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米中貿易休戦 不均衡是正は順調!

関税制裁を続けるアメリカ、無理な輸入拡大を容認した中国の狙いは?

2020年1月23日(木)アナリスト工房

先週15日に決着した米中貿易交渉の第1段階合意は、GDP上位2カ国の間で生じた貿易戦争の実質的な休戦協定である。
主な合意内容は、1)アメリカが19年9月に発動した対中関税制裁の第4弾の税率を半減させること(1200億ドルの中国品に対する追加関税は15%から7.5%へ)と、2)中国が2年間でアメリカからの輸入を2000億ドル拡大すること(うち米政権注力の農産物は340億ドル増加へ)の2点。

市場では、アメリカが発動済みの関税制裁第4弾を撤廃しなかったことへの失望と、中国の達成困難で非現実的な輸入拡大目標への疑問が広まった。
にもかかわらず、米連銀が9月半ばから実施中の”レポオペ(米国債などを担保に金融機関への大量の資金貸し付け)”と実質的な”QE4(量的緩和第4弾)”による市場への資金供給残高は、4カ月間でなんと約4千億ドルに膨らんだ。結果、供給された超大量の資金が強引に株価を押し上げ、米株価指数S&P500は米中の第1段階合意後も史上最高値を更新し続けた。


アメリカの国債から株式へ資金シフトしたのでなく国債価格が底堅いまま(国債利回りの上昇を伴わずに)株価指数が吹き上がるのは、国債・株式ともに大量の資金が無理やり買い支える緩和局面での典型的な現象だ。
なお、基軸通貨ドルとその価値を測る尺度の役割をもつドル建て金価格がそろって堅調な足元の珍事(ドル高かつ金高)も、金へ逃げたドルを強引に買い支える緩和マネーの不自然な影響力がみてとれる。いまの市場の金融商品と通貨の価格評価は当てにならない。

なかでも株価指数は本来であれば実体経済の景気先行きをみるための先行指標だが、リーマンショック時に匹敵する超緩和策が株価高値圏で実施中のいま、株価指数は景気指標としての役割を果たしていない。その場合、やがて緩和マネーがファンダメンタルに見合わない超割高な株価水準を支えられなくなったとき、株価指数は音を立てて崩れる遅行指標となるだろう。

今回は、世界の景気を大きく左右する米中貿易戦争について、これまでの戦況の真相に基づき両陣営の実情に迫りながらザックリ眺めてみよう!すると、貿易戦争の次の展開とともに景気ならびに市場への影響がみえてくる。

▼米政権の関税制裁第4弾の税率半減は、激変緩和措置にすぎない

18年7月に始まった米中関税上乗せ合戦と19年秋から中国が米農産物などの輸入を拡大したことにより、深刻な貿易赤字を削減したいトランプ政権の狙いどおり、実は米中貿易の不均衡是正がとても順調に進んでいる。中国貿易統計によると、19年の対米貿易収支は前年比8.5%減の2958億ドル(=輸出が12.5%減の4185−輸入が20.9%減の1227)。

米中間の貿易収支が順調に縮小傾向とはいえ、輸出・入ともに2ケタ減と大きく落ち込んでいる。2カ国の輸出入企業への悪影響だけでなく、中国で現地生産のうえ対米輸出する米国企業や対米輸出品の部材を中国に供給する日韓の輸出企業への打撃は極めて大きい。
中国の対米輸出の落ち込みでみた世界経済への悪影響度は、四半期ごとにますます深刻化している。関税上乗せに伴う景気激変を和らげる必要に迫られたアメリカは、対中貿易交渉の第1段階合意で関税制裁第4弾の税率を半減させた。

<中国の対米貿易収支 2019年の四半期別内訳>
   ・1−3月:前年同期比8.3%増の627億ドル
                (=輸出が8.5%減の911−輸入が31.8%減の284)
   ・4−6月:前年同期比3.7%増の778億ドル
                (=輸出が7.8%減の1083−輸入が28.0%減の305)
   ・7−9月:前年同期比13.3%減の808億ドル
                (=輸出が15.0%減の1126−輸入が18.9%減の318)
   ・10−12月:前年同期比23.2%減の745億ドル
                (=輸出が17.4%減の1065−輸入が0.3%増の320)
中国海関総署の月次公表データに基づく

また、中国の米農産物輸入が伸び悩んだ19年9月までの1年間に、アメリカの農家の破産は前年同期比24%増の580件と11年以来の高水準に跳ね上がった。
7月から米農務省は農家支援のために補助金など160億ドルの救済策を実施中だが、中国の第1段階合意のコミット(今後2年間で米農産物輸入を340億ドル拡大)にアメリカの農家が応じるのは到底困難。だからこそ、アメリカは対中関税制裁の第4弾を撤廃せず税率半減にとどめたと推察される。

農産物以外の輸入品についても中国は、アメリカが競争力のある価格で十分に供給できることが必要条件である旨と、WTO(世界貿易機関)のルールに沿って他の国々からの輸入に影響させないことを繰り返し強調している。米国品輸入に関する中国のコミット(今後2年間で2000億ドル拡大)は、大幅未達に終わる(輸入拡大額はせいぜい数百億ドル)となる可能性が高い。

「むしろアメリカは、中国市場が歓迎する品物を競争力のある価格で十分に供給できるかどうかが試される」
中国国営Global Times胡編集長(Jan 14th 2020)Twitter

ごく限定的なアメリカの対中関税引き下げと、限りなく不可能に近い中国の輸入拡大コミットは、実は米中交渉の第1段階合意の絶妙な落とし所だった。
対中関税制裁の第4弾の税率を半減(1200億ドルの中国品に対する追加関税は2月14日から7.5%へ)させたアメリカは、実体経済と株価への悪影響を和らげながら、温存する第1〜3弾(中国品2500億ドルに対し追加関税25%)で強固な不均衡是正を続けていく。

▼対米輸出が細り続ける中国はアメリカと決別。次の金融危機へ

一方、到底無理な輸入拡大目標(2年間で米国品輸入を2000億ドル拡大)を容認した中国は、米国品が競争力のある価格で十分に供給されない実情と同盟国への配慮(ブラジルの農産物、ロシアの天然ガス、イランの原油などの輸入継続)を理由に、米国品の輸入目標を実質踏み倒すと想定される。

アメリカから重い関税制裁を受け続ける中国は、対米輸出が激減し稼ぎが細るなか、米中経済切り離しへの覚悟を決めたようだ。1980年代の日中貿易戦争で、アメリカ離れできない日本が米国製半導体の輸入目標を受け入れ真面目に守り和製半導体産業をすっかり衰退させてしまった日本史を、中国はしっかり学んでいる。

「1980年代半ばまでに、ハイテク分野を象徴する半導体をめぐって再び日米間に激しいあつれきが生じた。半導体問題は、ハイテク分野では初の政府間協定の締結で決着したが、これは日本側が輸入目標を明示するなどきわめて管理貿易色の強いものだった」
「協定のサイドレター(付属文書)に、1991年度までに日本の半導体市場での外国製品のシェアを20%程度にするという趣旨の一項が入っていた」
三橋規宏・内田茂男『昭和経済史』日本経済新聞社(1994)

次の米中貿易交渉が本格化するのは、米大統領選(11月3日)の後。トランプ氏が再選した場合には、ハイテク分野での中国の産業補助金やアメリカによる中国通信機器大手ファーウェイ社への部品供給禁止などの制裁をめぐり、日本史の教訓(ハイテク分野では対米貿易交渉での安易な妥協は禁物)に学んだ中国がアメリカと合意せず交渉決裂に終わる可能性が高い。

そのとき深い失望に染まった株式市場では、緩和マネーが超割高な株式を支えられなったとたん売り逃げ続出の株価指数は暴落し始め、リーマンショックの次の金融危機が訪れると想定される。
並行して為替市場では、19年9月からの超緩和策がリーマンショックのときと同様に実は超ドル安要因であると認識され、ドルは購買力平価の理論価格水準に向けて急落し始めるだろう。

英エコノミスト誌の購買力平価「ビッグマック指数」(1月15日公表)によると、中国元に対する1ドルの理論価格は3.79元。一方、1ドルの市場実勢は6.88元なので、市場の元はドルに対しなんと44.9%も超割安(=3.79/6.88−1)。なお日本円はドルに対し37.5%割安(=68.78/110.04−1)。ドルは購買力平価の水準(1ドル=3.79元=68.78円)まで4割前後切り下がるかもしれない。

アナリスト工房 2020年1月23日(木)記事