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AIIBはドル不要の通貨体制の幕開け

中国主導の開発銀行(AIIB)に欧州勢が駆け込んだ真相

2015年3月25日(水)アナリスト工房

今月15日、米国の政府債務残高の上限は、この日の残高18.1兆ドルで固定化された。以後は、議会が承認しない限り国の借金を増やせない状況にある。いまは米財務省の資金繰りでしのいでいるが、今年10-12月にはそれも限界となる見込み。
国家デフォルトを防ぐには、債務上限の引き上げが必須。しかし、上・下院ともに野党共和党が過半数を占めるなか、その議会合意は一筋縄ではいかない。

繰り返される"米国デフォルト騒動”の発端は、2011年につけたドル最安値(1ドル=75.32円)の大きな原因となった同年8月の顛末。3年半後のいま、政府債務残高はなんと27%も膨れ上がってしまった。
いっそデフォルトをきっかけにしてでも財政規律を取り戻そうと、上限引き上げに強硬に反対する共和党議員(クルーズ上院議員など)がよく目立つ。


そんな深刻な債務問題を抱えるとんでもない基軸通貨国を支えているのが、日・欧の中央銀行による量的緩和(国債などの買い取りでの資金供給)である。
昨年10月末に米国がQE3(量的緩和の第3弾)を終えると同時に、日本はそれを引き継ぎ量的緩和をいっそう強化。大量の日本国債を引き受けた日銀は、昨年1年間の資産額が76兆円も膨らんだ。

おおむね同額の資金が市中へ供給され、国債を売却した投資家(わが国の金融機関・年金基金など)を通じて、国内外の株式と海外の債券へ向かっている。
なかでも市場規模No.1の米国債は、日本勢の保有高が昨年1年間に484億ドルも増加。中国勢の保有が減るなか、わが国のマネーが買い支えている。金融機関の預金と年金制度を危険にさらしながら(米国を買い支える日本と売り崩す中国)。

続いて今月9日、欧州ユーロ圏が本格的な量的緩和に踏み切った。その中核国ドイツは、財政規律が失われ国家破綻を招く危険のある量的緩和に強く反対したが、米国などからの国際世論に押され仕方なく応じた次第だ。
ユーロ圏の中央銀行は、加盟国の国債などを月々600億ユーロ買い取ることで、来年9月まで日本に匹敵する巨額の資金供給を続ける予定。その資金の一部とはいえ大量の額が、金融機関などを経由して米国市場へ向かう。

このように日・欧の緩和マネーを当てにし、米国の政府債務はQE3終了後も膨張を続けてきた。基軸通貨国の国債を他の主要先進国が実質的に引き受ける形で、とんでもない財政ファイナンスが行われているといえよう。
また、それらのマネーで米国債・米国株などを購入する際に生じるドル買い(円売り・ユーロ売り)が、ドル高(円安・ユーロ安)を招く。先進国勢の通貨価値をドルに集中させることで、実力に見合わない基軸通貨高が演出されている

過度で無秩序な基軸通貨の動きは、それを支える日・欧だけでなく世界の国々の実体経済へ悪影響を及ぼす。
ドル建ての多額の債務を抱える新興国あるいはその企業(ブラジル、ロシア、トルコなど)は、ドル高により債務返済の負担が重くなり苦しんでいる。
そんな基軸通貨への新興国勢による反乱が、中国主導の通貨体制への布石となるAIIB(アジアインフラ投資銀行)の立ち上げだ。

ドルを中心とする国際通貨体制は、IMF(国際通貨基金)と世界銀行の政策金融を通じて、各国の政策に深く関与しながら運営されている。うちインフラ建設のための事業ローンを担う世界銀行に対抗するのが、年内の設立に向けて参加募集中のAIIBだ。
これまでAIIBへの参加を決めたのは、アジア・中東27カ国と欧州6カ国の計33カ国。なかにはG7の欧州4カ国がすべて含まれている点に注目したい。

まず今月12日、AIIBがらみの金融取引を取り込みたい英国が参加表明。続いて17日、中国が大規模なドル売り介入に踏み切った直後に、ユーロ圏の主要3国(ドイツ、フランス、イタリア)がそろって参加を決意した。
したたかな中国の介入をきっかけにドルが大きく反落するなか、量的緩和でドルを買い支えることの限界を悟ったユーロ圏は、ドル中心のいまの通貨体制と一線を画するために、中国主導の新たな体制へ駆け込んだと見受けられる。

昨年12月の国際資金決済額に占める人民元のシェアは、ドル、ユーロ、ポンド、円に続き第5位。その前の年の2013年1月(13位)から大きく浮上している。
昨年9月末より人民元とユーロとの直接交換の為替取引が実現し、人民元の取引が急拡大したからだ。中国とその最大の貿易相手の欧州との間では、ドルの決済ならびに資金が不要となった(ドル高が続かない背景に"ドル外し”)。

足元もドル外しとともに人民元の普及が加速しているが、人民元はけっして基軸通貨となる必要がない。
なぜなら、G7の過半数の国々の支持を集めた中国主導の通貨体制の大きな意義は、基軸通貨自体を外せる不要なものとする点にあるからだ。
また、基軸通貨さえなければ、それを買い支える国際協調の役割を背負わされる心配もない

一方、いまのところAIIBへの参加を見送っている日本では、3共済年金(国家公務員、地方公務員、私立学校職員向け)の資金運用比率の見直しが、今月20日に正式発表された。
昨年10月末に見直したGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人:厚生年金と国民年金を運用)に続き、日本国債を中心とする国内の債券は35%へ引き下げ、海外の債券と株式は計40%へ引き上げる。いっそう大量マネーが流出してゆく。
欧州勢との”連れション”の好機を逃してしまった、わが国の先行きが危うい。

株式会社アナリスト工房