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通貨オブザイヤー2019 嫌露ルーブル

隠れ金融危機と貿易戦争のなか、したたかなロシアの通貨が漁夫の利

2019年12月24日(火)アナリスト工房

年の瀬恒例のアナリスト工房記事「通貨オブザイヤー」では、年初来の通貨騰落率と取り巻く市場経済・軍事情勢などに基づき、良い意味あるいは悪い意味でその年いちばんの注目に値する通貨が選ばれる。

昨年の通貨オブザイヤー2018を受賞したのは、ドル防衛に励む通貨の番人FRB(アメリカの中央銀行)が、量的引き締めと利上げにより通貨価値を強引に押し上げた米ドルだった。
その後、貿易赤字削減のためにドル安を望むトランプ大統領からの制止勧告にもかかわらず、FRBは2つの手段を用いた締め上げ策を翌19年の7月まで強行。結果、市場では信用不安に伴う貸し渋りがすっかり広まり、在米金融機関は深刻な資金調達難に陥った。

<過去3年間の通貨オブザイヤー受賞通貨>
   ・18年:FRB量的引き締めが強引に締め上げた米ドル
   ・17年:常識外れの超ハイリスクな仮想通貨ビットコイン
   ・16年:日本の投資家を直撃した好戦国トルコの通貨リラ

金融政策の過ちを犯したFRBは、引き締め終了時から急いで3連続利下げ(19年7、9、10月に0.25%ずつ)を実施したのと並行して、9月半ばからはリーマンショック時に匹敵する大規模緩和を開始。米国債などを担保に金融機関へ大量の資金を貸し付ける「レポオペ」と実質的な量的緩和(QE4)による資金供給残高は、約3カ月間でなんと3880億ドルも積み上がった(12月23日時点)。


FRBが超大量供給したドル資金の一部はヘッジファンドなどを通して株式市場へ流れ、アメリカの株価指数は依然最高値圏。とはいえ、短期金融市場での信用不安に伴う貸し渋りが解消しない限り、やがて緩和策による資金供給効果が限界を迎えたとき(たぶん米大統領選の前後に)、株価と基軸通貨ドルの暴落を伴う世界金融危機がたちまち顕在化するだろう。

今年の通貨オブザイヤー2019でも、翌年以降の市場経済などの情勢に大きな影響を及ぼす材料の豊富な通貨が選ばれた。その発表の前に、隠れ金融危機や対米貿易戦争の悪影響が広まった今年は、アメリカ以外の主要経済国(日欧中)の通貨が軒並み伸び悩む舞台裏をザックリ紹介したい。

【主な通貨の年初来騰落率2019*)】 12月23日時点
ロシアルーブル:     10.21%       ・サウジリヤル:     0.12%
・メキシコペソ:          3.87%       ・豪ドル:              −1.66%
・カナダドル:              3.86%      ・中国元(CNY):−1.78%
・インドネシアルピア:3.08%      ・インドルピー:   −1.86%
・英ポンド:                 1.57%       ・欧州ユーロ:      −3.16%
日本円:                    0.41%       ・韓国ウォン:      −4.43%
・スイスフラン:         0.16%       ・ブラジルレアル:−4.72%
米ドル:                   0.14%        ・トルコリラ:    −10.96%

なかでも、実質破たんしたドイツ銀行を抱える欧州の通貨ユーロは、最も低調だ。デリバティブ取引で巨額の含み損を抱え込んだドイツ銀行は、やがて資金が尽きデリバティブ決済がままならなくなったとき、損失が取引相手の米欧金融機関へ次々と波及し世界金融危機が顕在化するだろう。いまの世界は、米国発だけでなく欧州発の特大リスクにもさらされている。

アメリカとの最もし烈な貿易戦争に挑む中国は、FRBが利下げに転じた直後からリーマンショック後初の1ドル=7元以下の元安水準を容認・誘導し、貿易黒字の縮小ペースをいくらか抑えている。2020年には、トランプ政権が金融危機に伴うドル暴落を容認・歓迎し、米中通貨戦争がはじまる可能性が高い。

対米貿易戦争で無条件降伏した日本(米国産牛肉の関税引き下げにもかかわらず日本車の関税は協議継続)は、機関投資家が米国債などへの対米投資を積極化することにより、ドルを買い支えている。米中貿易戦争のなか本来であれば円高が加速するはずだが、自虐的な対米投資活動を通して、ドル防衛志向の反トランプ抵抗勢力に助太刀する日本の円はドルにつられ低調だ。

▼ガスパイプラインを伸ばし、アメリカ離れの国々を囲い込むのがロシア流

アメリカの主要貿易相手の通貨が軒並み伸び悩む一方、中国と欧州へのエネルギー輸出基盤を急拡大中のロシアの通貨ルーブルは年初来上昇率が断トツ首位。今年の「通貨オブザイヤー2019」はロシアルーブルに決定!

12月2日、ロシアの天然ガスを中国へ運ぶ初のパイプライン「シベリアの力」が、中国北東部の黒河まで稼働開始した。この東シベリア発のガスパイプラインは、23年には上海まで延長され、供給能力が年380億立方メートル(18年における中国の天然ガス消費量の18%相当)に達する見込み。

並行して欧州では、ロシア産ガスをバルト海の海底経由でドイツへ運ぶパイプライン「ノルドストリーム2」が、すでに建設完了の一歩手前だ。本件により、すでに本格稼働中の「ノルドストリーム」と合わせ、供給能力は年1100億立方メートルに倍増予定。

12月20日、米国産ガスをドイツに押し売りしたいアメリカが、ノルドストリーム2に参加する欧州企業を制裁する「国防権限法(NDAA)」を成立させた。しかし、その露骨な内政干渉と治外法権に猛反発した欧州の中核国ドイツは、理不尽な米国法に従う様子がまったくない。

「われわれは、治外法権を伴う制裁の実施をけっして認めない!」
ドイツのメルケル首相

「欧州のエネルギー政策を決めるのは、アメリカではなく欧州だ!」
ドイツのマース外相

そもそも、気体のままパイプラインで欧州へ運べるロシア産ガスは、ガスを零下162度まで冷やし液体のLNGに変えたうえでタンカーに積み海上輸送しなければならない米国産ガスよりも、はるかに効率的で競争力が高い。
17年8月にノルドストリーム2参加企業を制裁するアメリカの「対ロ制裁強化法」が成立したときと同様に、欧州はそのガスパイプライン建設を続け、予定どおり20年にはパイプライン稼働が実現するだろう。すでに欧米の一枚岩を叩き割ったアメリカは、いま欧州がロシアへ走るよう後押しをしている。

アメリカが対米黒字国と同盟国を突き放す根底には、深刻な双子の赤字により過度の輸入超過と米軍の海外駐留に伴う支払いを続けるのが厳しい実情がみてとれる。
今月の日中韓首脳会談と20年4月の習主席国賓来日をきっかけに、日韓の中ロとの距離は一気に縮まるかもしれない。東アジアをロシアに任せ、日韓に駐留する米軍を撤退させたいトランプ政権の狙いどおりに。

アナリスト工房 2019年12月24日(火)記事

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*)年初来騰落率は、米ドルがBloombergドル指数(BBDXY)、それ以外の通貨がBloombergドル指数と各通貨の対ドルレートに基づく計算値。