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中国の為替介入と人民元改革の狙い

2014年3月24日(月)

「止まりさえしなければ、どんなにゆっくりでも進めばよい」
-孔子(儒教の開祖:紀元前552-479年)

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中国の人民元は、通貨当局がその為替相場の形成に強く関与している。足元の市場の人民元相場は「1ドル=6.22元」。購買力平価に基づく理論価格(1ドル=3.59元:*)に対し、なんと42%も元割安な状態にある。
本来であれば対ドルでの元買いの大きな需要により元高への強い圧力が働くが、実際にはなかなかそうはいかない。
中央銀行(中国人民銀行)が元売り・ドル買い介入を継続的に実施しているため、為替市場での元高進行のペースはゆっくりだからだ。

今年1月に一時「1ドル=6.04元」の人民元最高値をつけた後は、為替介入がいっそう積極化され、元はそれまでの緩やかな上昇から反落へ転じる。
3月17日に人民元相場の日々許される変動幅が拡大したとたん(1%→2%:**)、元の下落に拍車が掛かった。
中央銀行は「市場の需給を土台とする管理された変動相場制度を構築することが狙いだ」(人民日報3月16日号)と公表しながら、市場の需給に反する元安方向へ誘導するのはなぜか?

今般の人民元売り介入の強化は、海外からの投資マネーの流入防止と、自国の輸出競争力の確保が目的と見受けられる。


まず、今年1月に人民元が最高値を更新した背景には、通貨の弱含んでいる他の新興国(ブラジル、インド、インドネシアなど)を離れて中国へ向かった、海外の投資マネーがある。
マネーが流入している国は通貨高・証券高を謳歌できるが、流出に転じた国は通貨安での輸入物価上昇に伴う過度のインフレと証券市場のバブル崩壊を招く。
気まぐれなマネーに翻弄された国々の教訓を踏まえ、中国は海外からの投資のリターンを為替面で損なわせることによりマネー流入に歯止めを掛けようと、大規模な元売り介入でもって自国通貨をいくらか反落させたのである。

また中国の今年2月は、輸出額が前年同月比18%減少したことにより、貿易収支が230億ドルの赤字(前年同月は148億ドルの黒字、前月は320億ドルの黒字)に転じた。
海外からの証券投資が原則禁止されている中国では、投資マネーは輸出代金の受け払いを装って流入するケースが多い。介入強化により、偽装輸出でのマネー流入も阻止されたため、それまで底上げされていた輸出額が落ち込んだ。
そこで、わが国と同様に「輸出立国」の中国は、輸出産業の競争力をテコ入れしようと為替介入を継続している次第だ。通貨当局のシグナルをみた市場参加者も元売りに追従し、足元の人民元は1年1カ月前の元安水準まで戻した。

中国の為替介入は、市場参加者の理想とする市場の要件(市場原理が機能し公正で透明であること)に合わないが、企業の貿易や国の経済に大切な通貨の価値を安定化させる大きな長所がある。
基軸通貨のドルに対する人民元の為替相場は、主要通貨の円とユーロのように乱高下することなく、緩やかな元高基調で安定的に推移している(図表)。今年1月の最高値から足元までの元の反落幅は、わずか3%に過ぎない。
為替の安定性が好感され、L/C(信用状)を使った貿易の資金決済での元の世界シェアは、すでにユーロを抜き第2位へと浮上している(***)。

2009年に人民元の国際主要通貨に向けての計画が打ち出され、現在は周辺国との貿易で元の活用が急速に広まっている。
そして将来は、2020年頃までに元相場の形成を市場の原理に委ねる基本方針である。理論価格に対し著しく割安に据え置かれている状態は、足元の元反落が一段落した後、たっぷり時間をかけて少しずつ是正されてゆくと想定される。
長期計画の工程に沿った人民元改革は、先進国の市場参加者からみればゆっくりとしたペースかもしれないが、孔子の教えどおり止まることなく着実に進んでいるといえよう。

遠い将来に主要通貨となって以降も、乱高下する現在の主要3通貨(円・ドル・ユーロ)の道を歩まず、人民元独特の強み「貿易に適した安定性の高い為替」をしっかり保って頂きたい。

株式会社アナリスト工房

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*)購買力平価に基づく1ドル当たり3.59元(=16.6元/4.62ドル)の理論価格は、英エコノミスト誌2014年1月25日号の「ビッグマック指数」を用いた。
**)2014年3月17日以降の人民元相場は、中央銀行(中国人民銀行)日々「基準値」を定め、その上下2%の範囲内での相場変動が許されている。それまで(2012年4月以降)は、基準値の上下1%の範囲内での変動しか許されなかった。
***)2013年10月のスイフト(国際銀行間金融通信協会:SWIFT)の調査によると、L/C付き貿易決済での人民元の世界シェアは8.7%で、米ドル(81.1%)に次ぎ第2位。ユーロ(3位:6.6%)、円(4位:1.4%)を上回る。