2014年1月24日(金)
株式時価総額が首位でかつ基軸通貨ドルを発行する米国の経済情勢は、世界の株式・為替市場の大勢を左右します。同国のGDPは個人消費がその約7割も占め、個人消費の規模は雇用の状況に依存することから、雇用統計は市場参加者が最も重視している経済統計です。
彼らは、米雇用統計の中の失業率と就業者数が前の月に対しどれだけ改善しているか(あるいは悪化しているか)を手掛かりに、市場取引を行っています。
しかし2009年の後半以降は、失業率が順調に低下しているにもかかわらず就業者数が伸び悩むといった奇妙な傾向が続き、これらの指標だけでは米国の労働実態が分かりづらくなってきました。
例えば昨年12月の雇用統計は、失業率が6.7%と前の月(2013年11月は7.0%)から大きく低下も、就業者数が前月比わずか0.1%増。本来、失業率の低下幅(0.3%)と同じくらい就業者が増えるはずなので、不可解ですね。いったい何が起きているのでしょうか?
そもそも、米国の失業率低下の主な原因は、失業者が職を得たことではありません。
12月の雇用統計は、失業率の分子の失業者数が前月比0.49百万人減に対し、就業者数が同わずか0.14百万人増。減った失業者のうち一部は再就職したようですが、残る大半はどこへ行ったのでしょうか?
雇用統計上の元失業者の大半は、失業率の分母の労働力人口から外されてしまいました。求職活動中の失業者はもちろん労働力人口と見なされますが、求職活動をやめて4週間を過ぎ元失業者となったとたん非労働力人口へ追いやられるのです。
結果、12月の労働力人口は前月比0.35百万人減、非労働力人口は0.53百万人増(うち職に就きたい者は同0.33百万人増)。すなわち、職探しをあきらめた元失業者が非労働力人口へ異動したことが、失業率低下の最大の要因です。
実質的な長期失業者が労働力人口の中の失業者としてでなく非労働力人口に数多く隠れている米雇用統計は、どのように眺めたらよいのでしょうか?
「生産年齢人口に対する就業者の割合(Employment-Population Ratio)」でみることをおすすめします!
なぜなら、まず実質的な長期失業者が失業者から非労働力人口へ不適切に振り変わるなか、失業者と非労動力人口との区別が付きません。よって、生産年齢人口の構成(就業者、失業者、非労働力人口)の中で、信頼できるのは就業者の数だけです。
また、失業者を含む労働力人口と非労働力人口との区別も付かないため、母集団は労働力人口でなく生産年齢人口(=労働力人口+非労働力人口)の全体としましょう。
これらの信頼の比較的高い数字を組み合わせることにより、統計の歪みに関する上記問題点を解決した指標が、生産年齢人口に対する就業者の割合なのです。
なおこの指標は、雇用統計の発表とともに公表される資料に記載されており(*)、わざわざ計算する必要ありません。それが米労働省の公表資料に載っているのは、もちろん就労実態の把握に役立つからでしょう。
米国の失業率は、2009年10月に10.0%のピークに達した後は低下基調にあり、昨年12月には6.7%まで改善しています。しかし、生産年齢人口に対する就業者の割合で見ると、再就職を断念した元失業者が非労働力人口を押し上げているため、ほぼ横ばいに過ぎません(2009年10月:58.5%→2013年12月:58.6%)。
その間の同指標は、最高値(2012年10月:58.8%)がリーマン・ショック前のピーク(2006年12月:63.4%)にはるか及ぶことなく、ボトムを長期にわたり連発しています(2010年11月、2011年6・7月、2013年10月ともに58.2%)。
このように、米国経済が大きく依存する雇用情勢は、実はリーマン・ショックの影響による落ち込みからほとんど回復していません。
その実態を正しくつかむためには、雇用統計を「生産年齢人口に対する就業者の割合」で見ることにより、統計手法の中で神隠しされている実質的な長期失業者の数を補正することが大切です。
足元のNYダウ、ドル/円はリーマンショック後の最安値のそれぞれ2.5倍、1.4倍の高値圏にあります。米国経済の力強い回復を前提に市場相場が推移するなか、雇用の実態がそれに見合う水準に追いつくことが課題です。
その前に、もしも生産年齢人口に対する就業者の割合が上記ボトムの水準(58.2%)を大きく割った場合には、くれぐれもご注意下さい。
株式会社アナリスト工房
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*)指標「生産年齢人口に対する就業者の割合(Employment-Population Ratio)」は、米労働省HPの中の"Employment Situation Summary Table A. Household data, seasonally adjusted"に、その数字が載っています。