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安全の実質利回り(外は"零下")

「悟空は、瞬時に10万8千里をゆく金斗雲に乗ったが、いくら飛び回っても釈迦の掌から抜け出せなかった。」(「西遊記」:筆者要約)

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GDP比で超高水準の国の借金、原発停止に伴う電力供給への懸念、放射能汚染の深刻化、・・・。そんな「日本リスク」を嫌気した富裕層の資産が、海外へ逃げ出している。彼らは、海外金融機関の海外支店に口座を設け、そこを拠点に資産運用を行なう。

日本人富裕層の外国での資産運用が急速に広まってきているが、彼らが我が国から”脱獄”させた財産の価値を保つには並大抵でない努力を要するであろう。グローバル化がすっかり浸透した今、国内外の投資環境に大差ないからだ。失われての「日本病」が欧米諸国に次々と伝染し、海外投資の環境も大きく悪化している。以下そのことを、彼らの運用手法と国内外の市場環境から説明する。

まず、日本人投資家の資産運用の特徴は、債券と現預金から成る”安全資産”に重点を置いていること。資産額5億円以上の”アッパー富裕層”も、運用ポートフォリオに占める安全資産の割合は、3割弱から7割以上と個人差は大きいが、平均的には5割前後。”質への逃避”したまま引きこもり、リスクをとることに慎重な安全志向が見て取れる。

安全資産は、最終的にはその大部分が国債で運用されている。債券は、社債や地方債よりも、超多額の国の財政を賄う国債の発行量が圧倒的に多い。現預金の大半を占める預金も、その預け先の金融機関での資金運用の中心が国債だからだ。

海外での資産運用は$をベースに行なうのが基本で、そこでの主な安全資産は米国債である。2011年10月末における米国債10年物の利回りは年2.1%。日本国債(年1.0%)よりも高利回りだが、インフレを考慮して評価することが大切。運用での最低限の目標は、インフレに負けることなく資産価値を実質目減りさせないことだからだ。

直近の米国のインフレ率は、9月のCPI(消費者物価指数)に基づき年3.9%。「借金はお金を刷って返せばいいさ」との基軸通貨国の無責任姿勢は、$安(円高)だけでなく過度のインフレをも招いている。よって、インフレ考慮後の実質リターンは年△1.8%(=2.1-3.9)と幾らかマイナス。

そのペースが続くと、満期の10年後までに資産価値がインフレで実質17%失われてしまう。米国以外の主要諸国の国債も、軒並みマイナスの実質リターンであることを付け加えておく。


一方で、我が国の安全資産での運用環境は比較的良好。上記と同時期のCPI(年0.2%)に基づき、10月末の日本国債10年物の実質利回りは年0.8%(=1.0-0.2)。

日本は世界一の低金利だが、国民の節約志向と円高の追い風を受けて物価が安定しているため、リスクをとることなしに実質プラスのリターンが得られる。先般の金融危機で「日本病」が発病した欧米先進国は、経済活力の低下に伴い金利水準はかつてほど高くない。日本人の好む安全資産の運用では、実は今「Japan as No.1」なのである。

海外へ金融資産を移す日本人は、従来通りの安全志向型の運用を続けた場合には、インフレでその実質価値を徐々に減らしてしまいかねない。ポートフォリオのリスクを抑えるために安全資産もある程度は必要だが、そればかりでは負ける。
日本より幾らか高い海外の安全資産の名目利回りの水準に惑わされることなく、リスクをとってそれ以外の資産で稼ぐことが大切である。

2011年11月11日