2013年3月21日
わが国の年2%の物価上昇目標を掲げる金融政策を受けて、為替市場では将来のデフレ脱却への期待が広まり、足元の円相場は96円台まで円安進行している(3月20日現在)。そのメカニズムは、物価上昇の国の通貨が下落することを説いた"購買力平価"に基づく(「購買力平価2」参照)。
購買力平価でよく用いられるマクドナルド社のハンバーガーは、わが国では同社の顧客離れが続くなか(2月の既存店は前年比12%減収)、もちろん今は値上げできる状況にはない。あくまでも将来への期待先行での円安進行だが、輸出で稼ぐ日本企業にとって足元の為替水準は競争力回復への追い風となっている。
最近のビッグマックの価格は、米国が4.37ドル、日本が320円(*)。購買力平価によると、同じ商品は両国間で価格が等しいことから、円相場の理論価格は「1ドル=73.2円(=320÷4.37)」。足元の実勢「1ドル=96.1円」は、円が理論価格に対し24%も割安であることを意味する。
昨年1月時点の円相場はおおむね理論価格どおりであったことから、日本企業の対米をはじめドル建てでの輸出の環境は大きく改善されている。
米国への輸出額首位の中国の人民元(強固な為替介入で41%も割安)にはまだまだ及ばないが、円は通貨安メリットを大きく享受してきた韓国のウォン(24%割安)並みに割安となっている。わが国の電機・電子部品業界が同国と同じ土俵で競うことのできる意義は大きい。
電機・電子部品業界は日本株の時価総額のなかで自動車および同部品業界に次ぎ高い比率を占めており、その国際競争力ならびに業績の回復が株価堅調持続への課題だからだ。円安状態の今は、これらの課題取り組みへの好機といえよう。
一方で欧州の共通通貨のユーロ(6%割高)は、ECB(欧州中央銀行)が債務危機に陥った加盟国の国債を無制限に買い支えていることを背景に、まだまだ割高感が払拭できていない。これらの国々の債務問題を抜本的に解決するには、通貨切り下げでもって国際競争力をつけ債務返済の原資を稼ぐしか道はない。
3月15日、EU(欧州連合)はギリシャ向けの不良債権で行き詰まったキプロスへの100億ユーロの金融支援の条件として、同国銀行の預金者から58億ユーロ徴収することを要求。残高10万ユーロ以上の預金に15%以上の課税への懸念に続き、19日にキプロス議会が課税法案否決したことの混乱を受けて、足元のユーロは再び弱含んでいる。
金融ビジネスで成り立っているオフショア(租税回避地)の同国が預金課税を受け入れるのが容易でないなか、あえて取り付け騒ぎならびに信用不安を引き起こす金融支援の条件提示とは、どうやらEUも通貨安競争に加わってきたようだ。
同じく債務問題で悪戦苦闘の米国は、1月末に可決した「暫定引き上げ法」により政府債務の上限を5月中旬までは上積みできるが、以降のデフォルトの危機は解決していない。
再び債務上限が引き上げられデフォルト回避できたとしても、それが将来の国債の増発およびプリント・マネーに結びつくため、1ドルあたりの価値低下を通じてドル安要因となる。すなわち米国は、別に何も工夫しなくても、通貨安への底力を発揮できる環境にあるといえよう。
以上、弱い者同士の通貨安競争はしばらく続きそうだ。競うからには、それぞれの通貨が競争優位の水準となっているうちに、それぞれの国は取り巻く上記課題を抜本的に解決し活力を取り戻して頂きたい。
株式会社アナリスト工房
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(*)英エコノミスト誌HPの記事(2013年2月2日付)に基づく。