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米量的緩和が再開!金融危機を先送り

レポオペでの資金供給も潤沢。プリントマネー大国アメリカが復活

2019年10月17日(木)アナリスト工房

FRB(米連邦中銀)は今週15日、資金調達難に陥った短期金融市場の混乱を抑えるために、量的緩和(中央銀行が国債などを大量に買い取ることにより市場へ資金供給する金融緩和策)を5年ぶりに再開した。
今回の量的緩和第4弾(QE4:*)でFRBは、月600億ドルの短期米国債を最低でも来年4−6月期まで購入することにより、資金不足の金融機関勢へ大量の資金を供給する。過去の量的緩和のときと同様に、FRBが買い取った債券は満期継続されていく(11日公表)。

アメリカの量的緩和第4弾のペース(月600億ドル)は、来月1日から量的緩和を再開する欧州(月200億ユーロ)、08年からマンネリ量的緩和を継続中の日本(最近は月2兆円まで減速:**)をはるかに上回る。
国債などの買取資金を中央銀行が刷って捻出する量的緩和の別名は”プリントマネー”。すなわち量的緩和は、貨幣改鋳と同様に、その国の通貨価値を下落させる要因。世界一の量的緩和国に返り咲いたアメリカの通貨ドルは、緩和が進むにつれてドル急落へのシナリオ(3カ月以内に1ドル=100円割れへ)が濃厚だ。

リーマンショック(アメリカ発の金融危機)とともに急激なドル安が始まった08年から14年にかけて、FRBは量的緩和の第1弾から第3弾(QE1からQE3)を断続的に実施した。第2弾が終わった11年には、米ドルが一時1ドル=75.32円まで戦後最安値を更新。その後もドル安基調は、13年に日銀が量的緩和を本格化させドル高・円安への反転を推し進めるまで続いた。

<アメリカの量的緩和と量的引き締め..(***)>
□量的緩和(08年−14年)
     中央銀行がマネーをプリントし市場へ放出
     ・第1弾(08年11月−10年  6月): 総額1兆7250億ドル
     ・第2弾(10年11月−11年  6月): 総額      6000億ドル
     ・第3弾(12年  9月−14年10月): 総額1兆6300億ドル
              ↓
■量的引き締め(17年10月−19年7月): 総額6400億ドル
      量的緩和でプリントされたマネーを市場から回収
              ↓
□量的緩和(19年−)
     量的引き締めで回収したマネーを市場へ再び放出
     ・第4弾(19年10月−20年4−6月以降): 月600億ドル

いま再び、リーマンショックのときと同様に”信用収縮(信用不安に伴う貸し渋り)”が広まるなか、短期金融市場では金融機関の資金調達難がかなり深刻化している。

金融機関が米国債などを担保に資金調達する”GCレポ”の市場では、過度の貸し渋りに伴い、翌日物金利が一時なんと10%まで暴騰し今世紀最大の金利水準を更新(9月17日)。
その日からFRB傘下の金融調節を担うNY連銀は、レポ市場での金融機関へのオペ(資金供給)”レポオペ”を開始かつ連日ずっと続けることを余儀なくされた。さもなければ、資金繰りが行き詰まった金融機関勢がたちまち破たんし、リーマンショックの次の金融危機が顕在化してしまう。

中央銀行がレポオペを毎日続けると、国債などを買い取ることにより市場へ資金供給する量的緩和と同様の効果を発揮することが可能。翌日物と2週間物を中心に連日実施中のNY連銀のレポオペは、日々の金融機関への資金供給と金融機関からの資金返済の結果による残高が、開始からその日までの正味の資金供給額に相当する。

四半期末9月30日のNY連銀レポオペの残高は、なんと2025億ドル。金融機関勢は極度の資金ひっ迫だった。翌10月1日以降のレポオペ残高もおおよそ同水準で推移していることから、短期金融市場のひっ迫状態はけっして期末特有の一時的な現象ではない。NY市場の金融機関勢は慢性的な資金不足に陥ったとみてとれる(下記)。

<NY連銀のレポオペ(19年9月17日−)の残高(****)>
・  9月17日:750億ドル(すべて翌日物)
               ・・・
・  9月30日:2025億ドル(翌日物635、2週間物1390)
・10月  1日:1938.5億ドル(翌日物548.5、2週間物1390)
     ・・・
・10月15日:1903億ドル(翌日物676、2週間物1015.5など)
・10月16日:1977億ドル(翌日物750、2週間物1015.5など)
・10月17日:2057億ドル(翌日物735、2週間物1015.5など)

金融機関の資金ひっ迫の原因は2つ。1つは、レバレッジドローン(金融機関の低格付け企業への貸出債権)とその証券化商品CLO(ローン担保証券)の市場悪化を受けて、貸出債権の売却がままならなくなったことによる資金繰り悪化。もう1つは、デリバティブ取引で巨額の含み損を抱えたドイツ銀行の実質破たんに伴う、同行および取引相手(米欧の大手金融機関など)への悪影響だ。

とくに、ドイツ銀行のデリバティブ取引の総エクスポージャ(リスクにさらされている元本の総額)は、なんと49兆ドル(18年末時点)。なのに、損失に備え準備された資金は、わずか11億ドル(19年8月時点)にすぎず、最低でも2ケタの資金準備不足と推察される。
やがて資金が尽きドイツ銀行のデリバティブが決済できなくなったとき、損失が同行だけでなく米欧の金融機関などへ次々と波及し、世界金融危機が本格化する可能性が高い。

金融機関勢の資金不足が慢性化し、NY連銀のレポオペだけでは心もとないなか、連銀の親玉FRBは10月15日から月600億ドル規模の量的緩和第4弾を開始。先行して9月17日から始まったレポオペと合わせ、連銀勢の資金供給総額は量的緩和再開後すでに2132億ドルまで膨らんだ(10月17日時点)。

また米連銀勢は、レポオペを最低でも20年1月まで続けていくことを決定(10月11日公表)。金融機関の資金ひっ迫状態の解消が期待薄のなか、金融危機が本格化するのを防ぐためには、NY連銀のレポオペはFRBの量的緩和とともに最低でも20年4−6月期まで続く可能性が高い。

20年6月までレポオペが足元の規模のまま続いた場合には、量的緩和第4弾と合わせた連銀勢の市場への資金供給総額は7100億ドルとなり、19年7月までの量的引き締めの際に回収された6400億ドルを上回る資金が再び市場へ放出される。本来であれば緩和すべきときにもかかわらず、ドル防衛志向の”通貨の番人”FRBは引き締めをずいぶん長く続けてしまった。
今回の量的緩和第4弾とは、金融政策の過ちにようやく気付いたFRBが慌てて始めた、その場しのぎの是正手段(プリントマネー)とみてとれる。

金融危機の本格化は来年まで先送りできるかもしれないが、急激なプリントマネーに伴うドル急落のなか通貨の番人がドル防衛をあきらめるとともに、アメリカの金融政策の主導権はあからさまなドル安志向のトランプ政権へ移っていくだろう。

アナリスト工房 2019年10月17日(木)記事

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*)第4弾(QE4)の量的緩和について、その旨を認めたくないFRBが唱える名称は”準備預金管理のための買い取り(Reserve Management Purchase)”。しかし本稿では、その金融政策がズバリ量的緩和の定義(中央銀行が国債などを大量に買い取ることにより市場へ資金供給する金融緩和策)に該当することとから、あえて「量的緩和」と記した。

**)日銀が量的緩和で買い取り対象とする金融商品の19年9月末の保有高は、同行の営業毎旬報告によると、前年同期に対し24兆円増(=国債18+ETF6)。すなわち、足元の日銀量的緩和の規模は月2兆円(=24/12)。なお緩和規模のピークは、16年8月末の金融商品保有高と前年同期との比較に基づく、月7.8兆円(=(国債91+ETF3)/12)。

***)量的緩和の規模はFRB公表の実施ペース。量的引き締め(中央銀行が過去の量的緩和で買い取った金融商品を売却することにより市場から資金回収する金融引き締め策)の総額は、対象の金融商品(米国債と住宅ローン債券)のFRB保有残高(FRB公表のB/Sでの計上額)に基づく計算値。

****)NY連銀のレポオペ残高は、連銀が日次公表するレポ取引の期間別約定額に基づく集計値。