海外投資‎ > ‎

フランス革命2017 EUは断頭台へ

自国通貨フランへの復帰が「欧州は1つ」の呪縛から域内を解放

2017年2月27日(月)アナリスト工房
 (2017年3月3日(金)編集)

EU(欧州連合)の加盟各国が発行するユーロ建て国債の利回りは、信用力No.1の中核国ドイツの国債利回りを基準に、それぞれの国のカントリーリスク(国債がデフォルトする危険など)に応じた利回りが上乗せされて決まります。
国債市場の主役は10年物。各国の国債10年物利回りのドイツ国債10年物利回りに対するスプレッド(利回り差)は、簡単にいえば、ドイツを基準に測ったそれぞれの国のリスクの大きさです。

1.市場が暗示する仏EU離脱。最大の国家デフォルトは避けられるか?

いま、10年物国債のスプレッドでみたフランスのリスク状況に、見過ごせない大きな異変が生じています(図表)。


国債の信用力を表す格付けは、ドイツが最上級AAAに対し、フランスが1ランク下のAA。カントリーリスクをみる経常収支/GDPは、ドイツが8.5%の大幅黒字に対し、フランスが-0.2%とやや赤字(2015年)。
これらの格差を反映し、10年物のフランス国債のドイツ国債に対するスプレッドは、昨年10月までは0.3%前後で安定的に推移していました。

ところが、翌11月の米大統領選でのトランプ氏当選、今年1月のトランプ政権発足を受けて拡大に転じたスプレッドは、先週はなんと一時0.85%まで急伸しています。アメリカの政治情勢の影響により、スプレッドでみたフランスリスクが悪化しているのはなぜか?

トランプ大統領のアメリカ第1主義(不法移民の追放と自国通貨.安への誘導などにより国民の雇用を取り戻す)に続き、フランス第1主義を唱える国民戦線(FN)のルペン党首が次期大統領の最有力候補に浮上中。
彼女の掲げる選挙公約(下記)には、自国通貨フランへの復帰があります。ユーロからフランへの通貨切り替えに伴い、市場ではフランス国債のデフォルト(債務不履行)を招く危険が懸念されているのです。

【ルベン仏大統領候補の公約概要】 特筆すべきは次の4点
 ・フランス第1主義の旨は憲法に明確に記す
 ・不法移民は国外へ追放する
 ・通貨(いまはユーロ)はフランへ復帰させる
 ・これらの実現のために、フランスはEUから離脱する

フランスの政府債務残高は2.1兆ユーロ。政府債務をまかなう国債の62%は外国人が保有しています(2015年末時点)。フランへの切り替えを機に通貨切り下げを図るルペン陣営は、フランス国債のうち国内法のもとで発行されているもの(80%を占める)を対象に、元利返済をフランで実施するよう発行条項を変える公約を打ち出しました(2月4日公表)。

一方、格付け機関の大半は、国債の返済が発行時の条項どおりの通貨(いまのフランス国債の場合はユーロ)で履行されなければデフォルトとみなすのが原則。もしも、ルペン候補が大統領に選ばれ本件を実施した場合には、フランスは実際に史上最大の国家デフォルトを引き起こすのでしょうか?

2.ギロチンの刃がユーロとデフォルトリスクを撃退。自国通貨安競争へ

いまはユーロ建てのフランス国債が将来フラン建てに変化しても、そのことをもってデフォルト宣告が下される可能性は低い

なぜなら、仏EU離脱に伴うフランの復活時にはユーロは廃止される可能性が高いからです。GDPがドイツに次ぎユーロ圏第2位でしかも圏内唯一の国連安保理常任理事国のフランス抜きでは、「欧州は1つ」のコンセプトのEUは成り立たない。仏離脱後のEUとともにその共通通貨ユーロが空中分解すると想定されます。
ユーロなき後の各国の国債は、それぞれの国の通貨で元利返済を実施するしかないため、格付け機関がそのことをもってデフォルトとみなすとは考えづらい。もしもデフォルト宣告がなされる場合には、いくつかの国々は返済せずに安易なデフォルトへの道を選んでしまうかもしれませんからね。

また、ルペン陣営の公約詳細によるとフランスは、ユーロの廃止とともに旧ユーロ圏各国の新たな自国通貨からなるバスケット指数を定めるよう、域内の国々と協調して取り組む予定。
旧ユーロ圏通貨バスケット指数に対するフランの為替変動は20%以内に抑える。そのレンジ内での通貨切り下げでもって、フランスは(経常収支の大半を占める)貿易収支の黒字化、政府債務の返済軽減を図る方針です。

これらの公約が実現したとき、欧州内貿易での競争力を失いたくない旧ユーロ圏各国の間で、し烈な通貨安競争が想定されます。また、すでに行き詰まった多重債務国(ギリシャなど)は、劇的な通貨切り下げでもって実質的な債務帳消しに走る可能性が高い。
このように、各国のデフォルトは回避できても、自国通貨安競争に伴う混乱は欧州全体から世界へ広まってゆくことが懸念されます。

なお、仏大統領選の投票は、第1回(4月23日)のトップが過半数の票を集めない限り、上位2名が第2回の決戦投票(5月7日)に臨む制度。主要メディアの報道によると、第1回がルペン国民戦線党首の一方、第2回がマクロン前経済相がやや優勢とのことです。
しかし、昨年の米大統領選(開票半ばまで一貫してクリントン候補が圧倒的優勢)と英国民投票(直前の世論調査ではEUへの残留がやや優勢)での経験則から、”偽ニュース"との悪評高い報道は信頼できない。

一方、10年物のフランス国債のドイツ国債に対する高水準のスプレッド(上記)は、ルペン氏の当選を織り込んでいると見受けられます。巨額の政府債務をまかなう国債の市場参加者の眼はごまかされません!
イギリスのEU離脱、アメリカの自国第1主義の大きな影響を受けている欧州情勢の動きは、引き続き予断を許さない。

アナリスト工房 2017年2月27日(月)記事