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2つのコードは誰のため? Activist

「いまのアクティビストは、1980年代に暴れていた乗っ取り屋とハゲタカの末裔だ。彼らが狙うのは、経営に緩みがあったり、多額のキャッシュをため込んでいる企業、あるいは不採算事業を切売りさせれば価値が高まる企業である。
アクティビストは会社の発行済株式の5%前後しか保有しないのに、他の株主の賛同をとりつけて経営陣に改革をうるさく迫る。(中略)先月、株式時価総額が世界一のアップル社は、今後3年間でなんと1千億ドルもの株主還元を約束させられてしまった。」
英エコノミスト誌2013.5.25記事『アクティビスト-自分流を押しつける』
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2015年6月25日(木)アナリスト工房

世界の市場を動かす投資ファンドのなかのアクティビストは、一言でいえば"もの言う株式投資家”。その御三家は米国のアイカーン、アインホーン、ローブの3氏がです。
アクティビストの戦略は、投資先の会社に対しROE(資本利益率)などでみた企業価値向上と株主還元の強化(増配と自社株買)を異常にしつこく要求することで、大きなリターン(投資収益)を狙う点にあります。
会社の経営陣との対話の場で執拗にたかる彼らは、冒頭で紹介した名門経済誌の記事からも、世間が眉をひそめる存在といえましょう。

いまから2年前のアクティビストは、アップル社(冒頭:アイカーン氏に巨額の株主還元を強いられている)、マイクロソフト社(アクティビストのモーフィット氏を社外取締役として受け入れさせられた)など、米国内で暴れていました。

勢いづいた彼らは、いま日本企業(ファナック、IHI、ソニーなど)にも次々と乗り込んできています。
わが国の企業には、なんと231兆円ものキャッシュが蓄えられています(*)。その株式への投資と経営陣へのもの言いで、それを放出させ荒稼ぎすることが彼らの狙いと見受けられます。

なかでも注目を集めている先は、ファナック(山梨の工作機械メーカー)。ローブ氏の強い圧力を受けた同社は、昨年度から配当性向(税引後の純利益に対する配当の割合)を60%へ倍増しました。減益予想の今年度も、その高水準の還元を続ける方針です。


わが国でのアクティビストの活動を支えているのは、会社の持続的成長と企業価値向上への指針を定めた2つのコード(原則集)です

まず昨年2月に金融庁は、機関投資家に対し『スチュワードシップ・コード(責任ある機関投資家の諸原則)』を策定。その全7原則の4つめには、投資先企業との対話を通じて認識の共有と問題の改善に努めるべきと定められています。
続いて今月からは、東証1・2部の上場企業に対し『コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)』が適用開始。その全5原則の最後には、株主からの対話の申込みには経営陣の面談などにより前向きに対応すべき旨が記されています。

ともに法令ではありませんが、実施しない機関投資家あるいは上場企業にはその理由を説明することを要求しているため、一蹴しづらいコードです。

このように2つのコードは、わが国の金融機関・年金基金・保険会社などには企業経営へ深く関与するレベルまでのもの言いを義務づけるとともに、会社にはその声を門前払いせずに応じる姿勢を強く求める指針となっています。
まるで、「機関投資家はもの言うアクティビストの片棒を担がされ、上場企業は彼らに抵抗せず無血開城を促されている」といった、とんでもない構図ですね。
まさに、アクティビストを支えるためのコードと見受けられます。

そもそも会社のステークホルダー(利害関係者)は、株主のほかにも取引先・社員・地域社会など大勢おります
なかで2つのコードにより対話できる株主が多額のキャッシュを引き出すことは、会社の資本減少とともに他のステークホルダーへの支払能力をそれだけ低下させます。買掛金返済、給与支払、納税などを安全確実に行うには、資本の厚みが大切ですからね。

よって、むしろ資本を減らすことで収益性指標ROE(資本利益率)の向上を狙いがちな機関投資家だけが企業と対話することは、他のステークホルダーの利益を損なう危険があるため不適切といえましょう。

一方、「2つのコードは欧米に劣るわが国のROEを改善させる良いきっかけでは?」とのご意見もあります。日本企業の低いROEは、採算のあまり良くない事業を抱えていることが原因です。

とはいえ、会社の収益性の低い事業が多くの人々を雇用しているからこそ、わが国の失業率が主要先進国のなかでいちばん低くて良好なのです(**)。
もしもROE向上のために低採算事業のリストラに踏み切った場合には、失業者(あるいは転籍などによる年収破壊)の増加が懸念されます
なのに、コードの実施をきっかけに、一部の機関投資家がROE5%未満の会社の取締役選任に反対するなど、実は社会に対して無責任な動きもみられます。

会社はけっして機関投資家だけのものではなく、機関投資家はステークホルダーの代表でもありません。
対話に応じる会社は、その場にいない他のステークホルダー(少額でも安定配当を望む個人投資家、新製品の研究開発に励む社員および協力する取引先、地域経済を会社に大きく依存する自治体など)へも同等にご配慮いただきたい。

株式会社アナリスト工房

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*)日銀の資金循環統計(2014年第4四半期速報)によると、2014年12月末時点の民間非金融法人の現金預金残高は231兆円。
**)2015年4月の失業率は、日本3.3%、米国5.4%、欧州ユーロ圏11.1%(うち最も低いドイツは4.7%)。