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米国債ビッグショート 日本発の逆襲

バイデンリスクを被り、日本の投資家の為替ヘッジ差損が深刻
彼らの一部が米債売却。レポ市場の珍事がショートを史上最大化

2021年3月9日(火)アナリスト工房

バイデン米政権の超放漫財政をまかなう米国債は、過度の財政インフレへの懸念が高まるなか、価格急落(利回り急伸)が顕著となってきた。日本の機関投資家(金融機関、保険会社など)は、海外投資でアメリカを買い支えようと必死だが、やはり力不足。米債投資と為替ヘッジのための日本勢のドル買い・円売りに伴い、日本円は主要国5通貨のなかで年初来下落率ワースト1と低調だ(下記)。

【主要5通貨の年初来騰落率*)2021年】3月8日時点
   ・英ポンド(GBP):4.01%
   ・中国元(CNY):    2.87%
   ・米ドル(USD):    2.85%
   ・欧州ユーロ(EUR):▲0.26%
   ・日本円(JPY):       ▲2.48%

結果、米債利回りに連動して円相場が決まる傾向は、またまた復活してしまった。前回(20年2-3月)は米10年債利回り低下に伴う円高進行局面だったのに対し、今回は年初からの10年債利回りの急伸とともに円安が著しく進行中。
米債利回りとドル/円の相関係数の2乗を表す”R2乗値”がとても高水準(0.851)なので、プロットを結ぶ近似直線の当てはまり度はバッチリ。その直線の傾き(7.445)によると、10年債利回りが0.1%上昇すると為替がドル高・円安に74銭進む傾向が鮮明にみてとれる(図表)。

NY市場の日次終値(21年1月4日-3月8日)に基づく

米債利回りと為替の連動性が高いのは、投資対象の米国債の市場価格の変化に応じて、日本の投資家が為替ヘッジの金額を次々と増減させていくことによる。
米国債の価格が上昇(利回りが低下)したとき、日本勢が上昇後の米国債価格のもとでヘッジ状態を保つためにドル売り・円買いの為替ヘッジの金額を増やすことがドル安・円高の要因。逆に、米国債価格が下落したときは、為替ヘッジ金額減少(一部のドル買い戻し・円売り戻し)がドル高・円安の要因となる。

<外債投資の為替ヘッジと影響> ヘッジ状態を保つために
   ・米国債が利回り低下(価格上昇)→ヘッジのドル売りが増え円高へ
   ・米国債が利回り上昇(価格下落)→ドルが一部買い戻され円安
∴円高時のドル売りと円安時のドル買いが為替差損を招く仕組み

また、日本の機関投資家の為替ヘッジ操作がたいてい月1回にすぎないなか、円相場が米債利回りに連動する傾向に沿って為替レートを導くのは、先回りして素早く為替売買(円高進行前のドル売り、あるいは円安進行前のドル買い)を実行し為替差益を稼ぐヘッジファンドなど海外の投機筋。
日本勢は、海外勢が導き形成した不利な水準での為替売買(円高進行後のドル売り、あるいは円安進行後のドル買い)を強いられ、為替差損を積み重ねるケースが目立つのが実情。

金融資産の為替ヘッジでは、資産価格が上下に揺れるたびにヘ為替差損が積み上がっていく窮地状態を”ネガティブ・ガンマ”という。バイデン政権のもと放漫財政インフレ懸念が強まるなか、米国債価格の乱高下がいっそう顕著となった。日本の機関投資家が米債投資で被る為替差損は、足元では急速に膨らんだと見受けられる。

巨大化したネガティブ・ガンマに耐えられなくなった日本勢の一部が、ついに米国債を大量に売却処分した。売却先の金融機関が抱え込んだ米国債をヘッジしようと大量のショート(空売り)に踏み切った直後、レポ(債券担保貸付)市場で生じた珍事が米国債売りを加速中(参考:Bloomberg記事『米国債レポ市場に影響、日本人投資家の外債売り-大量売り越しで』Mar 4th 2021)。

3月4日、大量の米国債をショートをするために利息を払ってでも債券を借りたい旺盛な需要を受けて、米10年債の翌日物レポ金利は一時なんとマイナス4.25%まで急落。レポ取引の主な目的は、債券を担保に資金を借りることから、米債空売りのために債券を借りることへ変わった。
市場では、以後もレポ金利の顕著なマイナス状態が続くとともに、史上最大級の”米国債ビッグショート”がすっかり形成されてしまった。

タイミングが悪いことに、今週から米国債入札が本格化する(3月10日:10年債380億ドル、11日:30年債240億ドル、16日:20年債240億ドル など)。14日に大統領署名を経て成立見込みの経済対策1.9兆ドル(国民1人あたり1400ドルの現金給付など)の次は、インフラ建設のさらなる超大型経済対策”ニューディール”が早ければ月内公表予定。
だが、ドル通貨の番人FRB(米連銀)は、通貨価値を損なうさらなる追加緩和(米国債の買い取り増額)には相変わらず慎重姿勢。

バイデン政権の放漫財政をまかなう米国債の需給悪化がさらに加速し、日本発のビッグショート戦略は成功する可能性が濃厚。米債価格急落とともに10年物利回りが跳ね上がるときまでに、日本の投資家にとって為替差損の元凶たる米債利回り連動型の円相場が解消され、過度のインフレにつながる”悪い円安”を招かないことを祈る。

アナリスト工房 2021年3月9日(火)記事

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*)年初来騰落率は、米ドルがBloombergドルスポット指数(BBDXY)、それ以外の通貨がBBDXYおよび各通貨の対ドルレートに基づく計算値。