高利回りでもドルを守れない米国債

アメリカの長期金利上昇は信用リスクの悪化が原因

2018年1月24日(水)アナリスト工房

イギリス国民がEU離脱を決めた2016年6月から今月9日までの市場では、米国債利回りがドル/円相場の最大の決定要因でした。

日本の投資家によるヘッジ付き外債投資(ドル売り・円買いヘッジ付きでの米国債などへの投資)の額が積み上がるとともに、米国債が売られ利回り上昇したときは、そのヘッジ調整のためのドル買い・円売り戻しがドル/円のドル高・円安へ作用します。結果、10年物米国債利回り(米長期金利)とドルの相関は、つい先日までは完全連動に近いぐらい極めて強かったのです(図表:*)。

しかし今月10日、中国当局の外貨準備運用を見直している高官が米国債購入を減額あるいは停止するよう勧告したとのBloomberg記事(**)をきっかけに、需給悪化が懸念される米国債は価格急落・利回り急伸の一方、中国のドル買い需要減少の可能性からドル/円は急落。

このとき、米国債利回りとドル/円の相関関係が崩れはじめました(図表:最も高利回りの直近のプロット群が近似直線から大きく下方へ乖離しています)。

▼米国債への評価が低い中国は、対米貿易摩擦により投資意欲が減退

上記記事(**)によると、アメリカの最大の債権国である中国が米国債投資を減額・停止の方向で検討している理由は、米国債の魅力が他の資産よりも劣ることと、アメリカとの貿易摩擦の影響の2つ。

先週16日、中国の大手格付機関「大公国際」は、アメリカ合衆国のソブリン格付(米国債の信用格付)をAからBBBへ格下げ。法人税率を引き下げ10年間で1.5兆ドルの大幅減税を推進する米税制改革法が先月成立したことから、政府債務のさらなる膨張が懸念されるアメリカは、日本(A)・ドイツ(AA)・カナダ(AA)を下回るランクへ引き下げられてしまいました。

しかも、将来の方向性はネガティブ(弱含み)のまま。アメリカの信用リスク悪化に歯止めが掛からないことが、米国債の魅力を損なっているのです。

同日の習・トランプ電話会談では、トランプ大統領は対中貿易赤字が拡大し続けていることへの失望とそのような状況が容認できないことを習国家主席へ伝えました。

そのうえ今週22日、シャットダウン(予算の期限切れに伴う米政府機関閉鎖)の最中にもかかわらず、トランプ政権は16年ぶりにセーフガード(輸入急増に伴う国内産業への重大な損害を防ぐための緊急輸入制限)を発動。中国からの輸入が多い太陽光パネルは、30%の関税上乗せが課されます。鉄鋼・アルミの輸入制限も検討中。

ついに米中貿易摩擦が本格化してきました。中国の対米輸出が落ち込んだ場合には、その外貨準備高とともに米国債投資が伸び悩む要因です。

▼米議会の根深い対立騒動が続き、米国債価格とドルは連れ安へ

話を米国債とドルの相関関係へ戻しましょう。トランプ氏の大統領当選後、これまで10年物の米国債利回りが2.6%台のピークを3度(2016年12月、2017年3月、2018年1月)つけています。それぞれの米国債利回り(x)に対応するドル/円の近似直線(y=12.63x+82.59:上記図表)上の理論値、実際の市場レートは下表のとおり。

米国債利回り ドル/円の市場レート

・Dec 12th 2016: 2.606% 118.2円(理論値よりも2.3%円安)

・Mar 13th 2017: 2.626% 114.9円(理論値よりも0.8%円高)

・Jan 19th 2018: 2.661% 110.7円(理論値よりも5.0%円高)

なかでもシャットダウン(今月20-22日の米政府期間閉鎖)が決定した先週19日は、米国債が最も高利回り(2.661%)にもかかわらず、ドル/円の市場レート110.7円は理論値116.2円(=12.63×2.661+82.59)から大きく円高方向へかい離しています。

今週22日、米議会がつなぎ予算を可決・成立し、翌23日から政府機関が再開。とはいえ、政策面での与野党の歩み寄りがないまま2月8日までわずか20日間のつなぎでは、信用力とともに需給が悪化したアメリカの国債と通貨はいっそう心もとないですね。

シャットダウン終了後も2.6%台の高利回りとともに円高・ドル安が続いていることから、完全連動に近かった米国債利回りとドル/円との強い相関関係はすっかり崩れてしまい、米国債とドルはともに売られています。

米議会の最大の争点は、子供のときに親と一緒に不法入国した移民に引き続き米国滞在を認めた、オバマ前政権時の大統領令”DACA”。

アメリカ人としての身元確認のためのIDをもたない大量の不法移民を動員した2016年の大統領選でのヒラリー候補への不正投票を糾弾しているトランプの共和党は、そんな移民を国外追放できないDACAにはもちろん断固反対

「民主党が勝った州の大半は、2016年の大統領選挙のデータを不正投票調査委員会へ提出するのを拒否した。記録や集計方法を委員会へ見せないよう必死に抵抗するのは、不正投票した者が大勢いることを知っているからだ。投票システムは不正操作されているので、有権者ID制へ移行すべきだ

「アメリカ人はさまざまな場面でときには厳重でしかも正確な認証が必要とされている一方、いちばん大切な国政選挙の投票では認証不要なのが実態だ。有権者認証の制度を断固推進する!

トランプ米大統領(Jan 4th 2018)Twitter

一方、移民の大量得票を失いたくない民主党は、今年3月末に期限切れとなるDACAを絶対に延長させたい。

互いに生存をかけて競う与野党の歩み寄りが期待薄のなか、問題解決がまったく進まないだけでなく、いまのつなぎ予算が終わる翌2月9日から再びシャットダウンするかもしれません。

また、4月以降には米政府債務残高(2017年11月からは上限額に等しい20.5兆ドルのまま)の上限額を議会承認のうえ引き上げる必要がありますが、いまの対立状況では従来よりも承認が難航しそうです。

以上を踏まえ、今月10日からはじまった米国債の高利回り・価格安、ドル安の傾向はしばらく続くでしょう。年内に10年物米国債利回りは3.0%(2014年初につけたピークと同水準)、ドル/円相場は101円(2016年11月のトランプ当確直後のボトムは101.15円)への展開が予想されます。

アナリスト工房 2018年1月24日(水)記事

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*)10年物米国債利回りとドル/円との相関関係を表すR2(相関係数の2乗:0.5以上が強い相関の目安)は、0.878と極めて強い相関を示していた。

**)英文のBloomberg記事(Jan 10th 2018)の題名は"China Weighs Slowing or Halting Purchases of U.S. Treasuries”。