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想定為替レート2017年度 主流は105円

保守的見積もりの復活が奏功。業績予想の上方修正への期待

2017年5月10日(水)アナリスト工房

毎年GW前後の為替の話題は、日本企業の"想定為替レート”です。3月を期末とする上場各社の前年度の本決算と今年度の業績予想が、4月下旬から5月半ばにかけて次々と公表されています。なかでも外貨建ての売上が多い輸出企業(自動車、電機・電子部品、機械など)の業績は為替に大きく左右されることから、その予想とともに注目されるのは前提とした想定為替レートです。

企業の業績予想は、貿易取引や在外子会社の外貨建て売上・利益の予想額を円へ換算のうえ、国内取引などの円建て売上・利益の予想額と合算して作成します。その際、外貨建ての予想額を円へ引き直すのに用いるのが、今年度の平均為替相場として会社が見積もった想定為替レートです。

1.4月中旬の市場情勢を重視のうえ「想定は慎重に」が基本

想定為替レートの見積もりは、会計や情報開示のルールには定められてなく、各社の裁量に100%任されています。
(見積もり手法の詳細は各社まちまちとはいえ)一般に、決算発表の数週間前の市場の為替相場をとくに重視のうえ、いくらか保守的に見積もる会社が多数派。また、社内調整のうえで業績予想の策定や情報開示の準備のためには、遅くても4月半ばまでにそのレート水準を決める必要があります。
輸出企業の想定為替レートの主流は、決算発表が本格化する2週間前の市場実勢に基づき、2013〜2015年度まではその水準よりも1〜10円保守的に見積もられていたと推察されます(下記)。

会社が想定為替レートをその決定時期の市場実勢よりも保守的に見積もるのは、市場がネガティブに(株価への悪材料として)とらえる"業績予想の下方修正"をできる限り防ぐためです。
また、決算書に適用される企業会計の「保守主義の原則」では、売上・利益を慎重に計上することを義務づけています。決算書(短信)の表紙に記載される業績予想も、慎重に見積もった保守的な数字であることが大切といえましょう。

輸出企業の場合には、年度平均の為替相場が想定為替レートよりも円高となったとき、外貨建ての売上・利益を円換算した数字が予想を下回ることを通じて、下方修正への要因が生じます。その危険をなるべく避けるために、想定為替レートは保守的な水準で決まるケースが大半。とくに為替の値動きが激しく不確実性の高いときは、見積もりの保守性の度合いが高い(下記2013年度)。

【輸出企業の想定為替レートの推移】 ドルの主流とその根拠は?
 ・2013年度:4月11日の市場実勢100円 → 想定為替レート90-95円
 ・2014年度:4月11日の市場実勢102円 → 想定為替レート100円
 ・2015年度:4月10日の市場実勢121円 → 想定為替レート115-120円
 ・2016年度:4月11日の市場実勢108円 → 想定為替レート110円
 ・2017年度:4月12日の市場実勢109円 → 想定為替レート105円(2節)

ところが、昨2016年度の想定為替レートは、その前の年度までとは逆に、決定時期の市場実勢よりも円安水準ですね(上記)。急速な円高進行時だったにもかかわらず、円安への戻りを期待した挑戦的なレート設定となってしまったのはなぜでしょうか?

その最大の理由は、会社の持続的成長と企業価値向上への指針を定めた「コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針:2015年6月適用開始)」の悪影響と見受けられます。日本企業に市場との対話を促すコーポレートガバナンス・コードの実施に向けて、企業業績改善への圧力を感じている各社は、従来と同様の保守的なスタンスで市場参加者をがっかりさせそうな業績予想が打ち出せなかった可能性が高い。

結果、公表時には市場実勢に負けていた2016年度の想定為替レートは、円高局面のなか早くも業績予想の下方修正を予感させる悪材料でした。
ときには上方修正を期待させる好材料のケース(2013年度)もありますが、市場参加者は好材料よりも悪材料に敏感に過剰反応する「リスク回避度の高い人種」が大半。よって、市場対策のためにも、想定為替レートは保守的に見積もるのが基本なのです。

2.根強い円高リスクに備え、今年度のドルの見積もりは105円

2017年度の輸出企業の想定為替レートは、その決定時期と推察される4月12日の為替市場の実勢109円に対し、105円がドルの主流です(図表)。
(レート設定の手法詳細は各社まちまちとはいえ)トランプ米大統領のドル高への懸念発言(*)、シリア・北朝鮮騒動での"有事のドル売り”を受けて円高が進むなか、大半の輸出企業は市場実勢に対しいくらか余裕をみて想定為替レートを定めたと見受けられます。昨年度の経験則(上記)を踏まえ、保守的なレート設定へ復帰しました。


なお、基軸通貨ドルの想定為替レートを挑戦的に110円と決めた一部の会社は、業況が厳しいなかで何とか微増益あるいは前年度なみの増益率を確保したい意図がみてとれます。今般の決算発表は、想定した為替レートの水準をみるだけでも、今年度の業績先行きを推し測ることが可能なケースが多い。

わが国の輸出企業の縮図をイメージして選んだ図表の12社は、さらなる円高での逆風を想定していること(ドルの前年度実績は108円→今年度想定の主流は105円)により、全体では今年度の予想営業利益が前年度比11.8%減益。
とはいえ、足元の市場実勢(ドルは114円)が想定をはるかに上回っていることから、その状態が続けば減益率は縮小する公算。とくに想定為替レートを円高方向に保守的に設定した会社は、市場がポジティブに(株価への好材料として)とらえる"業績予想の上方修正"が期待できそうですね。

以上、想定為替レートの見積もりは、市場のためにもガバナンス改革に振り回されることなく、従来どおり会計の保守主義の考え方を貫けばいいのです。

アナリスト工房 2017年5月10日(水)記事

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*)「わが国のドルは強すぎると思う。(中略)他の国々が通貨を切り下げているなか強いドルでは、われわれは産業競争力を確保するのが非常に難しい!」
トランプ米大統領(4月12日:米WSJ誌のインタビュー)