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米雇用統計(失業率を左右するのは?)

2013年8月8日(木)

「全員参加型の学力テストは、1960年代にも行われた。しかし、テストの予行演習をしたり、成績の悪い児童生徒を欠席させるなど、過度の競争が問題となり、短期間で廃止になった。」
- 北海道新聞の2009年1月13日の社説より(下線は引用者) -

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ビッグデータのブームに続き、その分析に必要な統計学が脚光を浴びています。
市場経済や企業財務の分析に携わるアナリストのための統計で大切なのは、分析データから状況を的確に読み取り、評価に正しく活用することです。
世界の統計のなかでアナリストをはじめ市場参加者が最も注目しているのは、毎月の第1金曜日に公表される米国の雇用統計です。今回は、その失業率のデータから、同国の雇用情勢の実態を読み取ってみましょう。

米国の失業率は、リーマンショックの影響を受けて2009年10月に10.0%のピークに達した後、量的緩和とゼロ金利の政策が奏功し足元(2013年7月:速報値)は7.4%まで低下しています。雇用情勢は本当に回復基調にあるのでしょうか?

米労働省公表の雇用統計の詳細データを用いて、失業率低下の要因を眺めてみましょう。数字を分かりやすくするため、米国の2009年10月の生産年齢人口236.55百万人を100人に換算して説明します。


まず、2009年10月の生産年齢人口100人のうち、就業者58.5人と失業者6.5人の計65.0人が労働力人口(*)です。このときの失業率10.0%は、労働力人口に対する失業者の割合(6.5/65.0)として計算されます。

2013年7月になると、移民を受け入れている米国の生産年齢人口は103.9人、労働力人口は65.9人(=就業者61.0人+失業者4.9人)に増加するとともに、失業率は7.4%(=4.9/65.9)に大きく低下しました。
生産年齢人口が3.9人も増えたにもかかわらず、労働力人口はわずか0.9人(=65.9−65.0)しか増えていませんね。差し引き3.0人(=3.9−0.9)はどこへ行ってしまったのでしょうか?

その3.0人は労働力人口でなく、非労働力人口(**)に属しています。
4年足らずで非労働力人口が9%(=38.0/35.0−1)も増えた理由を、専業主婦志向の高まりや高齢者の引退だけで説明するのは無理があります。求職活動をやめた元失業者が急増しているのです。

求職活動中の失業者は労働力人口と見なされますが、求職活動をやめて4週間を過ぎ元失業者と化したとたん非労働力人口へ追いやられます。
冒頭で紹介したわが国の学力テストの事例と同様に、成績の悪い人々を欠席させたうえで国民の成績が計算されているのです。
これらの人々を加味すると、失業率の実態水準はどの程度なのでしょうか?

増えた非労働力人口3.0人の詳しい内訳は不明ですが、仮にその半数1.5人が就業をあきらめた元失業者と仮定し、その人数を失業者に加算してみましょう。すると、2013年7月の失業率の実態水準は9.5%(=(4.9+1.5)/(65.9+1.5))。
米労働省の公表値(7.4%)よりもはるかに高水準ですね。その公表値の水準まで失業率が低下した最大の要因は、上記元失業者がその計算の分母・分子から外されたことと推測されます。

また、雇用情勢の最悪時(2009年10月は失業率10.0%)からの改善のペースは、非常に緩やかと見受けられます。
ちなみに就業率(生産年齢人口に占める就業者の割合)でみても、2009年10月が58.5%(=58.5/100.0)に対し2013年7月は58.7%(=61.0/103.9)と、同様の傾向が観察されます。

以上、統計の指標(失業率)を眺める際に大切なのは、調査対象とする母集団(生産年齢人口)の全体の動きをつかむことです。
もしも一部(就業をあきらめた元失業者)が欠けている場合は、指標はその値を補正のうえで評価に活用しましょう。

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*)労働力人口は、就業者と求職活動中の失業者との合計人数。
**)非労働力人口は、、就業者でなくかつ求職活動中でない者(専業主婦、引退した高齢者、求職活動をやめた元失業者など)の人数。