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通貨オブ・ザ・イヤー2015はレアル

危うい仕組債を通じて、いちばん遠い国のリスクが日本を直撃

2015年12月10日(木)アナリスト工房

弊社アナリスト工房の「通貨オブ・ザ・イヤー」では、海外投資の業務(為替管理を含む)や国際情勢の分析に携わるアナリストにとって、その年いちばんの注目に値する通貨が選ばれます。

昨2014年の受賞は、明白な根拠のないまま投機筋に売り浴びせられ、年間下落率No.1(ドルに対し▲45.9%)の座に祭り上げられたロシアルーブルでした。
12月上旬までは原油価格の急落につれて米シェールオイル産業が懸念を集めていたのに対し、中旬になって突然ルーブルが「ロシア国デフォルトへの懸念」を口実に米系ヘッジファンドの標的となりました(通貨オブ・ザ・イヤー2014はルーブル)。
経済指標でみたロシアのカントリーリスクは問題ないのに(*)、米国の悪材料がロシア通貨の売材料にすりかえられるのは納得できませんね。

今年の通貨オブ・ザ・イヤー2015は、年初来の下落率No.1でしかもわが国の大勢の投資家が損失を被っているブラジル通貨のレアルに決定します!

【主な通貨の年初来の価格変化率(対米ドル)】 12月8日時点
  ・ブラジルレアル:▲30.0%     ・インドルピー:▲5.7%
  ・カナダドル:      ▲14.5%      ・英ポンド:      ▲3.7%
  ・ロシアルーブル:▲12.6%     ・人民元:          ▲3.5%
  ・ユーロ:             ▲10.0%      ・日本円:          ▲2.6%

昨年4−6月からマイナス成長が続いているブラジルの実質GDPは、今年7−9月が前年同期比4.5%減。過去20年間での最大の落ち込みを更新しています。
年10%に達する過度のインフレが個人消費を低迷させるとともに、インフレ抑制のために繰り返し実施してきた利上げ(政策金利は2013年3月が7.25%に対し2015年7月以降の足元が14.25%)が設備投資を落ち込ませている状況です。

ロシアと同様に資源輸出国のブラジルでは、資源市況の下落は物価の鎮静でなく輸出での稼ぎ減少へと作用します。輸出額の減少がGDPを低下させ、その悪材料による通貨安が輸入物価上昇を通じて悪性インフレを招き、インフレ控除後の実質GDPをさらに押し下げる悪循環となっているのです。
このようなスタグフレーション(激しい物価上昇を伴う景気後退)のもと、レアルの対ドルレートは年初来▲30.0%も下落しています(12月8日時点)。

レアルといえば、今年3月にこの外国為替のコーナーで取り上げた「レアル連動型の仕組債」が、昨年初めから今年前半にかけてわが国の投資家に人気を集めていました。仕組債は、債券にデリバティブを組み込んで利回りを高めたハイリスクの運用商品です(仕組債のヤバい仕組みと舞台裏)。
その記事で紹介したレアル/円相場に連動する仕組債の典型的な例は、5年物で最初の1年めがなんと7.5%の高利回り。ただし、次の2つの契約条項があるため、2年め以降の利回りは崩れやすい。

まず、スタート(当時の市場実勢は1ドル=40円)から2、3、4、5年後にレアル/円が33円よりも円高の場合には、それまでの1年間のクーポン(利率)がわずか0.1%に激減します。
足元のレアル/円市場の実勢は1レアル=32円(12月8日時点)。このままでは、2年め以降の利回りはゼロ金利の国内債と大差ないですね。

また、満期にレアル/円が29円よりも円高の場合、償還される元本はそのときのレアル/円のスタート時(1ドル=40円)に対する割合へ大幅削減されます。
市場のレアル/円は、今年9月には一時28円まで円高進行しました。もしもその水準で満期を迎えた場合には、元本はなんと30%カット(=1-28/40)です。
満期はまだ先とはいえ、ブラジル主力の鉄鉱石・原油などの市況低迷が長期化しているなか、例に掲げた仕組債は元本カットを通じて著しいマイナス利回りとなる危険が高いといえましょう。

もちろん約定時期や仕組み詳細により細かくいえば種類はさまざまですが、一般にこの類の為替仕組債は円高となった場合にはクーポン・元本が激減するため、満期まで高利回りを続ける可能性はほとんどありません
しかも、逆に円安時には期前償還され高利回りのハシゴをいきなり外される条項が多くみられます。上記例ではレアル/円が1年後42円、2年後40円、3年後38円、4年後36円よりも円安の場合には、その時点で償還され終了です。

この類の仕組債がハイリスク・ローリターン(あるいはマイナスリターン)なのは、そこに組み込まれているデリバティブが投資家にとって著しく不利なことによります。
そのデリバティブの実質的な取引相手は、仕組債をつくった金融機関あるいは背後にいるヘッジファンド顧客などです。
彼らは、あらかじめブラジル経済を綿密に分析・予測のうえ、保有するブラジル向け債権の経済凋落に伴うリスクヘッジ、あるいは経済凋落のシナリオに賭けること目的に、仕組債を通じてブラジルリスクを日本の投資家へ移転したと見受けられます。

以上、昨年に続き今年の通貨オブ・ザ・イヤーは、売り浴びせられている新興国の通貨が受賞しました。そこは日本からいちばん遠い国なのに、そのカントリーリスクを知らずに引き受けているのは実はわが国の投資家なのです。
今月は大掃除の時期でもあります。ブラジル以外の国々についても経済情勢を一通り点検のうえ、危ういリスクは一掃しましょう!

株式会社アナリスト工房

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*)2014年のロシアは、政府債務残高のGDPに対する比率はわずか18%、外貨準備高は3,862億ドルで世界6位、経常黒字額は595億ドルで世界7位といずれも良好。カントリーリスクの問題なしと見受けられる。