リスクの報酬(株式も外は寒い)

震災後は富裕層の海外投資がブームだが、欧米諸国にも「日本病」が広まる今、外国での運用環境は大きく悪化している。

前回は、安全資産の代表格の国債について、インフレ控除後の実質リターンがプラスの日本国債に対し、米国債を始め外国の国債のそれは軒並みマイナス。従来通り安全資産偏重の運用を続けた場合には、彼らは資産価値がインフレで目減りしてしまう。財産防衛のためにはリスク資産への投資が必要と説いた。

そこで今回は、リスク資産の代表格の株式を取り上げ、同資産クラスへの投資の在り方へと話を進めてゆきたい。

まず株式投資の収益は、定期的に受取る配当、投資後の株価の値上り益の2つから成る。年当たりの収益率(リターン)は、株価に対する年間の配当額の割合を表す「配当利回り」と、年当たりの株価成長率との和である。

ここで、配当利回りが将来にわたり一定でかつ株価成長率がその国の経済成長率に等しいと仮定すると、将来見込まれる株式リターンは、市場の配当利回りと経済指標GDPのデータを用いて次のように計算できる(詳細は下記【脚注】)。

株式リターン = 配当利回り + 経済成長率(≒株価成長率)

今2011年度の配当利回りは、日米共に代表的株価指数(TOPIX・SP500)のそれは、年2.2%が市場の大方の予想である。経済成長率は、インフレ進行と共に株価が上昇する経験則を踏まえ、ここでは名目GDP成長率(=実質GDP成長率+GDPデフレータ)を用いる。IMFの2012年に関する同予想は、日本が年1.8%、米国が年2.9%。

その水準が翌2013年以降も続くと仮定すると、株式リターン全体は日本株が年4.0%(=2.2+1.8)、世界の時価総額首位で海外投資の中心となる米国株が年5.1%(=2.2+2.9)。比較的高い名目GDP成長が見込まれる外国株の方が、日本株よりも幾らかハイリターンとなる。

ただし、インフレからの財産防衛の観点から、債券と同じく株式もインフレ調整後の「実質リターン」が大切。足元のインフレ率(前回用いた9月のCPI:日本が年0.2%、米国が年3.9%)を控除して実質リターンを推定すると、日本株が年3.8%(=4.0-0.2)、米国株が年1.2%(=5.1-3.9)。物価の安定してる我が国の株式は、外国株よりも実質ハイリターン。国内・外の運用環境は大きく逆転する。

かつては「日本国内でよりも海外投資の方が成績良好」が常識だったはずなのに、一体なぜだろう?

理由の1つは、日本株の配当利回りが大きく向上していること。日本企業の利益は伸び悩んで久しいが、利益に対する配当の割合(配当性向)を高めることで、今では株主への還元姿勢が欧米企業並みに改善している。

もう1つ大きな理由は、グローバル化を受けて、欧米諸国にも「失われた」の日本病が蔓延していること。2008年の米国発の金融危機、2010年のギリシア発の欧州債務問題をきっかけに、成熟国家は軒並み衰退モードへ移行。政府の財政が大きく悪化しているにもかかわらず、政府の支援に頼りすがろうと抵抗する民衆の姿は、日本ではずっと前から見慣れた症状である。

株式には様々な銘柄があり、銘柄によっては実質ハイリターンも可能である。しかし、少数の銘柄だけではリスクが大きいため、富裕層投資家は多数の銘柄に分散投資せざるを得ない。結果、彼らの投資成績は多数の銘柄から成る株価指数のケース(上記)と大差なくなってしまう。

海外投資では、安全資産のマイナスの実質リターンをカバーするためにも、リスク資産のそれは最低でもプラスを確保したいものである。しかし、株式だけでは必要なリターンを得るのは難しい。配当利回りはまずまずだが、経済成長の鈍化に伴い外国株も株価成長率が失われているからだ。

そこで、低成長あるいはマイナス成長の中でも、ある程度のリターンを追求できる投資手法あるいは株以外の有望なリスク資産が必要となってくる。

2011年12月2日

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【脚注】 次の2つの前提条件を仮定し、株式評価の「配当割引モデル(DDM)」を用いて、株式リターンに関する上式を導いている。

・対象企業の売上高純利益率、ROE、配当性向、配当利回りは、将来にわたり一定。

・対象企業の売上高成長率は、母国の名目GDP成長率に等しい。