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日欧米緩和の仰天舞台裏と為替影響

万年緩和の日銀、一発屋のECB、ドル防衛未練のFRB。最強通貨は?

2020年10月15日(木)アナリスト工房

新型コロナ恐慌の今年は、すっかり落ち込んだ景気と市場を必死にテコ入れするために、日・欧・米の金融緩和が前代未聞の規模に膨らんでいる。
量的緩和やレポオペ(中央銀行の金融機関への有担保貸付)による年初来の資金供給額は、日銀が117兆円、ECB(欧州中銀)が1.84兆ユーロ、FRB(米連銀)が2.88兆ドル(9月最終時点:*)。西側の主要3中銀は、すでに昨年1年間の供給額(日銀が21兆円、ECBが0.02兆ユーロ、FRBが0.10兆ドル)をはるかに上回るジャブジャブ緩和状態だ。

日・欧・米それぞれの金融緩和の実施状況を取り巻く市場経済の情勢とともに眺めると、各中銀の狙いやとんでもない舞台裏だけでなく、将来の政策展開や各通貨の為替先行きが伺い知れる。3中銀の緩和策は、すっかり疲弊した経済をどのように回復させ、不安定な通貨価値を上下どちらの方向へどのように導こうとしているのか?

いまの欧・米の金融緩和が19年秋から始まったのに対し、日本の緩和はリーマンショックの08年秋からずーっと継続中。すっかりマンネリ化している日銀緩和は、主要3中銀のなかで緩和ペースが長距離ランナーの走行ペースと同様に比較的ゆっくり(図表)。


とはいえ、止まることをすっかり忘れた長距離ランナー日銀(BOJ)の金融緩和は必要のないときの資金供給(マイナス利回り時の国債買い取り、株高時のETF買い取りなど)による非効率が従来から目立つ。不必要なときにも走り続ける性が災いし、日銀緩和による年初来の資金供給額117兆円(20年9月末時点)は、すでに昨年1年間のなんと5.6倍の水準に膨らんでいる。

日銀の年初来供給額の主な内訳は、市場での金融商品買い取りが55兆円(国債49兆円、株式ETF6兆円)に対し、企業の新型コロナ対応を金融機関経由で支援するための特別オペなど貸付が56兆円。日銀は政府の発行する国債を従来よりも超たっぷり買い支えながら、コロナ恐慌に伴う企業支援にも大盤振る舞いだ。

政府→企業の次に、日銀緩和の資金供給が支援するのは家計と想定される。足元では、CBDC(中央銀行が発行するデジタル通貨)とベーシックインカム(最低限の生活に必要な毎月のお金をすべての国民へ配る社会保障制度)への気運が急速に高まっている。
この2つの政策をジャブジャブ緩和状態で実施するのが、デジタル通貨時代の「ヘリコプターマネー(中銀がお金を発行し国民へ直接ばらまく緩和策)」だ。主要先進国(日米欧)のなかでその実験場としての役割を担う日本は、日銀がCBDCの実証実験を21年度早期に開始予定(10月9日公表)。

中銀デジタル通貨CBDCを活用したベーシックインカムとしてのヘリコプターマネーが実現した場合には、経済主体の3部門(政府、企業、家計)をすべて支える日銀緩和マネーがとんでもない規模に膨れ上がる。政府は財政規律を完全に失い、企業と家計は働き稼ぐ意欲を喪失し、経済破たんを招く危険が高い。
本来であれば、異質な文化をもつ経済大国ニッポンの円は、世界的なコロナ恐慌のなか買われる「逃避通貨」のはず。が、なし崩し的な超長期緩和に伴うカントリーリスクへの懸念が晴れず、為替市場では円が今一つ伸び悩んでいる(下記)。

【主な通貨の年初来騰落率**)2020年】 10月14日時点
   ・スウェーデンクローナ(SEK): 4.49%
   ・スイスフラン(CHF): 4.14%
   ・欧州ユーロ(EUR): 3.12%
   ・中国元(CNY): 2.07%
   ・日本円(JPY): 1.66%
   ・豪ドル(AUD): 0.42%
   ・韓国ウォン(KRW): ▲0.79%
   ・サウジリヤル(SAR): ▲1.54%
   ・米ドル(USD): ▲1.56%
   ・カナダドル(CAD): ▲2.73%
   ・ポーランドズロチ(PLN): ▲2.84%
   ・英ポンド(GBP): ▲3.38%
   ・インドルピー(INR): ▲4.14%
   ・インドネシアルピア(IDR): ▲7.26%
   ・メキシコペソ(MXN): ▲12.58%
   ・ロシアルーブル(RUB): ▲21.59%  
   ・トルコリラ(TRY): ▲25.94%
   ・ブラジルレアル(BRL): ▲29.15%

一方で欧・米の金融緩和は、開始→休止→再開を繰り返すことで、なるべく必要最小限の資金供給を心がけるのが大きな特徴。

なかでもECB(欧州中銀)は、緩和のメリハリが極端な点が市場で高く評価されている。ECB緩和の年初来資金供給額1.84兆ユーロ(20年9月最終時点:*)の大半1.31兆ユーロが、なんとわずか1日で集中的に実施された。
6月18日、ECBはTLTRO(貸出条件付き長期資金供給オペ)を実施し、3年物長期資金1兆3084億ユーロを金融機関勢に貸付けた。借り手の金融機関は顧客への貸付を減らしたりしない限り1%の利息をECBからもらえる、といった商品設計の工夫が奏功。ECBの狙いどおりTLTROへの申し込みが殺到し、その日の緩和実施額はもちろん史上最大規模だ。

ECB緩和による資金供給は、本来なら1ユーロあたりの価値を低下させるため通貨安要因。だが、巨砲一発のサプライズを好感した市場では、欧州の景気テコ入れ効果への期待が浮上し、翌週からユーロが本格的な上昇基調に転じた。
なお、次の9月24日に実施されたECBのTLTROは1745億ユーロ。依然大量資金供給の巨砲にもかかわらず、6月のときに対し緩和規模の縮小が著しいことから、市場は通貨高要因と判断。ユーロが再び反発した。巨砲の強弱を巧みにコントロールすることにより、ECBは通貨価値を上手に向上させている。

最後に、年初来の緩和規模N0.1のFRB(米連銀)は、6月以降の資金供給が頭打ち状態であることから、すでに4カ月にわたり緩和停止状態だ(上図)。

FRB緩和の年初来資金供給額2.88兆ドル(20年9月最終時点:*)の大部分は、3〜5月に実施された。6月以降のFRBは毎月、主に米国債800億ドルとモーゲージ証券400億ドルを買い取ることによる資金供給の一方、国内外のレポオペ(NY市場のレポオペ、海外レポオペのための外国中銀との通貨スワップ)でほぼ同額の資金を回収しているため、正味の資金供給がほぼゼロ状態。
このように基軸通貨の番人FRBは、アクセル(ドル安要因の緩和での資金供給)とブレーキ(ドル高要因の資金回収)を同時に踏むことにより、ハイリスクな超大規模緩和の一時停止およびドル基軸性維持のための通貨防衛を両立してきた。

しかし、ドル防衛の原資(レポオペと通貨スワップの合計残高)は、6月に一時6585億ドルと潤沢だったのに対し、ブレーキを踏み続け4カ月経った足元10月8日にはわずか92億ドル。FRB緩和は10月末までにブレーキが解除され、正味の資金供給額がアクセル全開の月1200億ドルへ再び拡大していくと想定される。
通貨の番人が防衛をあきらめたドルは、3月に一時101.19円までドル安・円高が進行した局面に続き、急落が再開するだろう。とくに大統領選後は、郵便投票でのあからさまな不正続出にもかかわらずバイデン陣営が無理な勝利宣言を断行した場合、「21世紀の南北戦争」が始まりドル急落が加速するかもしれない。

以上、西側の主要3通貨のなかで最強通貨は、ECBが緩和の強弱を巧みにコントロールし通貨価値を保ち続けているEU(欧州連合)のユーロ。8月からユーロ圏のデフレ状態(前年同月比マイナスの消費者物価指数)が復活した点も、将来の通貨価値向上が期待できる要因であることから、ユーロ高の強い追い風だ。
なお、EU加盟国のユーロ以外の通貨では、8月に新型コロナ流行を真っ先に見事終息させた集団免疫国スウェーデンのクローナが、年初来上昇率No.1の座を維持している。夏に続き秋以降も、欧州通貨への熱狂がしばらく続きそうだ。

アナリスト工房2020年10月15日(木)記事

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*)年初来の資金供給額は、各中銀の総資産額(毎月最終時点:日銀が月末、欧州中銀が最終金曜、米連銀が最終水曜)の年初来変化に基づく。
**)年初来騰落率は、米ドルがBloombergドル・スポット指数、それ以外の通貨がBloombergドル・スポット指数と各通貨の対ドルレートに基づく計算値。