これまで、期待できる投資収益率からインフレを控除した”実質リターン”でみると、日本株は外国株よりも比較的ハイリターンであることを紹介してきた。世界的に経済成長ならびに株価が伸び悩む中、運用環境は実は日本のような低インフレ国が良好なのだ。
とは言え、我が国を嫌気して海外へ口座を移した富裕層が、投資マネーを母国へ還流させるには、その国家破綻の可能性と破綻した場合に被る影響が気掛かりであろう。そこで今回は、そのような日本の”カントリーリスク”について考えてみよう!
国の破綻を伴うカントリーリスクは、ギリシャやアルゼンチンのように、国家が外国からの債務を返済できなくなった時に顕在化する。
日本国の債務残高はGDPの2.2倍と先進国の中で最悪の水準だが、債務を賄う日本国債への外国人投資家の割合はわずか数%に過ぎない。国債の9割超を国内投資家(金融機関や保険会社)が保有しているため、今のところ我が国にカントリーリスクの生じる余地はない。
それが国家破綻を伴って生じるとしたら、将来さらなる財政支出の増加に伴い国内だけでは国債を消化できなくなり、外国からの国債投資に大きく依存するようになってからの話である。
高齢化に伴う社会保障費の増加と大震災からの復興費用を理由に「日本破綻の時期が数年以内に到来する」との予想も一部にあるが、筆者はこれらの費用支出こそが実は国債を買い支えている現状を踏まえ「我が国が破綻する可能性はほとんどない」と考える。
国債の最大の買い手は金融機関で、その原資となる預金が東日本大震災での被災地で大きく伸びている。被災の中心3県それぞれの主要銀行(七十七・東邦・岩手)の2011年12月末の預金残高合計は12.0兆円(前年同月比1.7兆円増)と、震災前に対し急増している。
一方、同時期の貸出金残高合計は7.3兆円(同わずか0.4兆円増)と、借入の資金需要はさほど伸びていない。預金と貸出金との伸長額の差は、これらの銀行での資金運用に投入されている。運用資産の中心は国債である。
現地の個人・法人・公共団体ともに、受け取った見舞金・保険金・交付金を消費・支出や住宅・設備投資にさほど回さず、金融機関に預け入れている状況が観察される。被災地へ送られるお金は、預入先の金融機関を通じて、実は国債を買い支える原動力となっているのだ。
年金を始め社会保障の受給者についても、同様のことが当てはまる。現在の給付水準が将来にわたり続くかどうか先行き不安なため、受け取った額を思い切ってタップリ消費せず、貯蓄に励む方々が多く見られる。
彼らの貯めている預金も、その大半の資金が国債で運用され、我が国の財政を下支えしている。
以上、国が国債を発行して調達した資金は、巡り巡って国債へ投資されているのだ。我が国の国債は、政府部門の負債であると同時に、家計・企業部門の資産(預金)の主な運用先である。
共に国内の資産と負債とでほぼ完結しているため、対外債務のデフォルトにつながるカントリーリスクは皆無に近い。質素倹約で貯蓄好きな国民性の日本は破綻しないと考える。
もちろん、資産・負債額の限りない膨張を永遠に続けるわけにもゆかない。いつかは財産税の実施や相続税の大幅引き上げにより、家計部門の資産と政府部門の負債とを相殺させる時期がやって来るであろう。
資産相殺の主なターゲットと想定される個人富裕層が、口座を海外に移すことでその負担を免れようとする動きが目立つ。低インフレの我が国は実質リターンが高いため、そのことに気付いた彼らが、安全な外から引き続き日本へ投資して支えてゆくことを期待したい。
2012年4月19日
株式会社アナリスト工房