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GMの年金バイアウト1(仕組み)

前回の「GMの"自社年金買い"」では、米国の自動車最大手GMが企業年金の運営に伴うリスクを減らすために、元従業員に対し年金の買い取りプランを実施中であることを紹介した。
元勤務先からの買い取りプランを承諾した元従業員に対し、来年(2013年)以降の年金は、おおよそ平均寿命まで生きた場合の総額を年明けに一括で支払い終了する。それが"自社年金買い"である。

一方、買い取りプランを拒絶し従来どおり月々の年金を選んだ者は、その来年以降の分を米国の保険最大手プルデンシャルから受け取ることになる。これまでの元勤務先からの企業年金は、年明けからは保険会社からの個人年金へと変わる。
今回は、その際に活用されている"年金バイアウト"の仕組みを紹介しよう!

まず、今般の買い取りプランの対象は、GMの抱える「退職給付債務」(会社が元従業員に年金を支払ってゆく義務)の20%相当の260億ドル分。それが「年金資産」(企業が年金の支払いに備え運用する金融商品)とともに同社から切り離される。
切り離されたこれらの債務と資産の一部は、自社年金買いの対象である。年金資産を一部売却して得たお金がプランを了承した元従業員に支払われることで、一部の年金資産および同額の退職給付債務がともに消滅し、自社年金買いが完了する。


【出所】GMのIR資料に基づき(株)アナリスト工房作成

次に、自社年金買い後に残った債務と資産が年金バイアウトの対象である。年金バイアウトとは、確定給付型の企業年金の債務・資産ならびに運営を保険会社が代行するビジネスで、米国と英国での取り組みがときどき観察される。
年金バイアウトの取り組み後は、保険会社が企業に代わって年金をその元従業員へ月々支払ってゆく。年金支払いの義務から解放される企業は、もちろんその債務を帳消しにすることができる。

今回のGMのケースでは、年金バイアウトと自社年金買いを組み合わせ、買い取りプランの目的とする退職給付債務260億ドルを削減する。対象の元従業員42千人のうちプランに応じた者への債務は自社年金買い、断った者への債務は年金バイアウトがそれぞれ適用される。
すなわち年金バイアウトの意義は、対象の債務を残さず社外へ移転させることで、企業の財務リスクを削減することにある。

一方でリスクの削減は、企業のコスト負担を伴う。保険会社へ債務・資産を移転させる際に、債務に対しいくらか上乗せした資産の額が要求される。年金バイアウトを引き受けた保険会社に長期にわたる年金の支払能力を備えさせるためだ。企業は支払いの原資となる年金資産にいくらか資金を追加した上で送り出す。その上乗せ額を「バイアウト・プレミアム」という。
上記ケースでは、GMは2.5-3.5億ドルのバイアウト・プレミアムを費用負担する。その額を上乗せした年金資産と自社年金買い後に残った退職給付債務が、年金バイアウトの対象である。

プルデンシャルの引き受ける年金バイアウトの基金は、資産額が債務額を上回り健全な財政状態である。にもかかわらず、従来どおりの月々の年金を選んだ元従業員の間には、「年金給付を一生受け続けられるのだろうか?」といった不安の声が多い。
年金バイアウトに伴うリスクを懸念しているからだ。どのようなリスクが潜んでいるのだろう?

次回へ続く(2012年10月26日)

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【参考文献】 Bloomberg Businessweek誌 2012年7月2日号の記事「U.S.Automakers Cut Retirees Loose」