シラー指数が警告するQEバブル崩壊

「自分の価値を信じるなら、迷わず前に進め!決してパンチを恐れるな!

人を指差し、自分の弱さをそいつらのせいにするな!それは卑怯者のやることだ!」

映画『ロッキー・ザ・ファイナル』でのシルベスタ・スタローンの名言

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2015年9月25日(金)アナリスト工房

企業分析で用いるさまざまな指標のなかで株価収益率PER(=株価/EPS)は、会社のEPS(1株あたり純利益)でみた収益力に対し、市場の株価の割高度を測る需要な株式指標です。一般にその分母のEPSは、今期の予想(あるいは前期の実績)を用います。

ところが、景気変動などに伴い企業業績が激しく変化することから、EPSとともにPERは不安定。株価の割高度を測りづらい場面がしばしばです。

とくにリーマンショック(08年9月)の直後には、大半の企業のEPSがマイナスと化したため、それらの株式だけでなく株価指数のPERも測定不能の時期が続きました。

このようなPERの不安定な問題を改善したのが、2013年にノーベル経済学賞を獲得したイェール大学のシラー教授です。

彼が開発した"シラー指数CAPE(景気循環調整後のPER)”は、その分母に過去10年間の平均EPSを用いるのが特徴。景気循環などに伴い振れの激しいEPSを長期平均することにより、PERよりもはるかに安定性の高い株価指標です。

シラー教授のHPで公表されてるS&P500(NYダウとならび米国の代表的な株価指数)のCAPEは、これまでのバブル崩壊を事前に警告しています。

リーマンショックの原因となった"サブプライム・バブル”の際は、シラー指数CAPEが2007年5月にピークをつけ、S&P500は同年10月の天井から暴落。2009年3月に底入れしたときのS&P500は、天井の半値の水準でした。

その前の”ITバブル”のときは、CAPEのピークが1999年12月に対し、S&P500は翌2000年8月の高値から2003年2月の底まで4割超も反落しています(図表)。

このようにシラー指数は、バブル崩壊に伴う株価急落を数カ月前(あるいはそれ以前)に察知できる実績をもつことから、市場参加者が強く意識している指標なのです。

逆に、市場参加者がシラー指数を意識して株式売買しているため、バブルで押し上げられてきた株価が息切れして反落すると、やがて株式が売り浴びされ価格急落に拍車がかかるメカニズムです。

そしていま、シラー指数は今世紀3度めのバブル崩壊を警告中。CAPEが今年3月にサブブライム・バブル時とおおむね同水準のピークをつけた後、S&P500が5月を天井に上値が重くなったうえで顕著に反落しています。

日米欧のQE(量的緩和)で釣り上げてきた米国の株価は、その企業業績(CAPEの分母の平均EPS)に見合わなくなってきたため、足元では弱含みに転じているのです。

米国株の急落を招いた元凶は、先進国の主要メディアでは"中国株バブル崩壊"が指差されていますが、実は米国企業の利益伸び悩みが根底にあります。

多くの米国企業は、大規模な自社株買いによりEPS(1株あたり利益)の分母を減らすことで、足元もその微増益を何とか保っている状態。とはいえ、企業分析の考え方に基づくと、利益成長率の鈍化は株価急落への大きな要因なのです。

このまま"QEバブル崩壊"とそれに続く金融危機に突入した場合には、テコ入れのための金融政策としてQE4(米国の量的緩和第4弾)の実施とともに大幅な利下げを行う必要が生じると想定されます。

前回のサブプライム・バブル崩壊に続くリーマンショックの際は、2008年11月にQE1(量的緩和第1弾)が始まり、翌月には政策金利が1%から一気にゼロ金利(0-0.25%)へ引き下げられました。結果、S&P500は翌年3月を底に反発しています。

あれから7年後の先週のFOMC(米国の金融政策決定会合)では、当日の市場に「やむをえず利上げ容認」の意見が広まっていたにもかかわらず、FRB(米国中銀)は利上げを見送ってしまいました。

いまも政策金利はゼロのままです。当初は今年4月前後の利上げ予定だったはずが、なかなか決断できず先延ばしが続いています。

このままではシラー指数が警告するQEバブル崩壊に伴う金融危機時には、十分に有効な金融政策が実施できず、1929年の大恐慌後(S&P500が恐慌直前の株価水準に回復したのは1954年)のように長期低迷の危険があります。

年内利上げのチャンスは後2回(FOMC:10/27-28、12/15−16)。パンチを恐れず、迷わず前に進め!

株式会社アナリスト工房