物価と実質金利でみた日本経済

原油安が円安の影響を緩和。適度なインフレのもと実質プラスへ

2015年6月10日(水)アナリスト工房

急激な円安と昨年4月の消費増税により、日本のCPI(生鮮食品を除く消費者物価指数の前年同月比)は、しばらく3%を超える増加が続いていました。

しかし、昨年10月からは原油価格の急落(*)に伴い輸入物価が抑えられており、また今年4月には前年同月の増税実施の影響が解消。結果、足元のインフレは沈静しています(今年4月のCPIは0.3%増)。

過度の物価上昇が収まるにつれて、日本経済の実質金利(インフレに伴う価値目減りを控除した金利水準)が大きく改善しました。

経済学によると、実質金利は名目金利(債券利回りなどの市場金利)からインフレ率を控除して求めることができ、その水準は潜在成長率(長期にわたり年何%くらいの経済成長が可能かを推定したもの)へ均衡してゆきます。

ちなみに、日本の潜在成長率は労働力の減少とともに急速に低下してきており、最近はゼロ%台前半との推定が主流。それがいまの実質金利の適正水準です。

図表は、名目金利に10年物国債利回りの月中平均、インフレ率にCPIを用いて計算した実質金利の推移(12年4月-15年4月)です。

日銀がプリントマネー(量的緩和)を本格化させた13年4月までは、実質金利は1%前後(=当時推定の潜在成長率の主流)で安定的でした。

しかし直後、プリントマネーに伴う通貨価値の低下によるインフレ率の上昇とともに、実質金利は急落。今年3月まで18カ月連続のマイナスでした。結果、2014年度のわが国のGDP成長率は▲0.9%。経済衰退への危機だったのです。

幸い2015年度は、前年度の消費増税開始の影響がインフレ率から消えたため、日本経済がひとまず危機を脱しました。

今年4月の実質金利は+0.0%(=名目金利0.3%強-インフレ率0.3%)。その水準は、いまの潜在成長率(ゼロ%台前半)と整合的ですね。

足元の5・6月は、インフレ率がまだ公表されていませんが、名目金利が上昇傾向にあることから、実質金利はややプラスの状態が続くと予想されます。

なお、いまも為替は円の安値圏ですが、原油価格はロシアの大幅増産(**)に伴う供給過剰を受けてWTI原油市況が1バレルあたり60ドル前後で低迷中。

円安での物価上昇圧力は原油安でもって相殺され、低インフレ(あるいは若干のデフレ)の状態はしばらく続くと想定されます。

長期的には潜在成長率へ均衡してゆく実質金利は、昨年度までの大きなマイナスが解消したとはいえ、ゼロ%台前半では心もとないですね。

物価が抑えられる(あるいは下がる)ことで、消費と投資の回復とともにGDPが着実に伸びてゆき、わが国の潜在成長率を押し上げる効果を期待したい。

株式会社アナリスト工房

---------------------------------------------------------------------------------

*)NYのWTI原油市況は、2014年6月につけた1バレルあたり107ドル台の高値から、翌年3月は一時47ドル台まで急落しました。

**)ロシアSputnik社の2015年6月2日の記事『ロシアは原油採掘量で世界一に』によると、5月のロシアの原油採掘量(1,071万バレル/日)は、1月に付けた旧ソ連崩壊後の最高記録と同水準で、しかもサウジアラビアを抜き世界一へ浮上。また、翌3日のロシアRT社記事『グローバル市場での影響力を増す非OPEC国:露エネルギー相』によると、ノバック露エネルギー相は、長期にわたり原油採掘量1,050万バレル/日確保の方針を表明しています。