円、2年後40円、3年後38円、4年後36円よりも円安の場合(例えば1レアル=44円)には、その時点で期前償還される。

・2、3、4、5年後にレアル/円が33円よりも円高の場合(例えば1レアル=30円)、そのとき受け取る1年間のクーポン(利率)は0.1%に激減する。

・5年後にレアル/円が29円よりも円高の場合、満期償還される元本(額面)はそのときのレアル/円の本日(1レアル=40円)に対する割合へ大幅削減される。

続きにくい高利回りと一気に損失が生じる仕組み

本件は、C公社の普通債に”デジタル”という名前のデリバティブが組み込まれた、5年物の円建ての仕組債です。

発行の本日から1年間は7.5%の高利回りが確定していますが、その後の運用成績は次のようにブラジルの通貨レアルの動きに左右されて決まります。

まずスタートの本日から1、2、3、4年後のレアル/円が所定水準(それぞれ42円、40円、38円、36円)よりも円安の場合には、満期の5年後を待たずその時点で元本が期前償還され、本件の取引終了です。

しかも本日のレアル/円が40円に対し、時とともに所定水準が円高是正されてゆきます。やがてその水準よりも円安と化して期前償還され、高利回りのハシゴを外される可能性が高い。

一方、将来のレアル/円が円高となった場合には、利回りの源泉となるクーポン(利率)と元本(額面)が削減されます。

まず1年ごとに支払われるクーポンは、本日から2、3、4、5年後のレアル/円が一定の値(33円)よりも円高のとき、それまでの1年間の分が当初の7.5%でなく0.1%へ激減。その1年間は高利回りを享受できません。

また5年後の満期に償還される元本は、そのときのレアル/円がある水準(29円)よりも円高の場合、そのときのレアル/円の本日(40円)に対する割合にまで大幅カットされます。

例えば、5年後のレアル/円が29.1円のときの償還元本は当初の投資額の100%に対し、28.9円のときにはその70%(=28/40)と一気に減少。すなわち、満期の円高進行がある水準を超えたとたん、元本の額の大きな割合が消滅するのです。

しかもこの場合には、上記により5年目のクーポンもわずか0.1%。クーポンと元本の大幅カットを通じて、大きなマイナス利回りと化します。

このように本件の為替仕組債は、将来円安となった場合には期前償還され高利回りが打ち切られ、一方で円高の場合にはクーポンと償還元本が減らされます。

しかも、期前償還となる円安水準(1レアルが36から42円)とクーポン・元本が削減される円高水準(1レアルが29から33円)が互いに近い点にご注目。

年7%を超えるインフレとマイナスGDPで激しく揺れているブラジルの通貨がどちらの水準にも突入することなく、この仕組債が満期まで5年間も高利回りを続ける可能性はほとんどないといえましょう。

投資家不在のとんでもない商品づくりの舞台裏

ちなみに、他にもトルコリラ、日米の株価指数などに利回りが連動する仕組債が売れ筋のようで、いずれも上記例と同様に受け取る高利回りが続かずしかも大きな損失を招きやすいタイプのデリバティブが組み込まれています。

一般に、仕組債が投資家にとって極めて不利なのはいったいなぜでしょうか?

デリバティブの取引には必ずその相手がいます。仕組債の投資成績を左右するデリバティブは、投資家の取引相手にとって一方的に有利な契約だからです。

そもそも仕組債は、それをつくった金融機関が取引したいデリバティブを通常の債券に組み込んだ金融商品。その投資家にとってデリバティブの実質的な取引相手は、金融機関やそのヘッジファンド顧客です。

例えば、有力なヘッジファンドが将来のレアル/円が円高となった場合に莫大な利益を得るためのデリバティブ契約を金融機関と結んだとしましょう。

このとき金融機関は、ヘッジファンドの予想どおり円高となった場合に損失を被らないよう、仕組債をつくってヘッジファンドとの契約に伴い抱えるリスクを仕組債投資家へ移転させます。よって、仕組債への投資は大きな損失を招きやすいのです。

ちなみに、数多くの投資家が巨額損失を被ったリーマンショックの発端は、米国のヘッジファンド"ポールソン&カンパニー”と金融機関"ゴールドマン・サックス”との間でのデリバティブ契約です。

ポールソン&カンパニーは住宅ローン証券化商品のデフォルトに賭け、ゴールドマン・サックスはそのデフォルト時に損失を被ることなく契約履行できるよう仕組債をつくって投資家へ売りさばきリスクヘッジしました。

契約から半年後、ローンならびに証券化商品のデフォルトが続出し、本件のポールソン&カンパニーの利益は10億ドル、投資家はほぼ同額の損失を被りました。

話をレアル/円の仕組債に戻しましょう。ヘッジファンドが金融機関へデリバティブ契約の対価として支払う料金(プレミアム)は、仕組債の投資家への利回りに充てられます。

しかし、その料金は円高・円安どちら場合もその支払いが免除されやすい契約となっているため、それを源泉とする仕組債の高利回りは続きづらいのです。

以上、投資家にとって一方的に不利なデリバティブが組み込まれている仕組債は、ハイリスク・ローリターン(あるいはマイナスリターン)のとんでもない金融商品といえましょう。

株式会社アナリスト工房