欧州の債務危機が想定よりも早く深刻化している。
5月のギリシャ議会選挙では、財政改革を推進してきた与党が大敗したため組閣できず、6月に再選挙を余儀なくされた。その間にスペインで、大手銀行バンキアが行き詰まり、不動産バブル崩壊に伴う不良債権問題が深刻化した。
同国第4位のバンキアは、5月9日に国有化された後、前期業績を3億€の最終黒字からスペイン史上最大の30億€の赤字へと下方修正した(むしろ”粉飾の更正”との印象だ)。ユーロ圏諸国からスペインへ最大1,000億€の支援が決定しているが、同国全体で推定1,800億€の不良債権には全く足りない。
解決には程遠い欧州情勢を踏まえ、為替市場のユーロ相場は1€当たり99.7円と低迷を続けている(6月29日現在)。日本企業の今期の「想定為替レート」(102から105円が中心)を早くも下回る。悪材料が尽きない中、いよいよ購買力平価での理論価格91.7円(「購買力平価1」参照)も視界に入ってきた。
共通通貨ユーロの為替理論価格には、それが複数の通貨に分裂した場合の影響が反映されていると考える。行き詰まった国々がユーロから脱退し独自通貨に切り替えた場合、債務状況の芳しくない国の通貨は自ずと価値が切り下がってゆく。ユーロの実勢を下回る理論値には、独自通貨への復帰後の切り下げ率が織り込まれている可能性があるからだ。
その考え方に基づき今回は、ギリシャとスペインがユーロから離脱した時、復活する独自通貨(ドラクマとペセタ)がどれだけ下落するかを推定してみよう。
ユーロは加盟17カ国の共通通貨として使用されている。各国のユーロの使用量ならびにその通貨価値への貢献は、概ねその国の経済規模に連動する。そこで、まずはユーロの通貨価値への各国の寄与がGDPに比例すると仮定しよう。
ギリシャとスペインは合わせて、2011年のユーロ圏全体のGDPの13.7%(=2.3+11.4)を占めるため、1€当たりの実勢価格(99.7円)の13.7%を構成していると解釈できる(図表)。
次に、実勢よりも8.0%低い理論価格(91.7円)は、通貨価値への2カ国の寄与の低下により実現するとしよう。そしてこの時、ギリシャとスペインがユーロから脱退したとすると、両国の独自通貨は平均58%下落する(=8.0÷13.7)。17カ国の共通通貨の価値低下をわずか2カ国で引き受けるため、両国の離脱後に復活する独自通貨の市場価値は大きく損なわれるからだ。
脱退時の通貨切り下げとその後の為替市場での取引を通じて、ユーロから両替されたドラクマとペセタは価値は急落してゆくと推定する。
一方、残留する15カ国の共通通貨ユーロは、理論価格(91.7円)への下落で損なった価値をギリシャとスペインと共に吐き出すため、2カ国の離脱時にはひとまず現実勢(99.7円)にまで回復するであろう。
ただし間髪入れず、ドラクマとペセタの価値毀損の影響がユーロに跳ね返ってくる。欧州の中央銀行や主要国のドイツとフランスの銀行はギリシャとスペイン向けの債権(国債など)を莫大に保有しており、それらが不良債権化するからだ。
もちろんユーロ建ての債権ではあるが、2カ国の返済能力を鑑み、ドラクマとペセタの下落率に合わせ債権額の減額を余儀なくされると想定する。
例えギリシャとスペインが退場しても、ユーロ圏には両国向けの不良債権が居残る。その価値の目減りとともにユーロは低迷を続けるだろう。
駆逐された”悪貨”が”良貨”を駆逐しないためには、「トカゲの尻尾切り」でのその場しのぎなく、現在の加盟17カ国全体での抜本的な経済・財政改革での対応を期待したい。
2012年6月29日