NY市場発コロナショックの眺め方

コロナ相場の原動力は、株式の資金逃避先でかつドル安を導く米国債

2020年3月5日(木)アナリスト工房

中国武漢発の新型コロナウィルスは、アジア・オセアニア(日中韓、シンガポール、オーストラリアなど)だけでなく中東(イラン、イラク、クウェートなど)や欧州(イタリア、独仏英、スペイン、スイス、スウェーデンなど)を次々とむしばみながら、世界の金融市場の中心アメリカで急速に深刻化している。

実は、アメリカで流行中の”インフルエンザ(とくに1月下旬からの今シーズン第2弾)”は、喉痛・鼻水よりも発熱・咳・呼吸困難が主体の症状から、武漢発のウィルス肺炎との疑いが濃厚だ。

2月24日、米カリフォルニア州の日刊新聞サンフランシスコ・クロニクル紙は、中国との結びつきが強いため新型コロナウィルスが直撃したシリコンバレーIT企業のメッカの同州では、自宅検疫者が8000人に跳ね上がった(前の週は6400人)と報道。

今シーズンの”インフルエンザ”による1万6000人を超える全米の死者のなかには、やはり武漢発のウィルス肺炎に命を奪われた者が大勢含まれているとの観測が急速に強まった。

24日月曜の米国市場では、新型コロナウィルス肺炎の深刻化に伴う米企業業績への懸念が広まり、NYダウ終値は前日比1031ドル安(3.6%安)と史上3番めの下げ幅を記録。このとき、リーマンショックの次の金融危機”コロナショック”が始まった

サンフランシスコ市がウィルス感染拡大に備え非常事態を宣言した翌25日以降も、NYダウは続落。27日の下げ幅(前日比1191ドル安)、その週の下げ幅(前週末比3583ドル安)ともに史上最悪の記録があっさり更新された。

週末の29日、新型コロナウィルスによる”全米初”の死者を出したと公表したワシントン州が、ウィルス拡散に対応するため非常事態を宣言。3月4日までにフロリダ、カリフォルニアの2州がワシントン州に続き非常事態宣言に踏み切った。

超高額医療のアメリカでは、自己負担1千ドルを超えるウィルス検査は大半の人々が受けられないのが実情。ウィルス拡散を防げないまま非常事態に陥る州と死者が増えるにつれ、米国発のコロナショックが世界でますます深刻化していく可能性が高い。公表済みの全米死者は11人にすぎない(3月4日時点)。

「アメリカの新型コロナウィルス感染症の流行は、多くの兆候から検査に問題があるために、ひどく過小評価されている可能性がみてとれる。一般の人々にとって、その過小評価は重大な危険を意味する」

中国国営GlobalTimes胡編集長(Mar 3rd 2020)Twitter

19年12月から中国で流行し始めた新型コロナウィルス肺炎が終息する時期は、疫病のなかで症状のよく似たSARS(重症急性呼吸器症候群)の流行期間(02年11月−03年7月)から類推すると、20年夏以降。その時期までコロナショック相場が数カ月間続きそうだ。

▼米0.5%利下げも大量レポオペも効かず。市場の資金繰り難が再燃

コロナショック相場を眺めるときは、株式市場の資金逃避先でかつドル円為替との連動性が高い米国債に注目すると、相場状況が鮮明に浮かび上がってくる。

株式から逃げる投資マネーが向かう米国債は、コロナショック開始後、10年物が一時0.904%まで過去最低利回りを更新(価格は上昇)した(3月3日時点)。

3月2日には、金融緩和への期待感から株式市場ではNYダウが一時的にその日だけ前日比1294ドル反発した一方、冷静な債券市場では米国債利回りが前日比横ばいにとどまった。翌3日、米連銀(中央銀行)は政策金利を0.5%引き下げ1〜1.25%としたが、株価は下落基調が復活。結果、持ち前の冷静さを武器に慎重な判断を下した債券市場に軍配だ。そもそも、利下げはウィルスを駆除できない!

疫病退治には効果を発揮できない金融緩和策は、債券市場での量的緩和などによる資金供給も同様だ。米連銀が19年9月半ば以降実施中のレポオペ(米国債などを担保に金融機関への資金供給)と実質的なQE4(量的緩和の第4弾)による市場への資金供給残高は、0.5%の利下げが実施された20年3月3日には前日比419億ドル増(=レポオペ残高の増加額)の4725億円といきなり膨張(図表)。

にもかかわらず3日のレポオペでは、枠をはるかに超える金融機関からの注文殺到に連銀が応じられなかった額はなんと596億ドル。金融機関勢の資金繰りは大きく悪化しているようだ。リーマンショックのときと同様に金融機関破たんが生じるのは、もはや時間の問題かもしれない。

いっそう悪化する可能性の高いコロナショック相場を眺めるときは、買い材料を強引にでっち上げる株式市場よりも、取り巻く状況を直視し冷静に判断を下す債券市場の動きをレポオペ状況とともに簡単にチェックするとよい。

▼米国債利回り連動型のドル円が復活!利回り低下とともに円高急進

とくにドル円為替は、日本の機関投資家による米国債などへの外債投資が一段と活発化するなか、米国債利回りとの連動性が非常に高い。コロナショック開始直前の2月20日からは、米国債10年物利回りが0.1%低下すると98銭のドル安円高になる鮮明な傾向が、完全連動に近い相場連動性を表す高水準のR2(相関係数の2乗)とともに観察されている(3月4日時点:下の図表)。

もしもこの傾向が続いた場合には、アメリカがゼロ長期金利(米国債10年物利回りゼロ)となったときのドル円相場は1ドル=97円。

NY市場の日次終値に基づきアナリスト工房作成

米国債と為替の市場連動性が高いのは、投資対象の米国債の市場価格に応じて日本勢が為替ヘッジの金額を次々と増減させていくことが、ドル円相場に大きな影響を与えているからだ。

米国債の価格が上昇(利回りが低下)したとき、日本勢が上昇後の米国債価格のもとでヘッジ状態を保つためにドル売り・円買いの為替ヘッジの金額を増やすことがドル安・円高への要因。逆に、米国債価格が下落したときは、ヘッジ金額減少(一部のドル買い・円売り戻し)がドル高・円安へ作用する。

<ドル円相場が米国債利回りに連動する理由>

・米国債が利回り低下(価格上昇)→ヘッジのドル売りが増え円高へ

・米国債が利回り上昇(価格下落)→ドルが一部買い戻され円安へ

前回、ドル円が米国債利回りにほぼ完全連動していたのは、「政策的なドル買い支えを図った日本の”クジラ”による円売り」と噂された取引が始まる直前(1月13日〜2月3日:下の図表)。当時は、米国債10年物の利回りが0.1%低下すると49銭のドル安円高傾向で、近似直線の傾きはずいぶん緩やか。アメリカがゼロ長期金利となった場合のドル円は101円だった。

NY市場の日次終値に基づきアナリスト工房作成

直後、日本勢の大量のドル買い・円売りと米国債買いにより、一時112.23円までのドル高・円安と米国債の価格上昇(利回り低下)が進んだ2月20日からは、新たな米国債利回りとドル円の関係が形成され始めた(2つめの図表)。

ヘッジ対象の米国債を大量に抱え込んだ日本の機関投資家は、コロナショックに伴い株式市場から逃げたマネーが米国債の価格を押し上げる(利回りを低下させる)なか、円高局面で多額のドル売り・円買い戻しを強いられている

結果、新たな近似直線の傾きは急(米国債利回り0.1%低下につき98銭のドル安・円高へ:2つめの図表)となり、円高進行のペースが加速した。自ら仕掛けたワナに自分ではまった日本勢は、為替損失をずいぶん積み上げたはずだ。

以上、コロナショック相場の最大の原動力は、米連銀が市場への超大量の資金供給と引き換えに実質買い取っている米国債の市場。そこには、株式市場から逃げたマネーと外債投資のジャパンマネーが合流していることから、債券だけでなく株式・為替市場を眺めるときに参考になる情報が満ちあふれている。

誰かさんのように損失を重ねないためにも、ぜひご活用ください。

アナリスト工房 2020年3月5日(金)記事