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米国デフォルト騒動'15秋冬はヤバい

2015年10月13日(火)アナリスト工房

1度あることは2度あり、2度あることは3度あるのは、繰り返す"米国デフォルト騒動"の歴史です。

米国の政府債務残高は、その法定上限(いまは18.1兆ドル)を引き上げない限り増額できないルールです。政府債務とそれをまかなう国債の残高が増やせなければ、国の資金繰りが行きづまり"国家デフォルト(国の破産)"に陥ります。
債務残高の法定上限の引き上げには議会承認が必要ですが、財政規律を取り戻したい共和党が上・下院ともに過半数を占めるなか、承認を得るのは一筋縄ではいきませんよって、米国はデフォルト騒動を繰り返している次第です。

1度めは米国の信用とドルの悲劇、2度めは議会のドタバタ劇

今世紀になって初の2011年夏から秋にかけてのデフォルト騒動は、ひと言でいえば”米国の信用低下とドル失墜の悲劇”です。
そのときは、デフォルト寸前で政府債務残高の法定上限(当時は14.3兆ドル)が引き上げられましたが、さらなる債務膨張に伴う米国の財政規律の悪化が嫌気され、ドル/円(円相場)は一時75.32円の戦後最安値をつけています。


そこで当時の日銀は、総額1,200億ドルの大規模なドル買い.・円売りの為替介入を実施し、さらなるドル暴落を防ぎました
とはいえ、介入で買われたドルの大半は信用失墜した米国債への投資に充てられ、わが国の外貨準備は劣化した資産を大量に引き受けてしまったのです。

米国の債務問題がまったく解決されないまま先送りされたため、わずか2年後の2013年10月には2度めの深刻なデフォルト騒動が訪れました。当時の騒動は、ひと言でいえば"議会と政府シャットダウンのドタバタ劇”です。
そのときは、債務の法定上限の引き上げがデフォルトの一歩手前まで難航しただけでなく、財政負担の重いオバマケア(国民皆保険)に反対する共和党が政府予算案をなかなか承認しませんでした。結果、予算の尽きたいくつかの政府機関が半月にわたりシャットダウン(閉鎖)した次第です。

米政府シャットダウンがドル暴落の悲劇を招かずドタバタ劇で済んだのは、日銀の量的緩和(国債などの買取りによる市中への資金供給)のお陰です。
2013年4月から日本は本格的な量的緩和に踏み切っており、市中へ供給された緩和マネーの一部が米国を支えました。
わが国財務省公表の対外証券投資の統計によると、同年7-11月の中長期債の買越し額は8.3兆円(800億ドル)。うち大半は発行額No.1の米国債などドル建て債券であり、その購入に伴う為替でのドル買いが基軸通貨を守ったのです。

3度めの今回は、米国を買い支える日本と売り崩す中国との攻防

とうとう3度めの米国デフォルト騒動(15年3月-)が始まったいま、未解決のまま先送りを続けてきた債務問題がいっそう深刻化している最中です。
政府債務の残高は、今年3月にいまの法定上限18.1兆ドルに達した後、上限引き上げの議会承認がえられないまま横ばい推移しています(図表)。
米財務省が資金繰りでしのいできましたが、11月5日頃にはキャッシュが底をつきそれも限界となる見込みです(10月1日のルー米財務長官の発言)

また9月30日、米議会は2016年度(15年10月-16年9月)の政府予算案を12月11日までの暫定分しか可決できませんでした
人工中絶を行う最大の医療団体が胎児の臓器販売を指摘された問題を巡り、中絶反対の共和党が同団体への助成金廃止を強く主張。中絶賛成の民主党との議論が難航するなか、ベイナー下院議長の政界引退表明と引き換えに、年度はじめの前日になってようやく暫定ベースでの政府予算案が成立した次第です。

このまま暫定予算を延長できなければ、12月12日以降は政府シャットダウンが再燃します。
これまで債務上限の引き上げと予算の承認をとりまとめてきたベイナー下院議長が10月末限りで議会を去るなか、米国が2つのハードルをクリアすること(11月上旬までに債務上限額を引き上げ、かつ12月中旬までに予算延長すること)は従来よりも難しい状況です。

さらに今回は、米国を助けたい日本の"集団的ドル防衛"に対し、中国発の強烈な向かい風が吹いています。
わが国の対外証券投資の統計によると、今年7-9月の中長期債の買越し額は6.6兆円(500億ドル)。なかでもトップシェアの米国債などの購入に伴うドル買いでもって、日本勢は2度めの騒動時と同様に基軸通貨を支えようとしています。
ところが、現在は中国が大規模なドル売り介入を実施している点が、過去との大きな違いです。

いまPBOC(中国中銀)は、外貨準備で保有する米国債を大量に売却中。売却代金のドルは、ドル売り・人民元買い介入での支払いに充てることで、せっせと自国通貨の元へ換金しています(中国のQT(金融引き締め)とは?)。
結果、今年7-9月の中国の外貨準備高は1,800億ドルも減少。しかも、8月の国際資金決済に占める元のシェアは、わが国の円を抜き4位へ浮上しました。

中国の米国債売却と為替介入の狙いは、デフォルト懸念のある米国債を換金処分するのと同時に、AIIB(アジアインフラ投資銀行)をはじめ主導するいくつかの国際政策金融機関の運営資金をまかなうことにあると見受けられます。

なお、人民元の買い支えは中国の本当の狙いではないと考えられます。
昨年前半までの長期にわたるドル買い・元売り介入の結果、いまの元の市場実勢は購買力平価でみた理論価格に対し4割も割安水準に据え置かれています。よって市場の元は、価格上昇圧力が強く働くため、そもそも買い支える必要がないのです(人民元切り下げのとんでもない舞台裏)。
ちなみに今年8月中旬の元切り下げは、米国債の売却代金をなるべく多額の自国通貨に替えるために、介入での自らのドル売り・元買いが為替に及ぼす影響(ドル安・元高)を和らげることが目的と推察されます。

以上、3度めの米国デフォルト騒動のいまも日本勢が米国債とドルを買い支えようとしていますが、それらを大量に売り崩す中国勢の存在が2度めまでとの大きな違いです。
9月末の中国の外貨準備高は3兆5,100億ドル。ピークの2014年6月末に対し12%しか減少していないため、手放したい米国債とその換金に伴うドルの売り圧力は依然として非常に高いといえましょう。

日本の集団的ドル防衛(米国債とドルの買い支え)は、規模が比較的小さいため効果が期待できないどころか、むしろ中国の有利な価格での米国債とドルの売り抜けを助長しているのが現実です。
デフォルト懸念の高い米国の債務と通貨を背負うことでわが国の経済を疲弊させる危険な政策は、1秒でも早く中止していただきたい。
一連の騒動の根底にある米国債務問題を解決できるのは、けっしてその同盟国でなく、当事国の1国だけです。

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