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購買力平価2(TPPで超円高へ)

前回は、自由経済の下では世界中が一物一価であるべきとの考え方に基づき、バーガー商品の価格から求める為替の理論価格「ビッグマック指数」を紹介した。市場参加者もその指数を強く意識しており、円相場は基本的には理論価格に沿って形成されていることを説明してきた。

物価で然るべき為替相場を考える購買力平価は、政治・政策の分野でも活用されている。「中国は”元”を不当に安く据え置く”為替操作国”だ」と米国が非難する背景にも、ビッグマック指数がある。
2012年1月中旬の同指数による為替の理論価格が「1$=3.67元」に対し、当時の市場実勢は「1$=6.32元」。中国当局の大規模な$買・元売介入により、市場の元は42%も割安な状態となっている。
ファンダメンタルから著しく乖離した元相場は米中間の貿易不均衡の大きな原因であり、中国への元切り上げへの圧力は今も高いことを付け加えておく。

今回は、物価で考える購買力平価の枠組みを、将来の政策が為替に与える影響へと展開してみよう。我が国で話題となっている(1)消費税の増税、(2)TPP(環太平洋連携協定)への参加は、それぞれ円高それとも円安への要因だろうか?
これらの議論が活発化し始めた2011年7月下旬、ビッグマック指数での円相場の理論価格は、「1$=78.6円(=320÷4.07)」で市場実勢と同レベルであった。当時の為替を出発点にそれぞれ考えてみよう。

(1)消費税の増税 

我が国の消費税(現在5%)が将来10%に引き上げられたとしよう。増税が消費者に全て転嫁された場合、日本のビックマックは現在の320円から335円(=320÷1.05×1.10)に値上がりする。新たな為替の理論価格は「1$=82.3円(=335÷4.07)」。よって消費増税は、日本の物価上昇を通じて、概ね税率上昇分(5%)だけ若干の円安の要因となる。このように購買力平価によると、その国の通貨は物価の上昇率だけ下落する。
ただし実際には、フード業界は価格競争が厳しいため、増税分が小売・卸売の段階で吸収され消費者にさほど転嫁されない可能性もある。その場合には、円安への効果は限定的となろう。


(2)TPPへの参加

TPPの主旨は、その加盟国同士の貿易において、全品目の関税を撤廃することにある。日本のビックマックの原材料では、100%輸入の牛肉と小麦が関税0%の大きな恩恵を受ける。
想定されるシナリオとして、競合する牛丼チェーン店が並盛りの店頭価格を200円まで値下げしたのに対抗し、ビックマックも同価格まで引き下げられたと仮定しよう。新たな円相場の理論価格はなんと49.1円(=200÷4.07)。
よってTPP参加は、関税撤廃での原材料コストの低下が消費者に還元されることにより、日本の店頭価格の値下げ率(38%)に連動して大きな円高への要因となる。物価の下落率に見合って、その国の通貨価値は上昇する。

ちなみに、ここで想定したビックマックの200円は、現在でも年に数回実施されているキャンペーン価格に等しい。今年度になってキャンペーンの回数が増えていることからも、将来の通常の店頭価格として200円前後が濃厚と考える。

したがって消費税の増税は、それが消費者価格に全て転嫁された場合でも、円安への効果は税率の上昇程度に限られる。一方でTPPへの参加は、関税撤廃に伴う原材料価格の破壊が消費者価格の破壊へとつながり、超円高への推進力となる。
この2つの政策が共に実現した場合、日本のビッグマックの新価格は上記想定に基づくと210円(=200÷1.05×1.10)であるから、円相場の理論価格は51.6円(=210÷4.07)。
増税よりもデフレのインパクトが遥かに大きいため、長期的には「1$=50円台」の時代に向けて円高トレンドは将来も続きそうだ。

2012年3月8日
株式会社アナリスト工房