2013年7月10日(水)
What has been, may be.(過去にあったことは、将来も起こるかもしれない)
- ときどき耳にする英語のことわざ -
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国の経済活力の一番の源は、生産活動を支える国民の労働力である。労働を担う生産年齢人口が伸びているときは、力強い経済成長を謳歌できる。しかし、成熟化とともにそれが減少に転じたとたん、成長の歯車が外れて危機に陥ることがある。
わが国は、1996年から生産年齢人口が減り始め、翌1997年からは不動産ローンなどの不良債権を抱え込んだ大手金融機関が次々と破たんし、深刻な金融危機を経験した。
そして今、16年のタイムラグを経て、日本の大きな災いが中国で再現されようとしている。
1980年から「1人っ子政策」を推進してきた中国は、2012年には生産年齢人口が減少に転じるとともに、実質GDP成長率が前年比7.8%増(2011年は同9.3%増)と伸び悩んだ。
成長鈍化につれて不動産開発が行き詰まるなか、翌2013年の初頭からは大量の開発資金を供給する「理財商品(WMP: Wealth Management Products)」の不良債権化が懸念材料となっている。
理財商品は、投資家から集めたお金を地方政府の設立した開発会社などに貸し付けて運用する高利回りの金融商品である。
銀行の販売する短期(満期まで半年以内が主流)の確定利回り商品(Fixed income)だが、債務者(不動産開発会社など)がデフォルトした場合の損失は銀行でなく投資家が被る。一部の商品を除き、元本保証はない。そのため理財商品は、ハイリスク型のローン債権の証券化商品と性質がよく似ている。
2010年頃までの中国の不動産開発は、主要都市・街を結ぶ高速鉄道(日本でいう新幹線)・地下鉄など、利用者の需要と経済への波及効果の高い優良案件が主流だった。しかしその後、ノルマに追われた地方政府は、需要も効果もない遠隔地の開発事業を次々と強引に推進した。
生産年齢人口の頭打ちとともに経済成長が鈍化するなか、利用をほとんど見込めなくなった数々の事業案件が行き詰まっている。工事中止を余儀なくされ荒れ果てた建設予定地の様子は、90年代のわが国でもよく見られた光景である。
開発バブル崩壊の影響は、やがて資金調達先の理財商品へ波及していく。
中国の理財商品の投資残高は13兆元(*:2.1兆ドル)。世界の市場動向を左右するヘッジファンド(全世界の投資残高2.1兆ドル:**)と同じ規模であることから、デフォルトが本格化した場合の投資家の損失ならびに世界経済へのインパクトは極めて大きい。
わが国の第2位の輸出先国の金融危機は、回復基調にある日本企業の業績にも冷や水を浴びせる。
デフォルトは理財商品の投資家だけでなく、実は銀行にも及ぶ。開発事業は、理財商品だけでなく銀行のローンでも運転資金などを調達しているからだ。理財商品の組み立ての際にも、よりハイリターンを追求しようとレバレッジを高める目的で、ローンが活用されている。
ヘッジファンドと同様に、理財商品は「影の銀行(シャドー・バンキング:***)」と呼ばれている。その"影"の持ち主はもちろん商業銀行だが、国家資本主義の体制をとる中国の商業銀行は国営である。国営銀行の扱う理財商品は、地方政府の開発資金を供給する政策金融の一貫といえよう。
このように中国の金融システム全体に及ぶ危機が懸念され、足元の同国の株価指数(上海総合指数)は2月に付けた年初来高値から20%も急落している。
1997年からの金融危機を経験したわが国は、成熟国家にふさわしい新たな成長の歯車を見出し、株価指数(日経平均)が底入れしたのが6年後の2003年であった。
今年から顕在化してきた中国発の金融危機は、どのような対策を経ていつ脱却できるのだろう?
株式会社アナリスト工房
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*)理財商品の投資残高は、格付機関フィッチ・レーティングスの2013年6月の推計値。
**)ヘッジファンドへの投資残高は、ヘッジファンド・リサーチ社(HFR)の2013年3月の集計値。
***)理財商品、ヘッジファンド、消費者金融など、銀行以外の金融業者の営む金融ビジネスを、影の銀行(シャドー・バンキング)」という。