大凶 ヘッジ付き外債投資ブーム再開

為替差損が積み上がる、理不尽なヘッジで負ける歴史は繰り返すな!

2019年10月31日(木)アナリスト工房

日本の機関投資家による「素人運用」の実態が話題になった海外金融商品”ヘッジ付き外債投資”は、わずか2、3年前に投資家たちが軒並み想定外の損失を被ったにもかかわらず、いま再びブームとなっている。

2016〜17年にわが国の金融機関や保険会社の間で流行したヘッジ付き外債投資は、米国債などの外債(海外債券)に為替ヘッジのうえ投資する金融商品

とはいえ、外債への投資期間が数年程度の中長期に対し、為替ヘッジが満期まで一括でなく1〜3カ月ごとに債券時価と等しい金額で継続されていく。「ヘッジ付き」との名称にもかかわらず、その正体は円利回りが満期直前まで不確定なハイリスク商品だ。

そんなとんでもないヘッジ付き外債投資が再びブームとなったのは、今年8月最終週に日本国債10年物利回りが過去最低水準(16年7月に付けた−0.29%)まで再び低下した悪影響を受けて、機関投資家の確定利回りで運用するための資金がこの金融商品へ本格的に向かいはじめたことによる。

日本の金融機関や保険会社は、確定利回りで運用すべき資金をハイリスク投資へ振り向ける、とんでもない過ちに再び踏み切った。

ドル円(円相場)の為替ヘッジを付けて米国債などのドル建て債券に投資する日本勢のヘッジ付き外債投資が活発なとき、ドル円の為替レートがなんと米国債利回りに連動する傾向が観察される。

今年8月最終週からの米国債10年物利回りとドル円は、互いの相関関係を表すR2(相関係数の2乗:0.5以上が強い相関の目安)がかなり高水準であることから、連動性が非常に強い(図表)。その理由は次のとおり。

NY市場の日次終値に基づきアナリスト工房作成

ヘッジ付き外債投資の開始時には、日本の投資家が外債購入に必要な円売り・ドル買い(円をドルへ両替)と同時に、外債の為替リスクをヘッジするための円買い・ドル売りの為替予約(将来ドルを円へ両替する取り決め)を契約する。この段階では、外債購入のための円売り・ドル買いと為替予約での円買い・ドル売りは、金額が互いに等しいため、市場の為替レートに影響しない。

一方で投資開始後は、米国債など外債の市場価格の変化に応じて為替予約の金額を増減させることが、為替レートに大きな影響を与える。

米国債の価格が上昇(利回りが低下)したときは、そのヘッジのための為替予約の金額を増やす。このとき、新たなドル売り・円買いが市場のドル安・円高へ作用する。逆に、米国債の価格が下落(利回りが上昇)したときは、為替予約の一部のドル買い戻し・円売りがドル高・円安の要因となる。

<ドル円(円相場)が米国債利回りに連動する理由>

・米国債が利回り低下(価格上昇)→ヘッジのドル売りが増え円高

・米国債が利回り上昇(価格下落)→ドルが一部買い戻され円安

このように日本勢のヘッジ付き外債投資は、主な投資対象の米国債の利回り低下時には円高へ、利回り上昇時には円安へ強く作用する。その投資活動が活発なとき、ドル円は米国債利回りとの連動性がとても強い。

▼凶事を防ぐためには、ヘッジ操作は月1回でなく必要時に素早く

知っておきたいヘッジ付き外債投資の最大の欠陥は、外債への投資期間が中長期に対し、ヘッジに用いる為替予約が1〜3カ月ごとに短期ロールオーバー(短期継続)されてゆく仕組み

なので、日本の投資家にとって大切な円利回りが満期直前のロールオーバーまで確定しないハイリスクの金融商品だ。にもかかわらず、いま日本の機関投資家の確定利回り運用のための大量の資金が、このハイリスク商品に再び振り向けられている。

もしも、外債の投資開始時に満期まで為替ヘッジした場合には、中長期の為替予約は市場の買値と売値の差に伴う取引コストが著しく高いため、日本国債に投資した場合よりもはるかに低い利回りが確定してしまう。投資開始時の大負け決定を防ぐために、為替ヘッジは短期ロールオーバーで対応するしかないのが実情だ。

ヘッジ付き外債投資の為替ヘッジをロールオーバーするときは、外債の市場価格の変化に応じて為替予約の金額を増減させる”リバランス(為替ヘッジの再調整)操作”をあわせて行う。

日本の機関投資家のリバランス操作はせいぜい月1回にすぎないなか、ドル円が米国債利回りに連動する傾向(上記)に沿って為替レートを導くのは、先回りし素早く為替売買(円高進行前のドル売り、あるいは円安進行前のドル買い)を行い為替差益を稼ぐヘッジファンドなど海外投機筋

一方でヘッジ付き外債投資の日本勢は、海外勢が導き形成した不利な水準での為替売買(円高進行後のドル売り、あるいは円安進行後のドル買い)を強いられ、為替差損を積み重ねるケースが目立つ。

<ヘッジ付き外債投資のリバランス操作に伴う為替差損>

米国債の利回り低下(価格上昇)による円高進行後のドル売り

米国債の利回り上昇(価格下落)による円安進行後のドル買い

不利な水準でのドル売買が為替差損を積み上げる

しかも、海外投機筋の為替売買の利食い(円高進行前に売ったドルを円高進行後に買い戻す、あるいは円安進行前に買ったドルを円安進行後に売る)の実質的な取引相手は、ヘッジ付き外債投資のリバランス操作(円高進行後のドル売り、あるいは円安進行後のドル買い)に苦しむ日本の機関投資家。わが国の富が海外勢に奪われている

そもそも、日本勢がハマった罠(米国債利回り連動型ドル円のもとでリバランスを強いられる苦境)をつくったのは、「赤信号みんなせ渡れば怖くない」との無責任な発想に基づく自らの集団的投資行動だ。わずか2、3年前に大きな損失を被った歴史を忘れたのか、思考停止のままヘッジ付き外債投資に再び踏み切った彼らには、弁解の余地がない。

日本の富の海外流出を止めるためには、せめて為替ヘッジのリバンス操作は月1回でなく必要なとき速やかに実施することにより、海外投機筋に先回り売買されない工夫が大切だ。幸い、米国債市場と同様に、為替市場は1日24時間オープンしている。

アナリスト工房 2019年10月31日(木)記事