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米国の失業率(本当は何%?)

2012年11月9日

「信じられん失業率だ。選挙討論で負けた連中が数字を操作したようだ」
(ウェルチ前GE会長:2012年9月の米国失業率へのコメント)

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ギリシャとスペインの債務危機で疲弊した欧州。最大の輸出先である欧州向けが落ち込み、景気失速中の中国。一方、雇用と消費に関する足元の指標が上向いているのが米国である。欧州発の玉突きのダメージが今のところ比較的軽く済んでいるからだ。
来年1月からの「財政の崖(*)」など不安材料はあるが、市場参加者の関心は中国から米国へとシフトしてきている。そこで今回は、米国のファンダメンタルをみるための指標を取り上げよう。

米国経済に最も大きく寄与しているのは、GDPの7割を占める個人消費である。個人消費の主な原資は一人ひとりが労働で稼ぐ所得なので、どの程度の人々が職に就き稼いでいるか(あるいは失業中で稼いでいないか)を推し量るための指標が、ファンダメンタル分析での重要な手掛かりとなる。
図表の3つの数字の中で、米国経済のファンダメンタルを適切に反映している雇用指標はどれでしょう?


まずAは、毎月第1金曜日に公表されるおなじみの失業率(=失業者/労働力人口)で、2012年10月時点は7.9%。
ただしその数字には、職がなくとも「過去4週間以内に求職活動を行なっていない者」は失業者には含まれていない点にご注意。彼らは求職を断念した者と見なされ労働力人口から外れるため、その中の失業者にも該当しなくなってしまうからだ。

一部の者が公式統計の対象外とされる欠点を補正した失業率が、Bのロムニー氏の主張である。上記"4週間ルール"により除外された者の数を分母の労働力人口と分子の失業者に戻し入れると、失業率は2ケタ(10.7%)に達する。
失職後になかなか新たな仕事が見つからないといった、厳しい雇用情勢を反映した数字と見受けられる。

また、失業とは少し別の角度からの指標が、Cのフードスタンプ(**)の受給率である。フードスタンプは無所得者と低所得者の食品購入を補助する制度で、働いていない者だけでなく、失職後に低賃金のパートタイムの仕事をしている者も受給できる。
米国の総人口に占めるフードスタンプの受給者の割合は15.0%。失業者以外にもGDPの個人消費にあまり貢献できない層が幅広いことが伺い知れる。

以上、米国の3つの雇用指標は7.9%から15.0%と差が大きいため、経済のけん引役として期待される個人の雇用の実態をつかみづらい。市場では年明けからの財政の崖が懸念されているが、先行きの前に現在のファンダメンタルの実態すら極めて不確かなのが米国の経済情勢といえよう。
一般に将来の不確実性のことをリスクというが、米国投資では現状認識の不確実性としてのリスクも背負うはめになりそうだ。

一方で日本は、上記Aの公式統計の失業率が4.5%に対し、Cのフードスタンプに近い生活保護の受給率が1.7%(=生活保護受給者数2.1百万人/総人口127百万人:いずれも2012年3月時点)。ともに数%未満の狭いレンジ内に収まっており、米国よりも良好なことを付け加えておく。

株式会社アナリスト工房

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(*)財政の崖とは、大型減税の終了と強制的な歳出削減の開始に伴い、2013年1月から年0.7兆ドル(GDPの4.5%)の財政緊縮が実施される見込みのこと。政府支出の緊縮に伴い、景気が冷え込むことが懸念されている。

(**)フードスタンプは、米農務省が無所得者と低所得者へ配布している食品購入のための金券で、米国での生活保護に位置づけられる。1人当たりへの平均配布額は月々134ドル(約1万円:2012年7月時点)。フードスタンプの受給者は、スーパーなどで食品(ただし酒やタバコは除く)を買う際にその金券を使用できる。
日本の生活保護が困窮者へ金銭を支給し衣・食・住の全般を支援するのに対し、米国のフードスタンプは食の購入補助に的をしぼった制度といえよう。