米露トルコ協演 シリア軍事プロレス

各国の狙いどおり米軍撤退、覇権譲受、難民帰還へWin-Win-Win

2019年11月14日(木)アナリスト工房

「アメリカの歴代政権が中東になんと8兆ドルも費やした*)」と繰り返し非難しているトランプ大統領にとって、中東政策の最重要課題は最大の金食い虫の米軍を現地から撤退させること。そうしなければ、政府債務残高を不自然に倍増させる暴挙を犯したオバマ前政権のときから”デフォルト騒動”を連発しているアメリカは、国家財政破たんを避けられないのが実情だ。

16年の大統領選演説のときトランプ氏は、オバマ氏とクリントン元国務長官を「IS(中東のテロ組織)の共同創設者だ!」と、名指しでの指摘を繰り返した。海外各地の利権を貪りたい軍産複合体(戦争屋)の意向どおり、オバマ前政権は中東のシリアや東欧のウクライナに大量の米財政資金を費やし、スパイ工作を通して紛争と内戦を引き起こし米軍を介入させたと見受けられる。

アメリカが親ロ政府を倒し親米政府を樹立させたウクライナ紛争をきっかけに、現地の利権で私腹を肥やしたオバマ前政権の汚職が露わになった。

ジュリアーニ元NY市長(いまはトランプ大統領の顧問弁護士)の調査によると、当時のアメリカの傀儡ポロシェンコ前ウクライナ政権は、バイデン前副大統領とその息子ハンター氏へ6〜7百万ドルを送金。アメリカが財政赤字を膨張させ捻出した現地への軍事支援資金は、キャッシュバックされ米副大統領の汚職の原資と化した(ウクライナ疑惑を晴らす元NY市長)。

にもかかわらず、オバマ前政権の汚職が強引にトランプ大統領の”ウクライナ疑惑(トランプ氏がウクライナ大統領へ選挙介入を軍事支援と引き換えに強く要求したとの疑い:もちろん濡れ衣)”にすり替えられようとしている。

幸い、ジュリアーニ氏が上記調査結果の概略をツイッターで公開のうえ主要メディアFOXのニュース番組に出演し、オバマ政権時の軍事利権貪りの実態がマネーローンダリングされた汚職資金の流れととともに生々しく暴露(9月25日)。直後、バイデンは民主党大統領候補の筆頭から転げ落ちた。

前政権の汚職・収賄を糾し軍産複合体をけん制しながら、トランプ政権は不正の温床かつ財政膨張の元凶となっている軍事利権を潰すために、米軍の海外撤退を中東地域を中心にいっそう加速しはじめようとしている。

なかでも最大の激戦地シリアからの米軍撤退のお膳立てを担ったのは、中東での軍事覇権確立まであと1歩のロシアと、米欧軍事同盟NATOに加盟しながらロシア製地対空ミサイルS400を導入した東寄りのトルコの2カ国だ。

<シリア内戦(2011年3月−)の両陣営と現地の武装勢力>

・西側: アメリカ、イスラエル、フランス、イギリスなど

・東側: ロシア、イラン、シリア、トルコなど

・見捨てられた武装勢力: YPG(クルド)、IS(ダーイッシュ)

今年8月の露トルコ首脳会談では、シリア政府軍による同国北部への空爆強化に伴いトルコへ逃げる難民が増えていることを懸念したトルコのエルドアン大統領に対し、ロシアのプーチン大統領はシリアとの国境沿いに安全地帯を設置する対策案を提示。

アメリカとイランの同意を得たそのプーチン案を「平和の泉作戦」として実行したのは、360万人のシリア難民を抱え込んだトルコだった。

10月、国境を越えシリア北部に侵攻したトルコ軍は、現地の自治権をもつクルド人の武装勢力(YPG)をサッサと追放し、国境沿い400kmにわたり幅40kmの安全地帯を設置した。トランプ大統領は「トルコとシリアの国境に安全地帯が設置されたのは大きな成果だ。(中略)ありがとう!」と感謝の意を表明(10月23日のツイッター)。

11月1日からは、そのエリアをロシアとトルコが共同でパトロールを続けている。すでに安全が確保されたシリア北部の安全地帯には、トルコの抱えている難民のうち2百万人が帰還予定(10月29日のロシア・イラン・トルコ外相会談の記者会見)。

トルコがクルド人を排除のうえシリア北部の広大なエリアに安全地帯を素早く設置完了できたのは、現地の米軍がトルコ侵攻に快く協力し隣国イラクへ一目散に退散したためだ。取り残されたクルド勢力の指導者たちは在シリア露軍基地に駆け込み、彼らの領地をシリア政府へ返還することをロシア軍司令官の立ち合いのもと合意したのが実情。

かつて国をもたないクルド民族に軍事支援しシリア内戦を強引に引き起こしたアメリカは、いまのトランプ政権が財政上の理由により戦いを終わらせ米軍を撤退する決意を固めた。18年に2000人だった在シリア米軍は、油田の警備など担う500〜600人をひとまず残留させる予定だが、来年までに再び撤退を加速する可能性が高い

<トルコ軍のシリア北部侵攻 3カ国の狙いは?>

・深刻な財政赤字を抑えるために、米軍を撤退したいトランプ

・米軍に退いてもらい、軍事覇権を確立したいロシア

・クルド人を追放した現地に、シリア難民を帰還させたいトルコ

米軍に見捨てられたクルド勢力が東側のロシアの軍門に降ったことからも、すでに中東の軍事覇権はアメリカからロシアへ正式に移転したと解釈できる。ならば、米軍の中東撤退はシリアだけでなく他の国々も対象だ。

アフガニスタンでは、現地の武装勢力タリバンとの停戦協議は9月に決裂したが、エスパー米国防長官が(18年には14000人だった)在アフガン米軍を8600人へ任務に支障なく削減可能だと語った(10月20日の現地での記者会見)。トランプ大統領が18年12月に示した方針どおり、米軍のアフガン撤退も来年までに加速するだろう。

そのきっかけは、東アジアからの米軍撤退かもしれない。アメリカは韓国に対し来年の防衛費分担金(米軍駐留経費の負担)をなんと今年分の5.3倍の47億ドルへ値上げしたいとの無理難題を突きつけ交渉難航中。昨年比8.2%増の今年分の交渉でさえかなり難航したことから、来年分の交渉はこのまま決裂に終わる可能性が濃厚だ。

韓国に非現実的な防衛負担激増を強く迫るトランプ政権の狙いは、より多額の負担金を受け取ることでなく、交渉を決裂させ米軍を撤退させることと見受けられる。

トランプの意向どおり日本政府は、韓国を制裁し”ホワイト国(安保上の友好国)”から外すことで在韓米軍撤退への協力に踏み切った。韓国政府は、日韓唯一の軍事協定"GSOMIA(軍事情報協定)”を破棄通告(11月23日失効予定)。日米韓の同盟に大きな亀裂が入った。

すでに日米との同盟関係が薄れた韓国は、来年までに北朝鮮との国家統一に踏み切る可能性が高い。そのとき、中ロが後ろ盾となる東側の統一国家での米軍駐留はありえないため、米軍は朝鮮半島から去ってゆく。

その機会を活かしアメリカは、シリアやアフガニスタンなど中東からの米軍撤退を加速させる可能性が高い。朝鮮半島の有事に備える役割をあわせもつ在日米軍も縮小・撤退していき、東西の軍事バランスは一変するだろう。日頃から隣の国々と仲良くしておくことが大切だ。

アナリスト工房 2019年11月14日(木)記事

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*)米財務省の日次公表データによると、足元の米連邦政府債務残高は23.0兆ドル(19年11月12日時点)。アメリカの歴代政権が中東に費やした額は、なんと政府債務残高の3分の1以上を占める。