企業結合1(純利益の定義が変わった)

2015年7月27日(月)アナリスト工房

日本企業の今年度の第1四半期(2015年4-6月期)の決算発表が本格化している。その新たな決算書のなかで最も注目されるのは、わが国の企業結合会計の見直しに伴い、連結財務諸表の"当期純利益"の定義が変わったことである。

企業グループ中核の親会社とその子会社を合わせて連結P/Lを作成する際、前年度(2015/3期)までは親会社と子会社の税引き後の純利益を合算した"少数株主損益調整前当期純利益"から、子会社の少数株主(親会社以外の株主)に帰属する"少数株主利益"を控除し"当期純利益"が導かれていた。

今年度からは、少数株主損益調整前当期純利益、少数株主利益、当期純利益がそれぞれ"当期純利益"、"非支配株主に帰属する当期純利益"、"親会社株主に帰属する当期純利益"へ名称が変わった。

日本の会計基準に一体何が起こっているのか?

純利益の定義変更の根底には、連結財務諸表をどの視点からみて作成するかのコンセプトが大きく変化していることがある。

かつての日本の会計基準は、企業グループ中核の親会社の株主の視点からみた連結財務諸表をつくる"親会社説"の立場をとっていた。

この親会社説の考え方に基づき2014年度までの連結P/Lでは、親会社と子会社の純利益の合算値(少数株主損益調整前当期純利益)から子会社の少数株主に帰属する分(少数株主利益)を控除した額でもって、グループの当期純利益が計上されていた。

一方でIFRSと米国会計基準は、親会社および子会社の株主全員の視点からみた連結財務諸表を作る"経済的単一体説"の立場をとっている。

経済的単一体説では、親会社と子会社の純利益の合算値こそが企業グループの当期純利益である。

「子会社の少数株主(海外会計基準での名称は"非支配株主")もグループに出資しているのだから、彼らに帰属する分の純利益もそこに含めるべきだ」の考え方に基づき、少数株主利益(海外会計基準での名称は"親会社に帰属する当期純利益")はグループの当期純利益から控除しない。

わが国で海外の会計基準との共通化が加速するなか、親会社説から経済的単一体説への移行が進んでいる。今般の企業結合会計の見直しもその一環である。誰のための連結財務諸表かといった会計の目的に関わる事柄も決して例外ではない。

ちなみに、2011/3期から導入された包括利益には少数株主への帰属分がすでに含まれていることから、P/Lに続くC/I(包括利益計算書)は従来より経済的単一体説に基づき作成されている。

今年度(2015年4-6月期)からの純利益の定義変更により、前年度まで互いにコンセプトの異なっていたP/LとC/Iとの整合性が改善される意義があるといえよう。

本件に伴い、ユーザーが連結P/Lから得られる情報は増えることもなければ減ることもないが、企業分析への影響は何点かある。

企業結合2(EPSの名称も変わった)」へ続く

株式会社アナリスト工房