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ECB利息放出オペ、米株高を助演

欧州発の史上最大の資金供給が、米雇用水増し統計の悪影響を緩和

2020年7月9日(木)アナリスト工房

性懲りもなくアメリカのBLS(労働統計局)は、先月に続き今月も雇用水増しが明白なインチキ統計の発表を断行。先週2日公表された6月の雇用統計は、非農業部門の雇用者数が前月比480万人増と過去最多、失業率が11.1%(=失業者17750千人/労働力人口159932千人)で前の月(13.3%)に対し改善したと言い張る。

しかし、その失業率の分子(失業者17750千人)は、同日公表された失業保険受給中の失業者(19290千人)を8%も下回る。毎週百数十万人の新たな失業者が失業保険を申請した事実(とくにオレゴン州では失業保険申請が8時間待ちの行列)に基づき、6月の雇用情勢の改善は本来あり得ないはずだ。
前の5月の雇用統計で生じた問題点(失業者とみなすべき一時解雇中の多くの人々が、病欠など「その他の理由」により休暇中と回答したため、就業者として分類)が継続中の実態も踏まえ、6月の真の失業率は20%程度と推定される。

アメリカの雇用実態とかけ離れた統計結果に、株式市場の参加者は苦笑しながら悪乗りし、翌日からの独立記念日に伴う3連休(7月3ー5日)を安心して迎えられるよう、せっせと株価をつり上げ。結果、ハイテク株が主体のNASDAQ総合指数は、7月2日から翌週7日まで史上最高値を毎日更新し続けた。

世界の経済統計のなかで市場で最も重視されている米雇用統計が信頼を失ったにもかかわらず、雇用水増しの統計結果を好材料として株高演出がひとまず成功した。その舞台裏では、緩和縮小中のFRB(米連邦中銀)に代わってECB(欧州中銀)が市場へ史上最大規模のマネーを勢いよく供給している。

FRBのQE4(量的緩和第4弾)とレポオペ(米国債などを担保に金融機関への資金貸付)などによる資金供給残高は、6月3日の3兆2008億ドルがピーク。以後毎週減少が続き、7月1日には3兆0306億ドルに(週次公表されるB/Sの対象資産額に基づく)。ドル防衛に励む基軸通貨の番人は、約1カ月間で市場から1702億ドル回収した。

<FRBとECBの資金供給額の推移(2020年)>
 ・1月:FRB▲220億ドル、ECB億▲206億ユーロ(ともに資金回収)
 ・2月:FRB70億ドル、ECB205億ユーロ
 ・3月:FRB957億ドル、ECB3708億ユーロ
 ・4月:FRB4016億ドル、ECB2843億ユーロ
 ・5月:FRB4414億ドル、ECB2491億ユーロ
 ・6月:FRB▲150億ドル(資金回収)、ECB億6400ユーロ
各月最終の週次公表B/Sの総資産額に基づく

一方でECBは6月18日、TLTRO(貸出条件付き長期資金供給オペ)を実施し、なんと1兆3084億ユーロの3年物長期資金を金融機関勢に貸し付けた。
このTLTROの最大の特徴は、借り手の金融機関が顧客への貸付を減らしたりしない限り1%の利息をECBからもらえる大きなメリット。貸付基準をクリアできなかった場合でも0.5%の利息がもらえる金融機関には、デメリットがまったくない。金融機関とその貸付先へ資金を大量供給したいECBの狙いどおり、今回のTLTROは申し込みが殺到し史上最大規模に膨らんだ。

TLTROの約定額の約半分は金融機関勢にとって借り換え目的とはいえ、ECBの資金供給残高は約1カ月間(6月5日ー7月3日)で6336億ユーロ拡大(週次公表されるB/Sの総資産額に基づく)。そのときの資金供給額は、5月に記録されたばかりのFRBの過去最高の資金供給額(上記4414億ドル)を大きく上回った
超大量供給されたECBマネーの一部は、米ドルへ両替のうえ、本来であれば雇用水増し統計の逆風にあえぐはずの米国株をひとまず強引に買い支えたとみてとれる。

バズーカ砲」の俗称をもつTLTROが終わった後のECBの資金供給額は、月2200ー3200億ユーロのペースに減速する可能性が高い。欧州が放ち終わった渾身の一発を無駄にせず高値圏の株価を維持していくためには、アメリカは再開し始めた経済活動を本格化し、雇用を水増し統計の示す水準まで回復させる必要があるだろう。

幸い、アメリカの新型コロナ死者数は、ピークだった4月に対し6月は61%減、7月もさらに減少傾向で推移中。5月末に始まったBLM(黒人の命が大切)を唱える暴力デモと、6月中旬から再開したトランプ大統領の数千人以上が会場に集う演説集会による悪影響は、実際にはほとんど観察されない(下記)。

<アメリカの新型コロナ死者数の推移(2020年)>
 ・〜3月:3170人(初の死者は2月末、ワシントン州の50代男性)
 ・4月:57796人(うち60%が月後半に亡くなった)
 ・5月:42815人(前月比26%減)
 ・6月:22359人(ピークの4月に対し61%減少)
 ・7月1〜8日:5340人(このペースが続けば、さらに減少へ)
日時公表のグローバル集計値に基づく

大勢のデモ隊とトランプ支持者たちは、ソーシャルディスタンス無視あるいはノーマスク姿でもまったく平気な人々が圧倒的多数。アメリカの経済活動を本格化させるのにふさわしい社会環境と必要な行動力は、すでに彼らが取り戻し準備が完了したようだ。

アナリスト工房 2020年7月9日(木)記事