2013年1月10日(木)
今年の元旦になって、ようやく米議会下院が"財政の崖"を2カ月間先送りする法案を可決し、強制的な財政支出の大幅カットとそれに伴う経済の落ち込みはひとまず回避された。
主要国の株価ならびにドルの為替が高値圏での推移を続けているが、決して予断を許せる状況ではない。肝心な米国の財政問題が全く片付いていないからである。
今般可決された法案のなかで、世帯年収45万ドル以上の富裕層への所得増税は年400億ドルの財政収入増の要因となる。しかし、年0.7兆ドル(GDPの4.5%)の財政緊縮を強いられるなか、その効果は限定的といえよう。わずか"1%"の少数派の税率を上げても"焼け石に水"だからだ。
また、政府債務残高がすでに上限(16.4兆ドル)に達しているが、今般の議会ではその引き上げについては合意に至っていない。このままでは2月末には連邦政府の支出がままならなくなり、米国がデフォルトする可能性がある。
現在も株高とドル高が続いているが、米国債が大きく売られている点が懸念材料だ。米国債10年物の利回りは今般の追加緩和が打ち出される前の月(2012年11月30日)が1.62%に対し、足元(2013年1月7日)が1.90%。すなわち、米国債の価格は大幅に下落している。何が起こっているのか?
昨年12月にFRBは、現在のゼロ金利政策を失業率が6.5%以下に低下するまで続ける方針を表明した。ゼロ金利状態の長期継続の見込みを受けて、米国債の低利回りを嫌気した投資マネーが国債市場から株式市場へ向かっている。
それまで米国債に滞留していた機関投資家やヘッジファンドの運用資産の一部に、”リスクオフ(質への逃避)からの巻き戻し”が起こっていると見受けられる。
足元の米国債価格の急落は、2013年1月から実施されているQE3の増額(月々450億ドルの米国債の買い取り)により、目先はいくらかの歯止めが掛かるだろう。
しかし、2月末へ先送りされた財政の崖を乗り越えるには、政府債務残高の上限を引き上げるしかないのは自明だ。増える政府債務をまかなうために米国債のさらなる大量発行に伴う価格下落までは、現在の規模のQE3で抑え込むのは困難と想定される。
前回の2011年8月は、直前のQE2(2010年11月-2011年6月: 総額6,000億ドルの米国債の買い取りを実施)に伴い米国債価格が上昇基調(利回りは低下基調)のなか、政府債務残高の上限を15%引き上げることにより(14.3兆ドル→16.4兆ドル)米国はデフォルトを回避した。
しかし、わずか1年数ヶ月で引き上げ後の上限に達した今回は、逆に米国債価格が下落基調(利回りは上昇基調)にあるため、再度の上限引き上げに伴う米国債の増発がその価格急落を招く危険が懸念される。
米国債を買い支えるためのさらなる追加緩和(QE3再増額でのさらなる米国債の買い取り)への観測が浮上してきそうだ。「追加緩和→デフォルト騒動→追加緩和→・・・」の自転車操業の歴史はいつまで繰り返されるのでしょう。
株式会社アナリスト工房