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企業価値評価の第3関門 CFと成長率

会社のキャッシュフロー収益、株式の配当を将来展開してみよう!

2017年10月10日(火)アナリスト工房

キャッシュフロー(CF)とは、受取る収益あるいは支払う費用のお金の流れを意味します。例えば、債券をもつ投資家にとってのキャッシュフローは、定期的な利息と満期の元本からなる収益です。債券をはじめ「金融商品の価値は、それが生み出すキャッシュフローを割引くことにより求めることができる」といった証券投資論の考え方に基づき、企業価値評価では会社の株式の理論価格(適正な価値)を測定します。

会社あるいは株式が生むキャッシュフローは、いかなる理由でどのように定義されるのか?また、債券とは異なり満期がなくずっと続いていくキャッシュフローは、どのように見積もったらよいのでしょうか?

前回は、会社あるいはその株式が生むキャッシュフローを割引く際に用いる割引率を紹介しました。株式理論価格の測定方法は、a)株主にとっての企業価値を直接計算する方法、b)企業価値の全体を計算のうえ負債価値を控除する方法の2つ。それぞれ割引率は、a)株主資本コスト(自己資本コスト)、b)株主資本コストと負債コスト(負債利子率)を資本額と負債額で加重平均したWACC(加重平均資本コスト)でしたね(企業価値評価の第2関門 割引率とβ)。
今回は、これらの割引率で割引くキャッシュフローについて、それらの定義と成長率の見積もり方を取り上げます。

1.将来の配当は会社の収益力と株主還元姿勢に基づき簡単に描く

まず、a)株主にとっての企業価値を直接計算することにより株式の理論価格を測定する方法の代表格"DDM(配当割引モデル)”は、株主資本コストで割引くキャッシュフローが株式の配当です。なぜなら、債券とは異なり満期のない株式を保有している投資家の収益は、株式を発行する会社から定期的に支払われる配当金だけですからね。
すなわち、株式とは将来の配当の先食いなのです。いまの株式の価値は、次回以降に支払われる配当金の割引現在価値の合計。やがてその株式が売買されたときの価値は、売買後の配当金を売買時へ割引いた価値の合計となります。

一般に、株式の将来の配当予想は、その発行会社による予想が今期分(今年度分)のみ、企業分析に携わるアナリストによる予想が今期分と来期分です。以後の配当額はどのように見積もったらよいのでしょうか?

今期あるいは来期以後の配当は、会計の重要概念"クリーンサープラス(会社の純利益から株主への配当を控除した額が自己資本に積み上がる)"に基づき、一定の成長率”サステイナブル成長率"をもって見積もり展開します。
サステイナブル成長率とは、会社のB/S(貸借対照表)のなかで株主にとっての企業価値に相当する自己資本、P/L(損益計算書)での株主に帰属する純利益、株主還元の配当の3つ共通の成長率です。その年あたりの成長率は、会社のROE(=純利益/自己資本)の水準から配当性向(=配当/純利益)の割合を控除し、次の式のとおり。

サステイナブル成長率=ROE ×(1-配当性向)

また、ROEと配当性向が将来にわたり一定と仮定することにより、このサステイナブル成長率は自己資本・純利益・配当の定率成長のペースとなります(*)。

このようにDDMは、会社の資本が生む収益力と株主還元の姿勢に基づき、今期あるいは来期までの配当額を予想のうえ以降の額はサステイナブル成長率でもってキャッシュフロー展開していくのです。

2.事業が生むフリーキャッシュフローは税後営業利益がベース

次に、b)企業価値の全体を計算のうえ負債価値を控除する方法の代表格"割引FCF(フリーキャッシュフロー)モデル”では、WACC(加重平均資本コスト)で割引く対象が、会社の本業たる事業での現金ベースの利益から投資額を控除したフリーキャッシュフローです。
投資家の費用負担のない債券や株式のキャッシュフローが元利や配当などの収益(収入)に対し、会社の費用負担のある事業でのフリーキャッシュフローはその収益(売上高)から費用(売上原価、販管費、法人税等)を差し引いた税引後の営業利益がベースとなります(次式)。

フリーキャッシュフロー=営業利益 ×(1-税率)+減価償却費
-運転資本の増加額ー設備投資

また、非現金支出の減価償却費を加算するとともに、正味の運転資本(=売掛債権+棚卸資産-買入債務)の増加額と設備投資の実行額(有形固定資産の取得による支出)を減算する点は、会計のフリーキャッシュフローと同様です。
このように割引FCFモデルは、会社の事業資産が生む現金利益から設備投資額を控除した正味の現金利益としてのフリーキャッシュフローを展開します。

とはいえ、上記DDM(配当割引モデル)のキャッシュフローが配当だけに対し、割引FCFモデルのフリーキャッシュフローの構成要素はずいぶんたくさんあって見積もりが難しそうですね。
でも、ご安心ください。減価償却費と設備投資の額が互いに等しく、しかも運転資本の増加額がゼロと仮定することにより、フリーキャッシュフローの近似値は次式のように超シンプル(税後営業利益だけ)と化します。

フリーキャッシュフローの近似値=営業利益 ×(1-税率)
(減価償却費=設備投資額、運転資本の増加額=0と仮定した場合)

このように税後営業利益をベースとするフリーキャッシュフローは、会社の中期経営計画を参考に、今期分(今年度分)も含め3から6期分を将来展開します。経済の情勢、事業の環境、会社の競争力などを踏まえ、計画の利益目標がチャレンジングあるいは保守的な場合には平均的見通しへ修正しながら、今期から数年間のキャッッシュフローを描いてみましょう。

一方、数年以後のキャッシュフローの成長率は、上記DDMの配当がサステイナブル成長率(上記)でもって簡単に済むのに対し、割引FCFモデルでは売上高や営業利益率の見通しなどからフリーキャッシュフロー成長率を想定する必要があります。大半の会社が安定配当の方針を掲げている配当よりも、経済情勢や事業環境に大きく左右される利益指標のフリーキャッシュフローの成長率は見積もりが難しい。

にもかかわらず、企業価値へ最大の影響を与えるのが成長率です。割引FCFモデルでは、フリーキャッシュフロー成長率を過大に想定したことにより、企業価値と株式理論価格の過大な評価結果となってしまったケースが散見されます。そのことは、M&A(企業買収)での買収価格の高騰、理論価格を意識した株式市場でのバブルを招く原因となっていることを、ご参考まで。
企業価値評価でのキャッシュフローとその成長率の見積もりは、くれぐれも平均的に見込まれる適正な水準を心がけましょう!

アナリスト工房 2017年10月10日(火)記事

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*)会計の重要概念"クリーンサープラス(会社の純利益から株主への配当を控除した額が資本に積み上がる)"に基づくと、会社の自己資本はROE(=純利益/自己資本)相当の純利益をうみ、純利益のうち株主へ配当される割合(配当性向)を控除した額が自己資本に積み上がる。
よって、自己資本の成長率はROE×(1-配当性向)。
また、ROEと配当性向が将来にわたり一定と仮定することにより、自己資本だけでなく純利益も配当もROE×(1-配当性向)のペースで定率成長していく。