トランプの奴隷解放宣言 北軍追討へ

南北戦争の歴史を通して読み解く、再び分断されたアメリカの行方

2018年1月10日(水)アナリスト工房

19世紀のアメリカ合衆国の南北戦争(1861-1865)は、アフリカ大陸から連れてこられた黒人奴隷を主力の農業で活用していた南部の州と、工業化推進のために奴隷を低賃金労働者へ転換させたい北部の州との内戦でした。

当時のリンカーン大統領は、自ら率いる北軍が戦況優勢となった1862年9月に奴隷解放の予備宣言のうえ、1863年1月に本宣言を発令。1865年の終戦直後には奴隷制が法的に廃止されました。

南北戦争の実情を描いたマーガレット・ミッチェルの不朽の名作『風と共に去りぬ』によると、解放宣言前の黒人奴隷たちは衣食住から病気・老後の世話まで主人にしてもらっていたため、実はお金の心配不要の高待遇でした(下記)。奴隷たちの職場(主人の家や農場)を現代の会社に例えると、そこでフルタイム働く彼らはいまの正社員と同様に雇い主に属することを誇りだったのです。

「奴隷たちは食事をたっぷりあてがわれ。身なりもよく、病気や老後の世話も十分にしてもらっていた。かれらはご主人さまの立派な名前を誇りに思い、上流社会の所有者に属するのをたいてい誇りに思っていた」

ミッチェル(荒このみ 訳)『風と共に去りぬ』岩波文庫(2015)

一方、解放宣言後には工場などで長時間こき使われるようになった元奴隷たちは、低賃金では最低限の衣食住をまかなうのが精一杯で、病気や老後への備えまでは無理なケースが大半。実質的には奴隷状態のままの彼らの待遇は、金銭面の心配なかった解放前よりも悪化しました。リンカーンの奴隷解放宣言とは裏腹に、奴隷制は非合法のもとでより悪しき労働慣習として続いたのです。

▼21世紀の南北戦争の開戦は、バージニア州のシャーロッツビル事件

2017年8月、南北戦争の名将リー将軍など軍人像と記念碑を撤去する動きが各地で相次ぎ、アメリカ社会は撤去推進派の反トランプ勢力と貴重な歴史・文化財を残したいトランプ支持者の2つに分断されてしまいました。

とくにバージニア州シャーロッツビルでは、リー将軍像を死守したいトランプ支持者のうち極右集団と断固撤去したい反トランプの群衆が衝突し、死傷者が発生。このシャーロッツビル事件が"21世紀の南北戦争"のはじまりで、今回は本格的な兵器を使用しない冷戦と見受けられます。

同月には並行して、米議会が"対ロ制裁強化法"を大統領拒否権では覆せない圧倒的多数で可決・成立させたため、トランプ政権の親露政策が一時ままならなくなってしまいました。しかし、11月の米中首脳会談とトランプ・プーチン面談をきっかけに、政権側が勢いを回復しています。

翌12月、トランプ大統領は聖地エルサレムをイスラエルの首都と認定するとともに米大使館をエルサレムへの移転させる大統領令に署名。

国連総会でエルサレムの首都認定取消を求める決議が圧倒的多数で成立した直後、トランプ氏は歴代の米政権が中東で7兆ドル(いまの米政府債務残高のなんと34%も占める)のバラマキ援助したことを問題視(下記)のうえ、さっそく決議賛成の国々へ援助停止を警告。

「いずれ国益のために、われわれは民主党と超党派の取り組みをはじめる。最初はインフラ建設だ。愚かなことにアメリカは、これまで中東で7兆ドルも費やしてしまった。今度こそは、わが国を建て直す!

トランプ大統領(Dec 22 1017)Twitter

宗教・領土がらみの中東問題が、アメリカの財政とインフラの改善に活用される方向ですね。トランプの正体は、すでに実質破たんしているアメリカ合衆国の再建人。アメリカの巨額の"双子の赤字"と荒廃したインフラの改善のために、彼は対外援助の資金を国内へ振り向ける方針とみてとれます。

なお、トランプ政権発足直後の反トランプ・デモへの参加報酬が月給2,500ドルに対し、21世紀の南北戦争がはじまったシャーロッツビルのデモ隊への報酬は時給25ドルへ低下。抵抗勢力の台所事情が厳しくなるなか、アメリカ国内でのエルサレムの首都認定反対デモの規模はごく限定的です。

▼トランプ率いる南軍が優勢。議会も協力。アメリカ第1の政策実現へ

抵抗勢力に強く阻まれることなく政策推進力を向上させたトランプは、2017年12月29日、リンカーン以来の奴隷解放宣言に踏み切りました(下記)。いま人身売買の犠牲となっている奴隷は、その人数(推定25百万人)から、国内外から誘拐されてきた子供たちやドロップアウトし身体と魂を売り渡した若年層が中心。人身売買の組織が抵抗勢力に属しかつ大きな資金源と推察されます。

われわれは、奴隷制と人身売買を阻止する2018年1月中に、人々を奴隷化させる悪を根絶やすことを改めて約束する。(中略)いま推定25百万人の人々が、性と労働を目的とした人身売買の犠牲となっている」

「2017年2月、人身売買集団も含む国際犯罪組織を解体する大統領令に署名した(中略)。まもなく、商用車両や路上での人身売買を禁じた2つの法案(S.1536、S.1532)に署名する。(中略)アメリカは人々の生命と尊厳を尊重し守り続ける国でありたい。われわれは、いっそうの努力でもって、現代の時代遅れの奴隷制を確実に廃止していく」

トランプ大統領(Dec 29th 2017)ホワイトハウス公表文書(*)

『大統領、2018年1月は奴隷制と人身売買を阻止する月と宣言』

とくに注目されるのは、奴隷制と人身売買を阻止するために必要な2つの関連法案がすでに議会が可決・成立(商用車両での人身売買を禁じるS.1536が2018年1月3日、路上での人身売買を禁じるS.1532が同月8日に大統領署名:**)済みであること。1863年のリンカーンに続く21世紀のランプの奴隷解放宣言は、あらかじめ上・下院の協力が得られているのです。

19世紀の南北戦争ではリンカーン大統領側が北軍に対し、21世紀はトランプ大統領側が南軍、反トランプ抵抗勢力(人身売買組織を含む)が北軍に相当します。アナリストが関わる市場経済については、いまの南軍が双子の巨額赤字を減らしアメリカの実体経済(とくに国内の製造拠点と雇用)を回復させたいのに対し、北軍が世界から投資マネーを集め赤字生活を満喫し続けたいのが特徴。

2018年の年明けの今月は、奴隷解放宣言によると"奴隷制と人身売買を阻止する月”。すっかり勢いづいたトランプ率いる南軍が戦況優勢のなか、巨額赤字の原因となっている対外援助の大幅削減と多国間貿易協定からの離脱への動きとともに、アメリカの産業競争力を取り戻すためにドル切り下げの姿勢が本格化してゆくでしょう。

アナリスト工房 2018年1月10日(水)記事

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*)英文のホワイトハウス公表文書の題名は、"President Donald J. Trump Proclaims January 2018 as National Slavery and Human Trafficking Prevention Month"。

**)成立した法案の英文名は、S.1536が”Combating Human Trafficking in Commercial Vehicles Act"、S.1532が”No Human Trafficking on Our Roads Act”。