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人民元は国際通貨体制を担えそうか?

「同盟国にAIIBと関わらないよう強いてきた米国政府は、開いた口がふさがらない。アジアで最も忠実な日本政府が米国の懸念をよそに、最大のライバル国の主導する投資銀行への加盟を検討しているからだ。(中略)IMFも世界銀行もAIIBへの協力を表明している。どうやら米国政府はすっかり孤立してしまった。」
イアン・ブレマー著『バンクショット』米タイム誌Apr 6, 2015号
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2015年4月10日(金)アナリスト工房

中国主導の国際通貨体制への最初の布石となるAIIB(アジアインフラ投資銀行)は、今年末の設立に向けて、広く世界から参加国を募集している。
いまの米国中心の通貨体制に見切りをつけ(あるいは一線を画そうと)、先月末までに参加の意思を表明したのはアジア・中東36カ国(台湾も含む)、欧州17カ国、中南米1カ国の計54カ国
現在のドルを基軸通貨とする体制の出発点となった1944年のブレトンウッズ会議の参加数(44カ国)を上回り、とても順調な船出といえよう。

IMFと世界銀行のライバルとなるAIIBのリストには、まだ日・米の国名はない。
一方、わが国とともに量的緩和でもってドルを買い支えている欧州ユーロ圏の主要国(独、仏、伊)が中国の大規模なドル売り介入の開始直後に観念して軍門に下ったことをきっかけに、歴史は大きく動いたAIIBはドル不要の通貨体制の幕開け)。

結果、AIIBはG7の4カ国G20の13カ国を獲得。これらの主要メンバーもはじめ上記54カ国は、世界のGDPの過半数を占める(2013年は57%)。
いまの米国中心の通貨体制は、中国が主導権を握りアジア・中東と欧州勢がサポートする体制に置き変わってゆくだろう。
来たる体制のもとで中心となる通貨は、中国の通貨人民元である。今回は、その国際通貨化に向けての取り組みと課題を取り上げる。

世界の為替市場の取引量は、ドル/円、ユーロ/ドル、ポンド/ドル、ドル/人民元などドルとの交換が大半を占める(2013年4月は87%)。そこで、人民元の国際通貨化への第1の取り組みは、ドル以外の主要通貨との直接交換を広げることであった。
いまでは人民元がドルを介さず直に円(12年6月-)、ポンド(14年6月-)、ユーロ(14年9月-)などと交換できる市場となっている。なかでも、中国の最大の貿易相手である欧州との間での進展は意義が大きい

人民元の第2の取り組みは、市場参加者の商業銀行が為替取引を決済(資金の受け払い)するための"決済(クリアリング)銀行"の増設である。
円、ドル、ユーロ、ポンドなど主要通貨はその発行国にて中央銀行のもとで決済するのに対し、人民元の決済は中国本土以外の世界各地に設けた決済銀行のもとで行う。
市場参加者と本土の中央銀行(中国人民銀行)との間に市場国の決済銀行(中国銀行、中国工商銀行、中国建設銀行などの海外支店)が介在する非効率な制度は、中国経済を左右する過度の資金流出入を防ぐための厳しい資本規制があるためだ。

人民元の決済銀行は、香港(03年12月-)、シンガポール(13年2月-)、ロンドン(14年6月)、フランクフルト(14年6月-)、トロント(14年11月-)などに次々と設立中。
本土の中央銀行に集約できない反面、アジア ・欧州・北米それぞれの銀行の営業時間に時差なく決済できるメリットがある。
3大為替市場のうち東京とニューヨークには、まだ決済銀行がない。とはいえ、最大市場のロンドンとニューヨーク時間をカバーする北米(トロント)へ相次ぎ進出したことは大きな意義がある

これらの取り組みにより人民元は、2013年10月にはL/C(信用状)付き貿易決済での世界シェア第2位、2014年12月には国際資金決済のシェア第5位(2.2%)へ大きく浮上している。
欧州の主要通貨(ユーロ、ポンド)との直接交換と決済の体制ができたのは昨年半ば以降なので、まだまだ人民元の普及の余地は大きい。直接交換により外されたドルを食って、人民元のシェア拡大はしばらく続くと想定される。

一方、人民元が中国主導の通貨体制を担うためには、実は大きな課題が1つある。中国の厳しい資本規制により、貿易以外の取引では人民元が使いづらいことだ。
市場参加者の銀行と決済銀行との間での為替取引が「3カ月以内に決済される貿易取引」の裏付けがあるものに限定されている
そのため、貿易以外の資本取引なども含めた国際資金決済での人民元のシェア(上記)は、大きく伸びたとはいえまだ2%程度の水準に過ぎない。

来たる中国主導の国際通貨体制は基軸通貨を外しても機能させるとはいえ、そのもとで人民元が中心的役割を果たす国際通貨となるためには、最低でも10%程度のシェアでもって市場参加者がいつでも速やかに必要額を売買できる流動性が欲しいところ。
投機筋に通貨を売り浴びせられ国の経済危機を招いたりしないためには、資本規制はもちろん必要だ。とはいえ、為替取引を貿易しかも短期のものに限る現状は、いくらなんでも過剰防衛といえよう。

2009年に打ち出された人民元の国際主要通貨に向けた計画によると、中国当局は2020年頃までに元相場の形成を市場の原理に委ねる基本方針。これまでの規制緩和の流れからも、貿易以外でも為替取引は段階的に自由化されてゆく方向と見受けられる。
ただ、中国主導の国際通貨体制への出発点となるAIIBに当初の想定をはるかに上回る参加者が集まってしまったからには、人民元為替の自由化を急ぐ必要に迫られるだろう。

あわせて、強みの貿易がらみ人民元為替のシェアをさらに伸ばしてゆくとよい。そのためには、中国ビジネスに積極的な多くの日本企業が国内で安心して資金決済できるよう、わが国にも人民元の決済銀行を設けていただけると幸い。

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