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泥沼と化した米連銀の巨額資金供給

レポオペと量的緩和の供給残高は3千億ドル突破。金融危機先送り

2019年12月10日(火)アナリスト工房

アメリカの短期金融市場では信用不安が広まり、金融機関の資金調達難が深刻化している。米国発の世界金融危機を招かず2020年を無事迎えるためには、在米金融機関勢への年末越え資金を十分に手当てすることが、FRB(アメリカの中央銀行)の今月の最重要課題だ。

FRB傘下のNY連銀は、9月半ばから米国債などを担保に金融機関へ資金供給する”レポオペを、08年のリーマンショックのとき以来久々に始めた。オペ実施期間は当初10月10日までの予定だったが、過度の調達難に陥っていたNY市場の金融機関勢(JPモルガンなど)の旺盛な資金需要に押され、延長を2度重ね最低でも20年1月末まで継続する。

とはいえ、超追い貸し状態のなか、借り手の金融機関勢の返済能力はもちろん乏しいのが実情。金融機関破たんとそれに伴う金融危機を防ぐために、2月以降もNY連銀はレポオペを限界まで続けていく可能性が高い。

<延長と拡充を繰り返すNY連銀レポオペ(19年9月17日−)>
 ・  9月17日:翌日物で532億ドル供給。オペ予定は10月10日まで
 ・  9月24日:2週間物が追加され、資金供給残高が急増へ
 ・  9月30日:資金供給残高が2000億ドルを突破
 ・  10月4日:15日物が追加。オペ予定は11月4日まで延長
 ・10月11日:オペ予定は、最低でも20年1月末まで再延長
 ・11月25日:年末越えの42日物が追加。

年明け以降もレポオペをしばらく続ける道を切り開きながら、NY連銀はその規模と貸出期間を次々と拡大してきた。
FRBが週次公表する連銀全体のB/S(貸借対照表)によると、レポオペによる12月4日時点の資金供給残高は2080億ドル。うち500億ドルが年末越え(42日物で11月25日、12月2日に250億ドルずつ供給)。以後、9日には28日物で250億ドルが供給された。在米金融機関の年越し資金の手当ては、早い時期からまずまず順調とみてとれる。


NY連銀のレポオペと並行してその親玉FRBは、10月半ばから実質的な”量的緩和(中央銀行が国債などを大量に買い取ることにより市場へ資金供給する金融緩和策)”の第4弾を開始した。
月600億ドルの短期米国債を最低でも来年4−6月期まで買い取り続け、レポオペでの資金供給と合わせて市場の資金難解消を図る。第1〜3弾の量的緩和(08−14年)のときと同様に、FRBが買い取った米国債は満期継続されていくため、資金供給の残高(=米国債の買い取り残高)は増える一方だ。

量的緩和第4弾(以下「QE4」)による12月4日時点の資金供給残高は1050億ドル。傘下のNY連銀のレポオペ(9月17日−)と合わせた米連銀勢の9月からの資金供給の残高は、3カ月足らずでなんと3130億ドルに膨らんだ。
リーマンショックのときに匹敵する異常な急拡大ペースでみた米連銀の緩和規模は、日銀(最近は年22〜24兆円)と欧州中銀(11月から月200億ユーロ)をはるかに超える。いまのアメリカは断トツ世界一のとんでもない緩和大国だ。

▼併せて実施中のMBS売却策が導く、2020年のリーマンショック2.0

さきの金融危機時とほぼ同規模の大量資金供給と並行してFRBは、8月から最大で月200億ドルの米国債(長期物を含む)の買い取りとおおよそ同額の住宅ローン債券(以下「MBS」)の売却処分を実施中。米国債での緩和相乗効果が生じている一方、MBSでの引き締めによる悪影響が年明け以降の金融危機への懸念材料だ。

FRBの長期物を含む米国債の買い取りは、短期物に特化したQE4(量的緩和第4弾)と組み合わせることにより、長・短の米国債が対象だった従来の量的緩和(08−14年のQE3からQE3)と同様に米国債価格を下支えする意図がみてとれる。通貨の番人FRBは、ドルの価値急落を防ぐために、海外からの米国債投資マネーを逃したくない。

<米連銀の資金供給残高の増加要因(8月28日→12月4日)>
     連銀の資産合計3060億ドル増(3兆7600億→4兆0660億)の
 主な内訳でみる
   ・米国債 : 1650億ドル増(2兆0950億→2兆2600億)、
                       うち1050億ドル増がQE4による
   ・MBS   :    660億ドル減(1兆4900億→1兆4240億)
   ・レポオペ:2080億ドル増(ゼロ→2080億)
 →MBSの売却代金は、QE4以外での米国債買い取りに充当され、
    市場への資金供給額を膨らませている

一方、QE4以外での米国債の買取代金を捻出するMBS(住宅ローン債券)の売却処分は、年明け以降(たぶん米大統領選後に)金融危機を引き起こすかもしれない。ちなみに、リーマンショックの元凶となったのは、ジョン・ポールソン氏のヘッジファンドによるMBS売り浴びせだ。

MBSは米国債以外の信用リスクの比較的高いドル建て債券との市況連動性が高い。量的引き締め(17年10月−19年7月)のときからFRBがMBSを売り浴びせ続けるなか、レバレッジドローン(金融機関の低格付け企業への貸出債権)を束ねた債券CLO(ローン担保証券)の市場がすっかり疲弊してしまった。
このままでは、信用不安の深刻化に伴い貸出債権の売却がままならなくない在米金融機関の資金繰りが一段と悪化し、米連銀はいっそうの資金供給を迫られ、供給源のMBS売却が信用不安をますます深刻にさせる悪循環だ。

<悪循環に陥った市場の信用不安と米連銀の資金供給>
       市場の信用不安が深刻化
                      ↓
       米連銀が市場へ資金供給の一方、供給源のMBSを売却
                      ↓
       MBSの市況がさらに悪化し、信用不安がますます深刻に

年明けからは、米連銀の買い取りが進むにつれて米国債の価格が一段と上昇(利回りが低下)するとともに、プリントマネーでの買取代金支払い急増がドルの通貨価値を大幅下落させる可能性が高い。資金供給が限界となり連銀が金融機関救済をあきらめたとき、金融危機が顕在化するだろう。

リーマンショックのときは、最大7000億ドルの不良債権を買い取ることを定めた「緊急経済安定化法」が世論の強い反対にもかかわらず成立し、財政資金が投入され米金融機関勢は救済された。しかし、いま連邦政府債務残高が当時のなんと2.3倍の23兆ドルに膨らみ財政赤字が限界に近いなか、来たる金融危機では財政資金での金融機関救済は世論に従い見送られるシナリオが濃厚だ。

貿易赤字の削減推進のためにあからさまなドル安志向のトランプ政権は、むしろ金融危機に伴うドル暴落を容認・歓迎する可能性が高い。ドルの価値をめぐる通貨の番人(対米投資マネーで潤い続けるためにドル高志向の金融筋の頂点に立つFRB)と実体経済重視の米政権との攻防戦は、2020年以降いよいよ決着のときを迎えるだろう。

アナリスト工房 2019年12月10日(火)記事