退職給付会計1(プロローグ)

2012年5月25日

「退職給付がらみの未認識債務(積立不足)を負債計上した場合、自己資本比率12%(と業界の中で比較的低い)の貴社への影響は?」

~日本水産の決算説明会(2012年5月21日)での質問を抜粋・要約~

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2012年5月17日に退職給付会計(「退職給付に関する会計基準」)が改正され、退職金・年金制度で企業の抱える含み損である「未認識債務」(積立不足)への関心が高まっている。

今般の改正の最重要ポイントは、2014/3期からは(2013年度の本決算からは)未認識債務をB/S(貸借対照表)に計上することで、”時価主義”の下で資産・負債の含み損益を反映した時価の精度を改善させる点にある。

今回から4回にわたり、退職給付会計の仕組み、従来の問題点、改正の影響を取り上げてゆく。

これまで企業分析のコーナーでは、時価主義とは企業への資金提供者(株主と債権者)が投資価値を測ることを重視した会計のコンセプトであること。株主がB/Sの「純資産の部」を手掛かりに、保有する株式の大まかな理論価格を一目で把握できるメリットを強調してきた。

今のところ資産・負債の中で時価でB/S計上されているのが持合株などの金融商品や減損直後の事業用資産に限られるため、両者の差である純資産の時価の精度は今一つである。にもかかわらず、日本企業の株式の市場価格は、既に純資産額を目安に形成されている。

株式の評価・投資判断に用いる重要指標に、純資産額に対する市場株価の倍率「PBR」(株価純資産倍率)がある。東証1部上場企業の株価指数「TOPIX」(東証株価指数)のPBRは、2008年秋の”リーマン危機”以降、概ね1.0倍を中心に推移している(次図)。

株価指数の市場価格は、その先物取引が主導して決まる。先物市場の参加者は、日本企業の純資産額を強く意識しモニター画面のPBRを参考に、日本株指数を売買する。市場では早くも”厳密な時価主義”の会計が前提とされており、株価指数を構成する各企業の時価B/Sの精度向上への課題を抱えている。

今般の退職給付会計の改正は、厳密な時価主義への大きな前進となる。そのことを説明してゆくために、まずは、現在の(改正が適用される2014/3期よりも前の)退職給付会計の概略とその問題点を述べる。

退職給付会計2("未認識"の功罪)」へ続く