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NAFTA発の為替条項はドル安要因

トランプ政権の為替重視の通商政策が対米黒字国の緩和を巻き戻す

2017年7月25日(火)アナリスト工房

アメリカ主導の経済圏を象徴する自由貿易協定は、協定の締結前に決裂に終わったTTIP(環大西洋貿易投資協定)とTPP(環太平洋経済連携協定)のほかにも、すでに協定が発効しているNAFTA(北米自由貿易協定)があります。
昨年8月、EUから国の裁判権と食の安全を奪うTTIPは、アメリカにそんな不条理を押しつけられるEUの猛反発を受けて空中分解(アナリストのための国際経済関係NOW)。今年1月には、TPPの主役アメリカがトランプ氏の選挙公約どおりその協定から永久離脱しました。

1.アメリカが貿易相手の通貨安誘導を阻む動きは、北米から世界へ

そして先週、USTR(米通商代表部)がNAFTAの協定内容の見直しを他の加盟国(カナダ、メキシコ)と交渉するために、アメリカの狙いと目的を事前に公表しました(下記)。
その公文書は、NAFTAの悪影響を受けてすっかり疲弊したアメリカ経済の実態を踏まえ、米貿易赤字の削減のためにセーフガード(緊急輸入制限)が発動しやすい仕組みに改めることと、加盟国の為替操作を禁止する条項を設けることを要求しています。

「いまのアメリカは、NAFTAに調印したときのアメリカではない。(中略)NAFTAは大勢のアメリカ人労働者へ副作用を与えている。その貿易協定が1994年に発効してからは、アメリカの貿易赤字が膨らみ、数千の工場が閉鎖された。数百万のアメリカ人が挫折し、それまでの仕事で身につけた技能を発揮できていない」
「アメリカは貿易収支を改善するために、NAFTA圏での貿易赤字を減らす。(中略)セーフガード(緊急輸入制限)を原則禁止しているNAFTAの条項は廃止する」
「NAFTA加盟国が貿易の支払負担を減らしたり競争力を不公正に高める目的で為替操作しないよう、適切な仕組みを確保する
USTR(米通商代表部)『NAFTA再交渉の目標の要約』Jul 17th 2017公表

アメリカの実体経済の衰退は、企業が安い労働コストを求めて製造拠点を海外(メキシコ、中国など)へ次々と移転し、国内がすっかり空洞化してしまったことが大きな原因です(アメリカ第1主義の狙いと経済効果)。NAFTAでのセーフガードの解禁は、米国企業の海外拠点からの製品逆輸入を抑えるとともに、製造拠点の国内回帰とアメリカ人の復職を促すきっかけとなるかもしれませんね。

上記公文書のいちばんの注目点は、NAFTA加盟国が競争力を高める目的で自国通貨安に導かないよう、アメリカが「為替条項」を貿易協定のなかに新設するよう要求していることです。貿易相手国の通貨安誘導を禁止する条項を設けるUSTRの狙いは、相手国通貨に対するドル高を抑えることにより、アメリカの貿易での競争力改善や製造拠点の国内回帰を図ることと推察されます。

また、多数の国々との間での貿易協定(TTIPとTTP)を嫌うトランプ政権の通商政策は、地元北米のNAFTA以外では、2国間の協定見直しへ軸足を移しています。上記NAFTA再交渉の事例(セーフガードの解禁、為替操作の禁止など)は、これから本格化する2国間FTA再交渉でも次々と展開される可能性が高い

2.円安・ユーロ安を招く量的緩和は難しくなり、日欧はすでに緩和縮小

なかでも為替操作の問題は、今年1月からトランプ政権が日本・中国・ドイツを名指しで非難してきました(西も東もみんな"為替操作国")。そのうえ今般のNAFTA再交渉の内容・目的が伝わった為替市場では、安値誘導がけん制されている主な対米黒字国の通貨価値が軒並み上昇しています(下記)。すなわち、米政権の狙いどおり、対米黒字国の通貨に対するドル安の傾向が鮮明です。

【通貨価値の年初来の変化率(対米ドル)】 Jul 24th 2017時点
・NAFTA加盟国 : メキシコペソ 16.9%、カナドドル 7.4%
・主要国・地域   : ユーロ 10.7%、円 5.3%、人民元 2.9%

いまの主要国の金融政策のなかで為替操作に該当する可能性が高いのは、日欧の量的緩和(中央銀行が大量のお金を刷って国債などを買い取り、市場へ資金供給する緩和策)です。
この緩和策はインフレ目標のためとはいえ、その手段が輸入物価の上昇を引き起こすプリントマネーに伴う通貨安誘導なので、為替操作の疑いを晴らすのが難しい。そのためか、足元は日欧ともに緩和の規模がずいぶん縮小しています。

今年4月からECB(欧州中銀)が量的緩和の規模を縮小し(毎月:800億ユーロ→600億ユーロ)、緩和の出口へ向かい始めました。通貨安の要因が薄れた対米黒字国ドイツの通貨ユーロは、年初来の上昇率No.1です。

いまも年80兆円の国債保有増加をめどに量的緩和を実施しているはずの日銀は、足元の緩和規模が年51兆円(今年6月末の国債保有高の前年同期に対する増加額)にスローダウンしています。
緩和規模の縮小率は、実は日銀(36%)がECB(25%)よりも著しい。多くの市場参加者がその実態を認識したとき、ユーロ高に匹敵するいっそうの円高が訪れると想定されます。

アナリスト工房 2017年7月25日(火)記事