トルコ発、ドル離れ国際通貨体制へ

新興国勢のドル債務危機を救う、中国主導の金本位制への準備は順調!

2018年8月22日(水)アナリスト工房

アメリカと外国勢とのし烈なバトルは、真の敵が相手国ではなく実は国内の反トランプ抵抗勢力であるケースが大半。経済バトルでは貿易黒字国からの対米投資マネーで潤い続けたい金融筋、軍事バトルでは米軍が展開する世界各地の軍事利権を失いたくない軍産複合体が、トランプ政権の典型的な真の敵です。

とくに通貨リラの急落を引き起こしたアメリカの対トルコ制裁と屈しないトルコの反撃は、経済・軍事の両面から世界の秩序を一変させる可能性が高い

8月10日、トランプ米大統領がトルコ製鉄鋼の関税を50%へ倍増することを承認した直後、低迷していたトルコの通貨リラがいっそう急落。翌週13日のリラの対ドル為替レートは、一時なんと年初来48%安の水準まで落ち込みました。

リラ安に伴い返済が厳しくなるトルコの金融機関への最大の貸し手の欧州勢(スペイン、イタリア、フランスの銀行)の通貨ユーロも、トルコと同じ新興国勢の通貨(中国の人民元など)も、軒並み年初来安値を更新。アメリカとトルコのバトルの悪影響は世界のさまざまな通貨へ広がっています。

アメリカはトルコ経由で世界に対しいったい何をしでかしたのでしょうか?また、トルコ発でいま起こっていることは、世界に国々へ将来どのような影響を及ぼすのでしょうか?

▼西側の軍事同盟NATOを脱退したい、米トルコが絶妙な共演バトル

アメリカが鉄鋼輸入先のなかでシェア6位にすぎない貿易赤字国トルコだけを追加関税制裁した口実は、2016年の"トルコ軍事クーデター未遂"に関与し拘束されている米国人ブランソン牧師を釈放せよとの要求がトルコに拒否されたこと。

しかし、当時ロシア陣営へ走ったトルコを引き止めようとクーデター騒動を引き起こしたのは、現地の軍事拠点(インジルリク米軍基地など)を失いたくない軍産複合体の息がかかった一部の勢力。なので、米政権がそんな反トランプ抵抗勢力の釈放をトルコ政府へ求めたことは、もちろん拒まれるのが前提です。

トランプ政権の対トルコ制裁は、米欧軍事同盟"NATO(北大西洋条約機構)"の加盟国のなかで兵員数がアメリカに次ぎNo.2のトルコに対し、NATO脱退を促すことが狙いとみてとれます。

なぜなら、深刻な米財政赤字を削減したいトランプ大統領は、欧州と中東をロシアにまかせ米軍を撤退させたい意向を繰り返し表明していますからね。そのためには兵力2位のトルコが脱退すれば、兵力と費用負担が圧倒的No.1のアメリカも退きたいなか、NATOが自然消滅し米財政赤字が改善できる可能性が高い

7月のNATO首脳会議は、2024年までに加盟国の大半がGDP比2%の防衛費負担に向けて努力することを確認したのにとどまりました。全加盟国が最終的にはGDP比4%負担せよと主張するトランプ氏と他のNATO諸国との深い溝は、けっして埋まりそうにないのが実情(下記)。

「歴代の米大統領は、ドイツなどNATO加盟国に対し対ロ防衛費をもっと負担せよと、長年むなしく試みてきた。NATOが支払ったのは費用のほんの一部にすぎない。アメリカは、何百億ドルも支払い欧州を援助してきたが、巨額の貿易赤字を被ってしまった。

しかもドイツは、仮想敵国ロシアから新しいエネルギー.パイプラインを敷くのに何十億ドルの支払いをはじめた。そんなことは容認できない!すべてのNATO加盟国は、GDP比2%の防衛費負担への約束を守り、最終的にはその水準を4%へ引き上げるべきだ!」

トランプ米大統領(Jul 12th 2018)Twitter

そもそも、欧州の中核国ドイツが欠かせない資源(パイプラインを通じて供給される天然ガス)のロシアへの依存度を高めるなか、いまのロシアは欧州の仮想敵国ではないと解釈できることから、対ロ防衛を主目的とするNATOの意義はすでに消滅したと見受けられます。

トルコのエルドアン大統領は、アメリカからの経済制裁が決まった8月10日、西側の同盟から新たな同盟相手(中ロなど東側)のへ走る姿勢をすかさず表明しました。しかもその声明文は、エルドアン氏が重大な外交指針を異例に素早く決断のうえNYT(ニューヨークタイムズ)誌へ寄稿し、なんと制裁決定日の記事締め切りに間に合ったのです(下記)。

「アメリカがトルコの主権を尊重せず理解を示さなければ、米トルコの同盟関係は危機に直面するだろう。(中略)独善的で相手国を尊重しないアメリカの態度が改善しなければ、わが国は新たな友好と同盟の相手を探す」

トルコのエルドアン大統領(Aug 10th 2018)NYT誌への寄稿

ロシアと2年前に和解し親ロへ転向したトルコはすでに西側同盟からの離脱への準備が進んでおり、欧州と中東から米軍を撤退させたいアメリカは制裁の名目でトルコを東側へ後押ししていると見受けられます。ともに親ロ政権の米トルコは、まるで同じ目的に向かって息をピタリと合わせているようですね。

トルコ政府は15日、米国製自動車への関税を120%へ倍増させる報復措置のうえ、リラ売り取引を扱う銀行に対しその額を銀行資本の25%に制限。急激なリラ安にひとまず歯止めがかかりました。なかでも妙にテンポの良い関税上乗せ合戦は、これまた息のピタリと合った米中のと同じ光景ですね。トルコに続き、トランプのアメリカも東側へ走るかもしれません。

▼新興国勢のドル外しと自国通貨決済のために、中国は通貨価値を金連動

リラの過度の急落がひとまず落ち着いたとはいえ、トルコをはじめ新興国勢の通貨は低迷を脱却できていません。新興国発の世界金融危機へのリスクが後退しない最大の原因は、反トランプ抵抗勢力FRB(米連邦中銀)の執拗な金融引き締め策です。

世界からの対米投資が続くようFRBは、連続利上げでドル金利を急上昇させるとともに、過去の量的緩和で買い取った米国債などを売却し市場からドル資金を回収すること(世の中のドル資金減少を通じて1ドルあたりの通貨価値を高める要因)により、不自然なドル高を演出し続けています。

FRBの利上げと資金回収での引き締めの悪影響を受けて、民間部門の資金調達をドル借入れに依存する新興国勢は利払い負担急増と資金調達難により行き詰まってきたのです(貿易戦争の超ドル安要因はイラン発)。

理不尽なドル高により締め上げられた新興国勢は、7月のBRICS首脳会談が加盟国(中ロなど)の間で受け払いする通貨をドルから自国通貨へ急いで切り替えようと合意。アメリカの制裁を受けたトルコも、BRICS勢と一緒に貿易でのドル外しと自国通貨決済を加速していく可能性が高い(下記)。

「露トルコの貿易で双方の自国通貨を使用することは、ロシアとトルコの大統領が定めた課題であり、数年前から取り組んできた。

(中略)トルコやイランに対してだけでなく、ロシアは中国との間でも相互の通貨での決済をすでに実施している。基軸の準備通貨ドルへ過度に依存してきた由々しき事態は是正されてゆき、ドルは基軸通貨としての役割を終えるだろう」

ラブロフ露外相(Aug 14th 2018)トルコでの記者会見

ちなみにトルコは、アメリカから制裁を受けてドルを受け取れないイランとの貿易でも双方の自国通貨(リラとリアル)を用いることをすでに合意済み。ドルを外し自国通貨での貿易や投資を積み重ねることにより、やがて新興国勢は過度のドル借入れ依存から脱却できる日を迎えるでしょう。

その前に大切なのは、各国が貿易や投資でそれぞれの通貨を安心して受け払いできるよう、通貨価値を安定させることです。

新興国勢の経済的リーダー中国は、通貨人民元の価値を金塊で裏づけることで安定させるリハーサルを4月からスタートした模様。なぜなら、4月23日から8月15日までの約4カ月間、元の対ドル為替レートが9.2%も急落したにもかかわらず、元建ての金価格はおおむね1オンス=8,300元を中心に上下わずか1.2%の狭いレンジ(1オンスあたり8,200元から8,400元)で安定的でしたからね(図表)。

なお元建ての金価格は、中国人民銀行(中銀)がドル安・人民元高へ是正しはじめた8月16日にはいったん上記レンジから元高・金安へ外れました。しかし、速やかに修正が進み翌週21日にはレンジ内へ復帰しています。人民元のレート水準は通貨当局がきめ細かくコントロールしているのです。

中国が元の金価格連動に挑むのは、いまの新興国勢の代表通貨の価値を金塊で裏づけ安定させる目的だけでなく、元を次の基軸通貨の座へ浮上させる狙いももちろんあるはずです。

金連動の元が基軸通貨となった場合には、先進国勢も巻き込みながら金本位の国際通貨体制が久々に復活します。そのとき、対中貿易を続けたい各国の通貨も金価格連動での価値安定を促されるでしょう。備えあれば憂いなし。

アナリスト工房 2018年8月22日(水)記事