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なんちゃって中国の通貨バスケット

一定のはずのバスケット指数とともに、ちゃっかり弱含む人民元

2016年7月11日(月)アナリスト工房
(2016年7月14日(木)脚注追加)

少年時代の習い事と同様に、半ば強制されて嫌々はじめたことは、なかなか長続きしないものです。

人民元の為替をきめ細かくコントロールしているPBOC(中国中銀)は、IMF(国際通貨基金)から為替レート形成の仕組みが不透明との指摘を受けて、昨年12月に「CFETS(中国外国為替取引システム)人民元指数」を公表。貿易額に基づき構成比率がドル26.40%、ユーロ21.39%、円14.68%など全13通貨から成る、そのバスケット指数に元の通貨価値を連動させるはずでした中国の通貨バスケット制とその狙い)。
もしも市場の中国通貨の価値がバスケットに完全に連動すれば、バスケットに対する人民元の為替水準を表す上記指数の値は一定です。しかし実際には、元が指数を構成する主要3通貨(ドル、ユーロ、円)のすべてに対し弱含んでいることにより、その指数はなんと年初来6.6%も下落しています(7月8日時点)。

中国の通貨バスケット制が、公表からわずか半年で有名無実と化しているのはなぜでしょうか?
その理由の前に、まず中国はけっして通貨防衛に苦戦していません。

今年2月にPBOCは、G.ソロスなど多数のヘッジファンドによる元売り攻撃を、大規模な元買い介入で撃退。ヘッジファンド勢にロスカット(元買い戻しでの損切り)を余儀なくさせたのです。
これまでソロスが売り浴びせた通貨は、英ポンド(1992年)、マレーシアリンギをはじめとするアジア通貨(1997年)、ロシアルーブル(1998年)などで、いずれも暴落しました。一方で今般の人民元は、中国の介入の原資(世界一の外貨準備:今年6月末は3.21兆ドル)がヘッジファンドの資金力(世界の預かり資産残高は約2兆ドル)をはるかに上回ることを背景に、世界初のソロス撃退の事例となった次第です。

このように中国当局が人民元レートの形成を完全に掌握するなか、元が弱含む理由は当局主導での安値誘導にほかならない。

PBOCの為替コントロールの手段は2つ。市場での為替介入、元レートの基準値設定(毎朝PBOCが元レートの基準値を定め、市場ではその上下2%の範囲でのレート変動が許される)です。
うち為替介入は、元売り攻撃に失敗したヘッジファンドが元が買い戻してからは、大規模介入が観測されていません。もう1つの基準値設定の際に、実勢よりも元安水準のレートを定めるのを繰り返したことによる市場参加者への"アナウンスメント効果"が、市場を元安へと導いているのです。

中国当局主導での元安誘導は、いったい何のためでしょうか?
その最大の狙いは、伸び悩む輸出のテコ入れと見受けられます。

今年1−5月の中国貿易統計は、輸出額が前年同期比▲7.3%の8,138億ドル、輸入額が▲10.3%の5,963億ドル。世界一の貿易収支(+2.1%の2,175億ドル)は依然高水準とはいえ、世界経済の低迷を受けて輸出が減少傾向(*)。輸出を上向かせるために元安を望む国内勢からPBOCへのプレッシャーはいまも根強い。
なかでも中国の最大の輸出先である米国の通貨ドルは、バスケットを構成する主要3通貨のなかで年初来下落率No.1。低迷するドルよりも元が安値誘導されたことにより、本来ならば一定であるべきバスケット指数は、顕著に下落しているのです(7月8日時点)。

PBOCの元安誘導のもう1つ狙いは、新興国勢(外国企業の新興国子会社を含む)の借入に人民元を活用してもらうことと推察されます。

昨年3月にAIIB(アジアインフラ投資銀行)の加盟国募集とともに立ち上げた、中国主導の通貨体制を広く普及させるためには、世界の国々に元のユーザーを増やすことが不可欠。
その有望なターゲットは、昨年の新興国通貨安・ドル高でドル建て借入での返済負担が重くなって苦しんだ新興国勢。外貨借入目的の元ユーザーを新規獲得するためには、元が基軸通貨ドルよりも通貨安傾向だと有利なのです。

以上、仕方なく嫌々はじめた中国の通貨バスケット制は、世界一の貿易黒字と外貨準備の資金力でもって元の通貨価値を一定に保つことが十分可能なのに、主導する通貨体制の普及と伸び悩む輸出のテコ入れを狙い元を安値誘導していると見受けられます。
制度の建前と実際の運営が矛盾しており、すでに有名無実化している見せかけだけのバスケットなんて、こんなのいらない!

アナリスト工房 2016年7月11日(月)記事

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*)2016年7月13日に公表された1−6月の中国貿易統計は、輸出額が前年同期比▲7.7%の9,855億ドル、輸入額が▲10.2%の7,272億ドル。世界一の貿易収支(+0.2%の2,583億ドル)がいっそう高水準とはいえ、注力する輸出の減少傾向が続いている。なお貿易額ランキング首位の中国の輸出・輸入ともに減少していることは、世界貿易の縮小を通じて世界のGDP成長率低下への懸念材料。