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想定為替レート:余裕ない2015/3期

2014年5月12日(月)

「今年のGWは11連休」との声も聞こえますが、企業分析に携わるアナリストは筆者のように休日出勤もあったりしてあまり休めません。GWのシーズンは企業の前期(2014/3期)の本決算発表が集中する時期でもあり、その分析作業で忙しいからです。

今週も、上場企業の前期決算とともに今期(2015/3期)の業績予想が次々と公表されています。輸出立国のわが国の企業業績が為替に大きく左右されるなか、市場の関心を集めているのが業績予想の前提となる"想定為替レート"です。

会社の業績予想は、海外との貿易や在外子会社の事業に伴う外貨建ての売上・利益の予想額を円へ換算のうえ、国内取引などによる円建ての予想額と合算して作ります。
その際に外貨建ての予想額を円貨額へ引き直すために用いるのが、今期の平均為替相場として見積もった想定為替レートです。

今期の輸出企業の想定為替レートは、ドル/円(円相場)は100円、ユーロ/円は135から140円が主流です(図表)。
なかでも基軸通貨に対する為替として特に重要なドル/円は、ごく一部の例外を除くと"100均"ですね。そのレート水準はどのように決まるのでしょうか?


想定為替レートの見積もりは、会計基準などの定めがなく各社の裁量に任されていますが、一般に決算発表の数週間前の市場の為替相場を重視して行ないます。
ドル/円の東京市場終値は、前期末(2014年3月末)が103円に対し、今期の4/11がやや円高の102円。おおむねその時点で、2週間後(4月25日)以降の本決算発表ラッシュに向けて、今期の想定為替レートを保守的に100円と決めたのが上記主流派と見受けられます。

ここで、想定為替レートを保守的に見積もるのは(輸出企業の想定為替レートがその決定時の市場実勢よりもいくらか円高水準なのは)なぜでしょうか?

会社は、市場がネガティブに(会社の株価への悪材料として)とらえる"業績予想の下方修正"をなるべく避けたいからです。
輸出企業の場合は、今期の平均為替相場が想定為替レートよりも円高となったとき、外貨建ての売上・利益を円換算した数字が予想を下回るため、下方修正への要因となります。
このような不本意な事態を招く危険をなるべく避けたいと願い、会社が慎重に見積もる想定為替レートは保守的な水準なのです。

ちなみに、前期の輸出企業の想定為替レート(2014/3期は90から95円が主流)は、その4/11の市場実勢(東京市場終値100円)に対し5から10円も円高水準と超保守的でした。
一方で今期は、想定為替レート(2015/3期の輸出企業は100円が主流)とその決定時期の市場実勢(4/11東京市場終値102円)の差がわずか2円なのはなぜでしょうか?

為替の動きが鈍くなってきたことから、会社が想定為替レートを見積もる際の慎重さの度合いが弱まっているためです。その決定時期における過去1年間のドル/円の値幅(市場の高値と安値の差)は、今期が13円。前期(値幅23円)の約半分に縮小しました。
その点を考慮しても98円前後が今期の想定為替レートの主流となりそうなところですが、前期の大幅増益に続き市場からの今期業績への期待高いなか、輸出企業の大半は市場実勢よりも1ケタ少ない数字を打ち出しづらかったと見受けられます。

結果、今期の想定為替レートは前期の平均為替相場と同水準(ともに100円)。足元の実勢(101円台半ば)とのかい離も小さいため、前期(2014/3期想定為替レートはその決定時期の実勢に対し5から10円も円高水準)のような見積もりの慎重さに伴う大幅増益は、今期は期待できません。

図表の12社は、株式時価総額に占める比率の高い自動車・電機業界(部材を含む)を主体に、わが国の輸出企業全体の縮図をイメージして選びました。最後にそれを題材に、為替の企業業績への影響を説明します。

12社全体の前期の営業利益はその前の期に対し59.8%増、利益増加額に占める為替要因の割合は99%(*)。もちろん12社の間での格差はありますが、その全体では前期に大幅増益となった理由のほぼすべてが為替の円安による効果です。
ただし、前期の平均為替相場は想定為替レート決定時期の市場実勢(100円)に等しいことから、円安効果はその水準よりも円高方向に大きな余裕をもって想定為替レートを打ち出したことによるものといえましょう。

一方で今期は、想定為替レートがその決定時期ならびに足元の市場実勢に対しほとんど余裕がないため、前期のような見積もりの超慎重さに伴う円安効果は期待できません
これもまた上記12社の間での格差はありますが、その全体では今期の予想営業利益は前期比わずか3.1%増(*)。
円安推進してきたアベノミクスが転換期を迎えるなか、為替次第で決まる輸出立国ニッポンの企業業績は伸び悩みが懸念されます。

株式会社アナリスト工房

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*)前期(2014/3期)の営業利益の増加額に占める為替要因の割合、今期の予想営業利益の伸び率は、図表の12社各社のIR資料、日本経済新聞の記事に基づく。