ギリシャが露わにしたユーロの欠陥

共通の通貨制度にこだわる限り、多重債務国への追貸しは終わらない

2015年7月27日(月)アナリスト工房

今月17日、ユーロ圏とIMF(国際通貨基金)はギリシャへ最大860億ユーロの支援を決定。続いて20日には、同国の銀行営業が3週間ぶりに再開。当面の資金繰り確保と金融システムの復旧により、ギリシャ債務問題はひとまず収束しました。

ギリシャの公的債務はわずか3千億ユーロですが、そのデフォルト(債務不履行)に賭けるデリバティブの残高は1兆数千億から100兆ユーロと推定されます。

もしも同国がデフォルトすると、デリバティブの大量の売持ちを抱えている欧米の一部の金融機関などは巨額損失を被ります。その場合、08年9月のリーマンショックに匹敵する世界金融危機が懸念されていたのです(金融危機への引き金を握るギリシャ)。

幸いギリシャは、その債務問題が始まった09年10月以来、デリバティブ損失の対象となるような”正式なデフォルト"にはまだ至っていません。

ギリシャ国デフォルトを無事回避したのに、欧州通貨ユーロの反発力は鈍い。

今月5日のギリシャの国民投票で「緊縮財政に反対」との結果となり、そのユーロ圏離脱とデフォルトへの懸念高まった翌6日の終値が1ユーロ=1.106ドル。足元の実勢もおおむね同レベルで低迷しているのはなぜでしょうか?

ユーロ圏とIMFによる同国への金融支援は、今回で早くも3度め(10年5月:支援額1,100億ユーロ、12年2月:支援額1,300億ユーロ)。すなわち、問題がまったく解決されないまま、数年足らずでの先送りが続いているからです。

ギリシャのGDPはピークの08年からなんと26%も落ち込んでおり(14年時点)、債務の返済能力は大きく低下しています。観光業以外にめぼしい産業がないため、成長回復はまったく期待できません。

このままではユーロ圏が主体の債権者は、ギリシャ国デフォルトでのデリバティブ損失に伴う金融危機勃発を防ぐために、いつまでも追貸しを続けてゆかなければならない状況といえましょう。たとえ債務カットを行ったとしても同様です。

そもそも、欧州共通の通貨制度は大きな無理があります。

一般に、世界の国々の通貨が互いに異なるのは、それぞれの国の実情に合った金融・通貨政策を行なう必要のためであり、それらの政策が効力を発揮するには国ごとの独自通貨であることが必須条件だからです。

例えば、ある国が競争力の低下とともに輸出が落込み経済情勢が大きく悪化したとしましょう。

経済回復のための政策としては、国の中央銀行が政策金利を引下げるとともに、為替市場に介入し国の通貨を売りその価値を切下げることをよく行います。

利下げが消費と投資を促し、通貨切下げが輸出の競争力を取戻す原動力となるからです。

ここで、利下げと通貨切下げを行う必要があるのは、世界のなかで競争力低下した国だけです。他の国々に対する競争力回復が目的なので、その国の金利・通貨の水準だけが下がらなければ意味ありませんからね。

よって、国の金融・通貨政策が効力を発揮するためには、その国の通貨が独自のものであることが必須なのです。

ところが、欧州の共通通貨ユーロの政策金利は、ECB(欧州中央銀行)が加盟19カ国全体の情勢を踏まえ、その水準を決定します。その1つだけの金利水準は、主に大国のドイツとフランスの情勢を色濃く反映することはいうまでもない。

また為替市場では、その主要2カ国のファンダメンタルを重視して、ユーロの為替レートがただ1つ決まります。

一方、ギリシャを始めこれまで債務危機で行き詰まった欧州の多重債務国(他にアイルランド、ポルトガル、スペイン、キプロス)は、ユーロが自国で流通している通貨なのに、その金融・通貨政策ができません。

これらの国々は、対外債務の返済原資を稼ぐために経済回復したくても、利下げが不可能です。輸出競争力を取戻したくても、通貨を切下げられません。

ユーロ圏内での債務と貿易が主体にもかかわらず、圏内でただ1つの共通通貨に縛られているからです。

以上、国の起死回生に必要な金融・通貨政策は、その国独自の通貨でない限り不可能なのです。

最後の切り札が使えず回復できないユーロ圏の多重債務国は、このままでは金融支援をいつまでも要求してゆくでしょう。

経済格差の大きな19カ国に1つの共通通貨の適用は、大きな無理があるのです。

債務問題で苦しむ国々が健全な経済を取戻すためには、共通通貨ユーロを廃止し1998年以前のように各国の独自通貨に復帰する、あるいは19カ国を1つの国家に統合することが必要と考えます。

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