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通貨オブザイヤー2018 巻き戻すドル

FRB量的引き締めの資金回収が、1ドルあたりの価値を強引に押し上げ

2018年12月11日(火)アナリスト工房

アナリスト工房の「通貨オブザイヤー」では、海外投資・外国為替・国際情勢などの分析に携わるアナリストにとって、良い意味でもあるいは悪い意味でその年いちばんの注目に値する通貨が選ばれます。

昨2017年の通貨オブザイヤーを受賞したのは、金融政策に苦戦する主要国の法定通貨(日本円、米ドルなど)が心もとないなか、基軸通貨ドルに対し年初来なんと一時1,958%も価格上昇した超ハイリスクの仮想通貨ビットコインでした。
なお仮想通貨バブル崩壊後の今年のビットコインは、米証券当局のICO(仮想通貨の新規売出し)への取り締まり強化の悪影響を被り、年初来74%安の水準で低迷中(18年12月10日時点)。持ち前の超ハイリスクは相変わらず絶好調といえましょう(仮想通貨暴落は理論値ゼロへの警告)。

今年の通貨オブザイヤー2018は、年初来上昇率トップをし烈に争う日本円と米ドルが最終選考まで残った有力候補です。なかから、FRB(米連邦中銀)の金融引き締め加速とトランプ米政権の貿易不均衡是正への取り組みにより上昇率No.1の米ドルに決定します(図表)!

【主要通貨の年初来の価格変化率*)】Dec 10th 2018時点
   ・米ドル:           4.4%      ・インドネシアルピア:−2.8%
   ・日本円:           3.8%      ・英ポンド:                  −3.0%
   ・メキシコペソ:1.1%      ・豪ドル:                      −3.9%
   ・韓国ウォン:  −1.1%      ・インドルピー:           −6.5%
   ・ユーロ:         −1.2%      ・ロシアルーブル:        −9.7%
   ・人民元:         −1.7%      ・ブラジルレアル:      −11.8%
   ・カナダドル:  −2.0%      ・トルコリラ:             −25.5%

なお上昇率2位の日本円は、日銀の量的緩和(金融商品を大量に買い取ることにより市場へ資金供給する緩和策)の縮小**)に伴いアベノミクスの円安推進力がすでに失われたなか、対米貿易戦争が本格化していくにつれて1980年代の中曽根・レーガン政権のときと同様に円先高観が強まっています。今回惜しくも受賞を逃した円は、来年以降の通貨オブザイヤーの有力候補となるでしょう。

通貨オブザイヤー2018を受賞したドルの発行国アメリカは、オバマ前政権のときからデフォルト騒動と政府機関閉鎖を繰り返しており、明らかに実質破たん状態。にもかかわらず、量だけでなく利上げも駆使した金融引き締めと世界の国々に挑む貿易戦争が、基軸通貨ドルの価値を強引に押し上げました。
いまのドル高を支えるFRB引き締めとトランプ貿易戦争は、真の実態がどのようになっていて、アメリカの狙いや落とし所がどこにあり、来年以降の為替相場へいかに影響していくのでしょうか?

▼過去の緩和を急速に巻き戻す奇策が、債務者と投資家を締め上げ

アメリカの引き締めの中心的役割を担う”量的引き締め"は、過去の量的緩和(08−14年)で買い取った金融商品を売却することにより、市場から資金回収する引き締め策です。17年10月からFRBは、リーマンショック後の量的緩和で買い取った米国債とMBS(住宅ローン債券)を市場で売却し、大量のドル資金を世界から回収しています(下表)。

【FRB量的引き締めによる資金回収額***)
   ・17年10−12月:          月50億ドル
   ・18年    1−3月:        月130億ドル
   ・18年    4−6月:        月270億ドル
   ・18年    7−9月:        月300億ドル
   ・18年10−12月以降: 月500億ドル(限度枠)

18年7−9月以降のFRB量的引き締めによる資金回収額は、日銀の量的緩和の資金供給をすっかり打ち消す規模に達しました**)。結果、18年11月末時点におけるFRBのB/S(貸借対照表)の資産額4.10兆ドルは、量的引き締め開始直前(17年9月末は4.46兆ドル)から8%縮小しており、14年1月末の水準に等しい。14年10月末に終わったFRB量的緩和は、早くもすでに9カ月巻き戻されました。
米ドルが18年の年初来上昇率No.1の最大の理由は、量的引き締めにより市場からドル資金が回収されたことから、1ドルあたりの通貨価値が上昇したためです。

FRBのもう1つの引き締め策の利上げは、「アメリカ経済が力強い」とほめ殺しながら18年9月までに3カ月ごとに0.25%ずつ連続4回実施した結果、いまの政策金利が2〜2.25%。そのレンジの中間値でみた金利水準は、15年12月にゼロ金利(0〜0.25%)が解除されてからなんと17倍に跳ね上がりました。

このようにFRBの金融政策は、市場からドル資金を大量に回収しながらドル金利を急騰させることにより、すでに実質破たん状態にあるアメリカのドルの価値を防衛しています。
会社の株式の市場価格が自社株買いと増配により上昇する現象と同様に、国の通貨価値は量的引き締めと利上げでつり上げることが可能なのです。ただ、自社株買いも量的引き締めも、時価総額でなく1単位あたりの価格を押し上げる奇策にすぎません。

通貨の番人によるドル防衛の副作用は、国内外の金融機関や新興国勢のドル建て債務の資金調達難と重い利払い負担です。これらの副作用が対米投資の為替ヘッジコスト急騰を通じてリターン(投資収益率)を大きく損なっており、海外から米国債や米国株への投資意欲を減退させる要因となっています。

▼貿易交渉は期待薄。金融危機時の締め上げ停止が不均衡是正を導く

トランプ貿易戦争での関税上乗せ合戦にもかかわらずいちばん巨額の対中貿易赤字がなかなか改善しないのも、通貨の番人たちのドル防衛に伴う副作用とみてとれます。

これまで、アメリカは中国からの年間輸入額の半分弱に相当する2,500億ドル分へ追加関税を次々と発動し(18年7−8月は500億ドルに25%、9月は2,000億ドルに10%)、中国はアメリカからの年間輸入額の85%相当の1,100億ドル分に間髪入れず報復の追加関税を課しました(7−8月は500億ドルに25%、9月は600億ドルに5 〜10%)。

しかし、18年11月のアメリカの対中貿易赤字はなんと過去最高額。本来であれば関税上乗せにより荷の動きが悪化し貿易不均衡が是正できるはずが、なかなかそうはいかないのはなぜでしょうか?

リーマンショック後の中国の通貨当局がドル急落に悪乗りし人民元安を導いたことと、アメリカの中央銀行などがドル防衛に励んだことより、為替市場のドルは人民元に対し超割高。よって、アメリカは対中貿易での競争力がないのです。

英エコノミスト誌の購買力平価”ビッグマック指数(18年7月公表)”によると、対ドル人民元の理論価格は1ドル=3.72元。足元の市場実勢1ドル=6.91元は、ドルが元に対しなんと86%も割高(12月10日時点)。なので、アメリカが中国品に対し関税を25%上乗せしても、米国製品の価格競争力は中国製にはるかに劣るのが実情です。

19年2月までに米中貿易協議が合意できなかった場合、アメリカが中国品2,000億ドル分に適用している追加関税は、3月以降10%から25%へ跳ね上がる予定。協議分野のなかの非関税障壁は、中国のハイテク産業育成への重要国策「中国製造2025」が非関税障壁に該当する補助金を伴うことから、アメリカが最後まで納得せず中国も決して譲歩せず決裂に終わる可能性が高い。
しかし、米中貿易協議の決裂に伴いアメリカが中国品に対する追加関税を25%へ引き上げた場合でも、中国製の競争力優位が続くため不均衡是正は難しい

アメリカが貿易不均衡を是正する最後の手段は、米国製品の価格競争力をつけるためにドルを切り下げること。1980年代のレーガン政権の貿易戦争では、ドル安への是正を日独などに迫り協調為替介入を了承させた"プラザ合意(1985年)"を受けて、ドルは82年10月の高値278.50円から88年1月の安値120.45円までなんと57%暴落しました。

21世紀のトランプ貿易戦争では、国家デフォルト騒動あるいは政府機関閉鎖が想定外に長引き深刻化した場合には、もちろんドルが切り下がるでしょう。その前に、すでにバブル崩壊しはじめた市場がやがて金融危機に至ったとき、通貨の番人による2つの手段(量的引き締め、利上げ)を用いたドル防衛策がともに打ち切られ、ドル暴落がはじまる可能性が高い

そもそも、製造拠点と正規雇用を国内へ回帰させたいトランプ政権の真の敵は、貿易戦争を挑む相手の黒字国ではなく、黒字国からの投資マネーで借金生活を満喫し続けたい国内の反トランプ抵抗勢力(一部の金融筋など)です。
ドル防衛の2つのハシゴが一気に外されドルが切り下がることにより、アメリカが競争力を取り戻し貿易不均衡が是正されていくと想定されます。貿易黒字国からの対米投資マネーは細り抵抗勢力が衰退する一方、正規雇用の充実ととともに中流層が復活するときのアメリカ経済は真の力強さを取り戻すでしょう。

アナリスト工房 2018年12月11日(火)記事

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*)年初来の価格変化率は、基軸通貨ドルがBloombergドル指数(BBDXY)、それ以外の通貨がBloombergドル指数と各通貨の対ドルレートに基づく計算値。
**)日銀が量的緩和で買い取った金融商品(国債とETF)の2018年9月末以降の保有高は、前年同期に対し年32−33兆円増で推移している。すなわち、資金供給量でみた足元の量的緩和の規模は年32−33兆円で、ピーク(16年8月末時点の量的緩和規模は年94兆円)の約3分の1にすぎない(図表)。


***)2018年7−9月までのFRB量的引き締めによる資金回収額の四半期ごとの月平均値は、FRB公表の各月最終週のB/S(貸借対照表)に計上されている米国債とMBS(住宅ローン債券)の合計額に基づく計算値。なお、18年10−11月の月平均値は510億ドル。