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債券市場発 金融危機への最終警告

量的緩和を再開する欧州、緩和推進を渋る米国のヤバい舞台裏

2019年9月20日(金)アナリスト工房

世界の株価に大きな影響を及ぼす米国株は企業の自社株買いが支え、日本株は日銀が大量に買い取り続けるなか、市場の株価指数は経済の良し悪しと方向性を測るモンサシとしての役割を失って久しい。
一方、主要国の揺らぐ国債市場を取り巻く危機対応型のさまざまな金融政策は、世界経済がトランプ貿易戦争のなかすっかり疲弊し金融危機の一歩手前にある実態を、次々と浮き彫りにしはじめました。

最も深刻なのは、次の金融危機を招く最有力候補ドイツ銀行を抱える欧州で、11月から量的緩和(中央銀行が国債などを大量に買い取り市場へ資金供給する金融緩和策)が再開するとんでもない舞台裏です。

欧州最大手のドイツ銀行は、さきの金融危機リーマンショックを引き起こした米証券会社リーマンブラザーズよりもはるかに規模が大きく、デリバティブで巨額の含み損を抱えています。すでに実質破たん中のドイツ銀行が抱え込んだデリバティブ取引の総エクスポージャ(リスクにさらされている元本の総額)は、なんと49兆ドル(18年末時点)。

なかには互いにヘッジ関係の取引があるとはいえ、これまでドイツ銀行のデリバティブ損失に備え準備された資金はわずか11億ドルにすぎず(19年8月時点)、2〜3ケタの資金不足と見受けられます。
以後、資金が十分に追加されずデリバティブ決済ができなくなった場合には、損失がデリバティブ取引の相手(米欧の大手金融機関など)へ次々と波及し、世界金融危機が本格化するでしょう。

そんな差し迫った状況のもとECB(欧州中銀)は、昨年12月末に終えたばかりの量的緩和を早くも今年11月1日から再開することを決定(9月12日発表)。量的緩和の第2弾でECBは、域内先進国の国債を中心に月200億ユーロ(2.4兆円)の債券を買い取ります。欧州の緩和規模は、日銀量的緩和(足元の日銀の金融商品買い取り規模は年22兆円:*)を上回る見込み

「ECB(欧州中銀)は、ユーロをとても強いドルに対し切り下げることを試み成功しつつあり、アメリカの輸出に打撃を与えている」
トランプ米大統領(Sep 12th 2019)Twitter

ただ、市場で債券を買い取るECBの量的緩和には、ドイツ銀行のデリバティブ資金決済を助け金融危機を未然に防ぐ効果が期待できないのが実情。
ECB量的緩和再開の主な目的は、トランプ貿易戦争で疲弊した実体経済のテコ入れと推察されます。ECBがユーロを大量に刷り債券買い取り代金を市場へ支払うことは、通貨供給量が急増するユーロの価値下落への要因。貿易戦争で落ち込んだ輸出をユーロ安による価格競争力で改善させる狙いがみてとれます。欧州はアメリカに対し通貨安競争を挑みはじめたのです。

▼米国債100年物での債務リストラが、ドル切り下げへの切り札

一方、中国に続き欧州から通貨安の戦いを挑まれたアメリカでは、信用不安に伴い金融機関の資金調達難が深刻化しており、市場とトランプ政権から追加緩和への催促が一段と強まってきました

9月17日からFRB(米連邦中銀)傘下のNY連銀は、金融機関が米国債などを担保に資金調達する”GCレポ”の市場で、1日あたり最大750億ドルの翌日物の資金供給(オペ)を実施中(9月20日現在)。
金融機関の保有債券を担保に翌日物資金供給を毎日続けるNY連銀のレポオペは、債券を買い取り資金供給する量的緩和とおおむね同じ効果があることから、量的緩和再開への観測が浮上しはじめました。

資金調達に苦しむ多数の金融機関からの申し込みが殺到し、GCレポ翌日物金利は一時なんと10%まで暴騰し今世紀最大の水準を更新(9月17日)。破たんを防ぐために資金繰りを確保したい金融機関勢は、FRBに対し量的緩和の再開だけでなく大幅な利下げも非常に強く催促しているようですね。
なお、金融機関の資金調達難の舞台裏では、レバレッジドローン(金融機関の低格付け企業への貸出債権)とそのCLO(ローン担保証券)の市場悪化を受けて、貸出債権の売却がままならなくなった実態が観察されます。

信用不安による金融危機への懸念が高まる一方、9月18日のFRBの決断は景気が先行き悪化した場合に備え、政策金利を1.75%〜2%へわずか0.25%引き下げるだけの「予防的利下げ」。
中欧との貿易戦争と通貨安競争のなか利下げ幅0.5%以上かつ継続的な利下げ局面への突入宣言を望んでいたトランプ大統領は、パウエル議長のFRBを「ガッツもセンスもビジョンもなく、意思疎通が恐ろしいほど下手だ」とツイッターで強く非難しました。

貿易不均衡是正のためにドルを切り下げたいトランプ政権と、黒字国からの米国債などへの投資マネーで潤い続けるためにドル高基調を保ちたい金融筋の親玉FRBは、ドルの価値に関する考え方がまったく正反対なのです。アメリカの金融政策がままならないなか米政権は、強引に政策金利をゼロ%以下に引き下げたうえで、政府債務をまかなう米国債の借り換えを検討中(下記)。

「FRBは政策金利をゼロ%あるいはマイナス水準まで引き下げ、アメリカは政府債務の借り換えに着手すべきだ。利払い負担を大幅減少させるのと同時に、満期までの期間を大きく延ばすことができるかもしれない」
トランプ米大統領(Sep 11th 2019)Twitter

従来の米国債が満期まで最長30年に対し、米財務省は来年からの50年債、以後の100年債の発行に向けて計画を策定しはじめました。ムニューシン米財務長官は9月12日、50年債について「来年の発行を真剣に検討中だ」(CNBCインタビュー)、「50年債が上手くいけば、100年債を発行する可能性がある」(NYTのイベント)と超長期債発行への強い意欲を表明しました。

アメリカは国家デフォルトへの準備をはじめたのかもしれません。オバマ前政権のときからデフォルト騒動と政府機関閉鎖を繰り返してきたアメリカが米国債の借り換えを実行するときは、大統領がデフォルト宣言のうえ、日中などの債権国が保有する従来の米国債を新たな超長期債と交換するよう促されると想定されます。

債務の借り換えは、1835年の薩摩藩(いまの日本の鹿児島県)が商人たちから借りた500万両(2500億円)の返済期日を2086年まで延長し実質踏み倒したのと同じ手口です(下記)。

「借金すべてを250年の年賦で返す。証文をそのように書き改めるゆえ、古借証文をいったん預けてもらいたい。(中略)応じぬ者には支払わぬと言えば、拒否する者はまずおるまい。(中略)こうした方法でしか全額返済することはできぬのだ」
安部龍太郎『薩摩燃ゆ』小学館(2004)

超長期への債務借り換えにより借金を棒引きにした薩摩の歴史が21世紀のアメリカで再現した場合には、返済期日延長での債務リストラがデフォルトとみなされます。そのとき米政府債務の軽減とともに、トランプ政権の狙いどおりデフォルト国の通貨ドルが劇的に切り下がるでしょう。

アナリスト工房 2019年9月20日(金)記事

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*)日銀が量的緩和で買い取った金融商品の19年8月末の保有高は、前年同期に対し22兆円増(=国債16+ETF6)。すなわち、足元の日銀量的緩和の規模は年22兆円で、ピークの16年8月末時点の緩和規模(年94兆円(=国債91+ETF3))からすでに77%縮小しました。