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イスラエルへ引導を渡す米ロ首脳

実体のない”ロシア疑惑”は、軍事利権にしがみつく抵抗勢力の悪あがき

2018年7月25日(水)アナリスト工房
(2018年7月26日(金)脚註追加)

世界の市場を眺めるときには、相場への影響が大きな"地政学リスク(ある地域の政治・軍事・社会情勢が世界へ悪影響する危険)"を考慮することが大切です。なかでも東西陣営が激しく交戦してきたシリアを有する中東は、"世界の火薬庫"にふさわしい最大級の地政学リスクがあり、イスラエルが滅亡の危機にさらされるとんでもない事態へ悪化しています。

7月12日、ロシアやイランが支援するシリア政府軍は、米英仏やイスラエルが養成・援助する反政府軍が支配していたシリア南西部の都市ダルアーを奪回し、イスラエルの不法占拠地ゴラン高原のすぐ東側まで迫りました。
そのとき、シリアと一緒に戦うイラン革命防衛隊のサラミ副司令官は、「(イスラエルの)悪の政権を根絶せよとの命令待ち」の状態。イスラエルの北側の国レバノンでは、イラン傘下の武装勢力”ヒズボラ”がなんと10万発のミサイルをイスラエルへ見舞う準備完了でした。

▼次回会談での米ロ合意への落とし所は、米軍とイラン軍のシリア撤退

7月16日のヘルシンキでの米ロ首脳会談は、親米のイスラエルが親ロのシリアやイラン勢に攻められ軍事的敗北が濃厚となるなか、シリアの和平とイスラエルの安全確保が最重要テーマです。

会談後の記者会見でプーチン露大統領は、米ロが共同でシリア和平を確立していくこととを表明するとともに、シリア・イスラエル間の国境の線引きには1974年の"兵力引き離し合意”を適用することを提唱しました。しかし、シリア政府軍と共闘するイラン勢の去就については、記者会見時のプーチン氏は触れていません(下記)。

「冷戦は終わった。米ロのイデオロギー対立は遠い過去の名残だ。(中略)シリアの和平と平和を確立させる作業は、米ロ協調の最初の成功事例となるだろう。シリア南部には、1974年のイスラエルとシリアの間での"兵力引き離し合意”を適用するべきだ!ゴラン高原には平和が訪れ、シリアとイスラエルは互いに平和な関係を築き、イスラエルは安全となる」
プーチン露大統領(Jul 16th 2018)米ロ首脳会談の記者会見

実は、米ロ首脳会談に先立つ11日のロシア・イスラエル首脳会談では、イランの去就に関するプーチン氏からネタニヤフ首相への伝達事項は次の2点。

・シリアでのイランの関与については、シリア全土のテロが退治されるまでは話し合う余地がないこと.
・イランの意向は、シリア政府への危険が解消すれば、シリア駐留を続けるつもりがないとのこと.

すなわち、テロリスト(反政府軍)とその支援国が去りシリア全土が平和を取り戻さない限り、イランはシリアでの政府軍への助太刀を続ける意志を固めています。イランがシリアから撤退するためには、反政府軍も米軍もシリアを退く必要があるのです。

その点は、米ロ首脳会談でプーチン氏からトランプ米大統領へ伝えられ、議論が始まりました。会談後にプーチン氏とともに記者会見に臨んだトランプ氏によると、今回はシリアの和平とイスラエルの安全確保に関する合意には至らなかったが、米ロ協調の意義を互いに認識のうえ建設的対話を続けていくことが決まったと見受けられます(下記)。

「米ロの建設的対話は、世界の平和と安定を新たに切り開く機会を生む。(中略)私がプーチン大統領に重要だと強調したのは、イランに対し、核開発への野望と中東・シリアでの過激な軍事行動を止めるよう圧力をかけること。長時間にわたり話し合ったが、シリア危機は複雑だ。とはいえ、米ロが協調していくことにより、数多くの生命が救われるだろう」
トランプ米大統領(Jul 16th 2018)米ロ首脳会談の記者会見

次回の米ロ首脳会談は、年末のワシントンあるいはG20首脳会議(11月30日-12月1日)時のブエノスアイレスの方向で、さっそく両国が調整に入りました(*)。

トランプ・プーチンの次の会談では、シリアの和平とイスラエルの安全確保は、中東の軍事覇権をすでに握っているロシアの案(1974年のイスラエル・シリアの"兵力引き離し合意”を適用)をベースに正式合意へ至る可能性が高い。なぜなら、深刻な米財政赤字を減らしたいトランプ氏は、中東をロシアに任せ米軍を撤退させる意向を繰り返し表明していますからね。

米ロ合意に至った場合には、引導を渡され中東での勢力縮小を促されるイスラエルがゴラン高原を退くのであれば、イランがシリアを去ってゆくでしょう。すると、アメリカの対イラン制裁(各国へのイラン原油禁輸要請など)が軽減され、原油市況が反落するかもしれません。

▼大統領選へ執拗に介入した抵抗勢力が、その疑惑をロシアへ転嫁

一方、中東での軍事利権を失いたくない抵抗勢力(軍産複合体、諜報機関、歴代政権など)は、2016年の大統領選にロシアが介入したとの”ロシア疑惑”をでっち上げ、いまの米ロ協調を崩そうと企んでいます。

しかし米ロ首脳会談の記者会見の質疑では、抵抗勢力派の偽主要メディアからのロシア疑惑への詰問に対し、プーチン大統領がとんでもない事実を暴露し反撃。米国生まれの実業家ブラウダー氏のロシアでの脱税資金4億ドルを米諜報機関がアメリカへ不正送金し、クリントン陣営への寄付金に充てたのです(下記)。

「ロシアで15億ドル以上稼いだ実業家のブラウダー氏は、ロシアにもアメリカにも税金を納めないままアメリカへ送金した。送金額4億ドルの使途は、ヒラリー・クリントンの大統領選キャンペーンへの寄付金だ!(中略)何人かの米諜報機関員が関与し送金処理を先導していたことは、信じるに値する確かな理由がある。われわれは彼らに問いただしたい」
プーチン露大統領(Jul 16th 2018)米ロ首脳会談の記者会見の回答

すなわち、さきの米大統領選へ資金面で大量介入した疑惑は、脱税行為とマネーローンダリング(資金洗浄)を幇助したアメリカの諜報機関にあるのです。

誰を米大統領に選ぶか人選面での介入疑惑も、実はアメリカ国内にあります。
2016年のロシア介入疑惑のはじまりは、DNC(米民主党全国委員会)のIT担当セス・リッチ氏が、DNC幹部の間で交わされた電子メールをウィキリークスを通じて公表したこと。それらのメールは、民主党内での大統領予備選で最も人気を集めていたサンダース上院議員でなく、2番手にすぎないクリントン元国務長官を勝たせるよう働きかける内容だったのです。

同年7月、正義感の強いリッチ氏は路上で強盗に射殺されたはずが、不思議なことに彼の財布もクレジットカードも手付かず無事。直後、DNC委員長のワッセルマンシュルツ氏が、民主党員の大勢を占めるサンダース支持者の非難を浴び辞任しました。
ワッセルマンシュルツ氏の後任ドナ・ブラジルDNC暫定委員長は、民主党内の予備選がクリントン氏有利に働くよう仕組まれていたことを、翌2017年11月に暴露本の出版とその記者会見で公にしています。

さきの大統領選挙では、クリントン候補優勢との不適切な世論調査に続き、投票権のない不法移民を大量動員したクリントン氏への投票活動がカリフォルニア州などで目立ちました。しかし、全米規模での不正は開票・集計の段階で阻止され、米国民の民意に沿った大統領が無事選ばれたのです。

このように“ロシア疑惑”の真相は、米諜報機関によるマネーローンダリングでのクリントン陣営への献金、DNC(米民主党全国委員会)による予備選の不公正な運営、クリントン支持の偽主要メディアによる不適切な世論調査に続く不正選挙活動。アメリカ国内の抵抗勢力への疑惑がロシアへ転嫁されたのです。

幸い、矛盾だらけの偽主要メディアが信用と世論形成力を失うなか、実体のない”ロシア疑惑”が米ロ協調路線を覆す可能性はもうほとんどない。シリア、イスラエル、イランの中東問題は話し合いで解決され、世界の市場へ計り知れない影響を及ぼす"最悪の地政学リスク"は後退してゆくでしょう。

アナリスト工房 2018年7月25日(水)記事

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*)日本時間7月26日未明(現地時間25日午後)、次回の米ロ首脳会談を調整しているボルトン米大統領補佐官は、会談日程が2019年の年明け以降へずれ込むとの声明を公表(下記)。

「トランプ大統領は、次回のプーチン大統領との首脳会談が”ロシア魔女狩り(ロシア疑惑)”の終了後に開催されるべきとの考えだ。よって、次回の米ロ首脳会談は2019年始以降となる」
ボルトン米大統領補佐官(25th Jul 2018)

次回の米ロ首脳会談は、米政権内にもいる軍産複合体(諜報機関のトップなど)への配慮から、今年末にワシントンで開催の選択肢が消えてしまいました。

しかし、軍産複合体の親分イスラエルは、国家存続のために隣国シリアからイラン軍が立ち退くよう、トランプ米大統領にプーチン露大統領を通じて早く説得してもらいたいのが実情。
実体がなく立証不可能な”ロシア疑惑(ロシア魔女狩り)”はやがて立ち消えになり、次回のトランプ・プーチン会談は来年の早期(あるいは緊急性が生じた場合にはG20首脳会議の機会を利用し年内)に開催されるでしょう。