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黄色ベストとトランプの自国第1協奏

パリ発、世界各地のデモ決起を追い風に、米政権がグローバリズム追討

2018年12月25日(火)アナリスト工房

世界の市場経済が行きづまり金融危機への様相をみせはじめるとともに、勢力拡大した自国第1主義と悪あがきで抵抗するグローバリズムとの衝突が激しくなっています。

イギリスがEU(欧州連合)からの離脱を決めた2016年の英国民投票からはじまった自国第1主義は、アメリカへ上陸し17年に米大統領に就任した反移民のトランプ大統領が本格的に勢いづかせ、さまざまな国々(イタリア、ブラジル、メキシコ、ドイツ、フランス、オランダなど)へ次々と広まっていきました。

しかし、フランスの17年の大統領選では、反EU・反移民を掲げる自国第一のルペン候補の票が大量に破られ無効となり、EUの結束を重視する典型的なグローバリストのマクロン氏が選ばれてしまいました。時の流れに抵抗し民意が得られないマクロン大統領は、足元の支持率がなんと23%と低迷中(仏Ifop社が18年12月16日公表)。

18年11月17日から毎週土曜のフランス各地では、黄色いベストを着たデモ隊が富裕税廃止と燃料増税に伴う格差拡大などに反対し”打ち壊し"を伴う大暴れ。グローバリズム推進のために中流層以下の国民よりも環境保護が大切なマクロン仏政権は、フランス革命の再来と限度オーバーの財政悪化への危機にさらされています。

黄色ベスト着用のデモは、フランス国内にとどまらず他のEUの国々・中東・北米へ次々と広まってきました。デモの実態と舞台裏はどのようになっているのでしょうか?
なかでも北米では、トランプ米政権が国境の壁建設での反不法移民や米軍の海外撤退など自国第1の政策推進を急加速。市場経済を取り巻く世界情勢が激変しはじめています。黄色ベスト運動と米政策推進のコラボレーションが、これからの市場経済と世界情勢に与える影響はいかに?

▼仏警察労組が警官たちへ黄色ベストとの団結を呼びかけ、歴史が動いた

18世紀のフランス革命の幕開けとなったバスチーユ要塞襲撃(1789年)は、デムーラン弁護士がパリのパレ・ロワイヤル(王室宮殿)の庭園に集まった群衆へ「武器をとれ!」と呼びかける演説がきっかけでした(下記)。

「デムーランは大きな声で呼びかけた。市民諸君、聞いてくれ。(中略)
”今夜にもスイスやドイツの傭兵どもが我々を皆殺しにするために、パリに突入してくるに違いないんだ(中略)我々が助かる方法は、ひとつしかないのだ。武器をとれ”
呼びかけに呼応して、パレ・ロワイヤルに地鳴りが生じた。と思うや、四方の建物に切り取られた空に、ぶわと砂煙が舞い上がった。皆が立ち上がっていた。(中略)こうでなくては歴史は動かんよ」
佐藤賢一『小説フランス革命』集英社文庫(2011−2015)

一方、21世紀の黄色ベストのデモ隊が武器をとって敵へ投げ返し反抗するきっかけは、フランス警察の労組が警官たちへ労働者仲間のために決起を促した呼びかけと見受けられます(下記)。フランス革命の英雄デムーランは、労組役員を務める警官としてよみがえり、再び歴史を動かしたのかもしれません。

「黄色ベストのデモ隊の要求は、われわれ一同にも関わりがある。合法的にデモ隊を組んで彼らと団結し、要求を勝ち取る時が来た。(中略)政府に雇われているわれわれには残業代が支払われているが、そうでない彼らはまだ報われていない」
フランス国家警察・内務省労組のFacebookでの声明(Dec 5th 2018 )

18年12月8日の首都パリのデモ中継では、治安部隊が撃ち放った催涙弾をデモ隊のなかで屈強な者たちが拾って絶妙なタイミングで投げ返し反撃する場面が、あちこちで何度も展開されました。
もしも、拾った催涙弾が炸裂した場合には、彼らの手が吹っ飛ぶ危険があります。にもかかわらず、上手にタイミングを計り催涙弾を治安部隊へ次々と上手に投げ返していく彼らは、警官など武器の取り扱いに慣れたプロとみてとれます。

これまでの黄色ベストデモの途中経過は、19年に予定されていた燃料増税が中止となり、デモ隊が要求の一部を勝ち取りました。とはいえ、富裕税廃止の予定が変わらずしかも18年までに次々と実施された燃料増税が撤回されないため、彼らが望む格差是正にはまだまだ程遠い。

フランス各地の毎週土曜のデモは、クリスマス直前も激しく続いています。12月22日のパリのシャンゼリゼ通りでは、デモ隊の勢いに押された治安部隊が放水車とともに撤収する場面がみられました。
バスチーユ要塞が襲撃されてからルイ16世(1754−1793)が断頭台へ送られるまで4年かかった歴史を踏まえ、"21世紀のフランス革命"は2019年の年明け以降もデモの要求貫徹までまだまだ続くでしょう。

12月16日のフィリップ仏首相の発言によると、富裕税の廃止やさらなる燃料増税の中止により、19年のフランスのGDPに対する財政赤字は3.2%となる見通し。
経済・財政を損なうデモが続くフランスの財政赤字は、EU最大の債務国イタリア(19年は対GDP2.04%の見通し)よりも悪化するだけでなく、EUが厳しく管理する限度枠(対GDP3.0%)をクリアできなくなる可能性が高い。グローバリズム推進のリーダー、マクロン大統領のフランスは発言力低下する可能性が高い。

なお、フランス発の黄色ベスト着用のデモは、他のEUの国々(ベルギー、オランダなど)・中東(イスラエルなど)・北米(カナダ)へ広まっています。
なかでもEU本部のあるベルギーでは、燃料などの物価高騰や移民の流入に反対するデモが深刻化するなか、国連移民協定の受け入れに猛反発する第1党が連立政権から離脱。取り残された移民に寛容的な少数与党のミシェル首相は、18年12月18日に辞意を表明しました。世界各地のグローバリズムは窮地に追い込まれているのです。

▼反不法移民のトランプ政権の米軍撤退策が各国の黄色ベストとコラボ

北米では、パリ発の黄色ベストデモが反炭素税を唱える産油国カナダの人々へ広まった背景には、隣国アメリカのエネルギー産業が自国第1のもと産油量を順調に伸ばしている事実があります。

トランプ米政権が自国第1を本格化するきっかけとなったのは、「地球温暖化を防ぐため」と称しエネルギー産業に厳しい規制を負わせる、国際協調”パリ協定”から2017年に離脱したことです。
そもそもパリ協定の本質は、温暖化防止の規制を敷くよりも”緑の気候基金”を通じた先進国から新興国へのバラマキ援助と見受けられます。援助資金の流れが極めて不透明なことからも、従来の国際援助と同様にグローバリストへのキックバックを通じた巨額の利権がみえみえですからね(下記)。

「苛酷なエネルギー規制を負わせるパリ協定は、名前だけが立派な”緑の気候基金”を通じて、アメリカの富を新興国へ配る仕組みだ。(中略)そのお金がどこへ行くのかは、誰も知らないし、誰も語ることができない」
「パリ協定は、アメリカの経済を損ない、労働者を挫折させ、国家主権を弱体化させる。(中略)その前に、いまパリ協定を離脱する」
トランプ米大統領の『パリ協定離脱の声明』Jun 1st 2017

パリ協定から離脱したアメリカは、エネルギー産出量を順調に伸ばしています。18年11月最終週の原油および石油製品の輸出量が輸入量を上回り、アメリカは75年ぶりに純輸出国へ復帰しました。一方、パリ協定に残ったままのフランスは、国民に幅広く重い燃料税を負担させた結果、深刻なデモが続き政権存続の危機を招いているのです。

米政権の自国第1を象徴する重要政策は反不法移民。そのためにメキシコとの国境沿いに建設中の"トランプの壁"の国境警備予算が、不法移民に寛容的な野党民主党の根強い反対により、相変わらずなかなか議会合意に至らない。2019年度(18年10月−19年9月)の12月21日までの米連邦政府のつなぎ予算が延長できないまま、以後いくつもの米政府機関が閉鎖中。

18年11月以降は米軍が、中南米(ホンジュラス、エルサルバドル、グアテマラ)からアメリカ移住を目指す集団を阻むために、有刺鉄線付きの国境防衛のための防壁をつくりはじめました。それまで国境警備予算でまかなっていたトランプの壁は、すでに19年度末まで確保済みの潤沢な軍事予算も活用できるようになったのです。

それでもなお、トランプ大統領が新たな議会合意を要する国境警備予算での壁建設費にこだわるのは、政府機関閉鎖を長期化させ国家デフォルトを促すことが狙いかもしれません。アメリカ合衆国がデフォルトした場合には、通貨ドルが切り下がることにより、トランプ貿易戦争が目的とする不均衡是正が実現できるでしょう。

アメリカの政府機関閉鎖と並行して、中東からの米軍撤退がはじまりました。12月19日、ホワイトハウスはシリアに駐留する2,000人の米軍をアメリカ国内へ引き揚げ始めたと公表。直後、在アフガニスタン米軍14,000人を半減させる政府方針も決まりました。
歴代の米政権は17年間にわたり中東へなんと7兆ドルも費やしており、その額はいまの米政府債務残高の3分の1を占めています。いまのトランプ政権は、そんな愚かな歴史にいよいよ終止符を打つのです(下記)。

「いずれ国益のために、われわれは民主党と超党派の取り組みをはじめる。最初はインフラ建設だ。愚かなことにアメリカは、これまで中東で7兆ドルも費やしてしまった。今度こそは、わが国を建て直す!」
トランプ大統領(Dec 22th 2017)Twitter

そもそも、世界各地へ押し寄せる移民を生み出した主犯は、米軍の海外での軍事行動でした。とくに中東のシリアでは、アサド政権が米軍の関与を拒んでいるにもかかわらず、軍産複合体に促された歴代の米政権がISなど反政府勢力を支援しながら米軍駐留を続けてきたのです。
しかし、移民流入問題が世界的に深刻化するなか、各国の黄色ベストデモとトランプ米政権との自国第1・反移民のコラボレーションが形成され、移民受け入れを拒むだけでなく移民を生ませない潮流がいよいよ本格化してきました。

なお、海外撤退した米軍がミサイルなど超高価な兵器のいらない国内の国境防衛を担うことにより、軍人たちの雇用を守りながらアメリカの財政を圧迫してきた軍事費が削減できるでしょう。グローバリストの軍産複合体の利権のために犠牲を強いられてきたアメリカ軍人たちへの、自国第1トランプ政権の配慮はバッチリです。
帰還した軍人たちの"とった武器”の矛先が、勢いづいた自国第1主義と追討されるグローバリズムのどちらへ向かうかは言うまでもない。

アナリスト工房 2018年12月25日(火)記事