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包括利益1(眺め方と意義)

2011/3期(2010年度)の本決算よりわが国にも「包括利益(CI)」が導入され、上場企業の連結決算書にその数字が記載されるようになった。包括利益は一言で言えば、従来からの純利益に資産等の含み損益を加味した新たなボトムライン(最終利益)である。企業分析に携わるアナリストとして、同利益指標をどのように眺めたら良いのだろう?

包括利益の導入とともに財務諸表が主に2点変更された。1点目は、従来の「損益計算書(P/L)」に代わり、「損益計算書および包括利益計算書(C/I)」が登場したこと。旧P/Lの最終行が税引後の純利益に対し、新たなC/Iにはまだ続きがある。資産・負債の含み損益を表す「その他包括利益(OCI)」が反映される。純利益をベースに、当期のOCIを加減し(含み損益の増加は加算、減少は減算)、最終行の包括利益を導く。

  税引後の純利益+その他包括利益(OCI)=包括利益(CI)

OCIは、従来は(2011/3期3Qまではその累計額が)「評価・換算差額等」と呼ばれ、B/Sの純資産の部にあった。それが名称を変えC/Iにも記載されるようになったのが、2011/3期本決算からの財務諸表変更の2点目である。
OCI累計額の対象は、主に3つ。長期保有を前提とする有価証券、在外子会社の純資産に係る為替、ヘッジ用のデリバティブの含み損益を表す(勘定名はそれぞれ「その他有価証券評価差額金」、「繰延ヘッジ損益」、「為替換算調整勘定」)。これらの項目から成るOCI累計額の前期末から当期末の変化がOCIである。OCIもその累計額も、税効果を反映させ、純利益と同じく税引後の値で記載される。


OCIの中でも、日本企業へのインパクトが比較的大きいのは、最初の2つ(長期保有を前提とする有価証券、在外子会社の純資産に係る為替)。それぞれ株式の持合いが相変わらず高水準なこと、成長への活路を求めて海外拠点の積極展開を反映している。

2011/3期のような株安・円高の局面では、それに伴うOCIのマイナスを通じて、包括利益は純利益よりも低い。
例えば、化学メーカーのクラレ(東証1部3405)の純利益は287億円(前期比76%増益)と力強い。一方で、包括利益は157億円(同18%減益)と低調。同社の状況を詳しく見てみよう!

B/S純資産で前期からのOCI累計額の変化を見ると、株価低迷を背景に、その他有価証券の含み益が幾らか減少。また、円高進行を受けて、為替換算調整勘定の含み損が大きく拡大している状況が見てとれる(逆に、株高・円安の時には、OCI累計額の増加が包括利益を比較的大きく伸長させる要因となる)。

このように包括利益は、株・為替の市場価格からの財政状態への影響を織り込んで算出される利益指標である。これまでのP/Lのボトムラインであった純利益に比べて、包括利益にはどのようなメリットがあるのだろう?

最近よくありがちな、次の個人の事業者兼投資家のつぶやきから考えてみよう。
「大震災後も仕事に励み稼いではいるが、原発停止を受けて保有する電力株に多額の含み損を抱えてしまった。これまでは含み損益トントンだったのになあ・・・。しばらくは、節約生活を続けてゆく方針だ。」

ここで、震災後の彼のビジネスでの稼ぎが純利益、保有する電力株で生じた含み損がOCIに相当する。注目されるのは、彼の節約行動が、震災後の純利益でなくOCIを加味した包括利益に基づき決定されていることである。
包括利益には、本業での稼ぎに「資産効果」(この場合は「逆資産効果」)が織り込まれている。震災後に正味で(差し引き)財産価値をどれだけ増減させたかを把握できるのが、同利益指標の意義である。

企業の場合には、財産価値を時価ベースの資産価値(あるいは純資産価値)である企業価値に置き換えれば良い。企業分析を担うアナリストにとって包括利益は、企業価値がいくら創出されたかを見る有意義な指標と言えよう。

包括利益2」へ続く(2011年6月3日)