中国主導の投資銀行の原資をめぐる、債券市場での日中攻防 2015年5月25日(月)アナリスト工房 これまでG7の過半数を含む57カ国の参加を集めて話題のAIIB(アジアインフラ投資銀行)と並行して、中国は世界の政策金融を担う機関を年内にあと2つ立ち上げます。 中国単独でのシルクロード基金、BRICS勢などによるNDB(新開発銀行、BRICS開発銀行)です。 これらの国際機関は、いまの米国とドルの覇権を支えるIMF(国際通貨基金)・世界銀行・ADB(アジア開発銀行)に対抗することから、中国主導の新たな通貨体制への布石と見受けられます。 なかでも中国のシルクロード基金は、ADBでは対応できそうにない460億ドルの超大型案件(パキスタンの水力発電)が注目を浴びています。 BRICS主体のNDBは、その初代会長国となるロシアを通じて、条件の厳しいIMFの追加融資になかなか応じてもらえないギリシャへ積極的にアプローチしている最中です。 資金力に乏しくしかも注文の多い既存の国際機関が役割を果たせないなか、中国主体の新たな機関は旺盛な借入需要のある国々の期待を集めています。その豊富な資金は、いったいどこから引っ張ってきているのでしょうか? 中国の主な資金源は、その世界首位の外貨準備(国の外貨建て貯蓄)です。昨年半ばから中国は、外貨準備のうち保有する米国債を売却し、政策金融のために必要な資金を準備しています。 米財務省の公表データに基づくと、昨年6月末からの9カ月間で中国の保有する米国債は、ベルギーにある口座での保有分を含め1,187億ドル減少したと推測されます(*)。 ちなみに、この期間は中国人民銀行(中銀)による大規模なドル売り介入が観測されており、介入で売ったドルの資金支払いは、米国債などドル建ての外貨準備を取り崩す要因です。 結果、今年3月末の中国の外貨準備高は、昨年6月末のピーク(3兆9,900億ドル)から2,600億ドルも急減。うちユーロ建て資産のユーロ安に伴う価値目減りも考慮すると、AIIBなどで必要な資金の大半は米国債の売却代金でまかなっていると見受けられます。 中国の旺盛な売り圧力を受けて米国債は、FRB(米国中銀)の早期利上げへの観測後退と日欧の緩和マネーでの買い支えにもかかわらず、今年4月以降も上値の重い(利回り高水準の)芳しくない展開が続いています。 これからもAIIB・シルクロード基金・NDBの本格稼働と融資実行とともに、中国の外貨準備のまだ3分の1以上も占める米国債は、次々と売られ換金されてゆくと想定されます(*)。 今月12日のロイター記事『FRB、米デフォルトに備えた緊急対策用意か』によると、米国のデフォルトに備えFRBは、政府債務の繰り延べや米国債投資家への融資など緊急対策をすでに設けているとのことです(共和党ヘンサリング下院議員からルー財務長官への書簡に基づく報道)。 ちなみに、今年3月から米国の政府債務残高は18.1兆ドルで固定化されており、議会が承認しない限り国の借金は増やせません。いまは米財務省の資金繰りでしのいでいますが、10-12月にはそれも限界となる見込みです。 米デフォルトを防ぐには債務上限の引き上げが必要とはいえ、上・下院ともに野党共和党が過半数を占めるなか、その議会合意は一筋縄ではいきません。 そんな危うい基軸通貨国に見切りをつけた中国は、不要となった米国債をせっせと換金して新たな国際機関の設立のために活用しているのです。 中国保有の米国債は、まだ1兆数千億ドルも残っています。そのさらなる売り圧力に対し、日本の年金基金・金融機関などが買い向かわされるなんて考えたくもないですね。 いらないものにハッキリ「NO!」と言えない、わが国の先行きも危うい。 株式会社アナリスト工房 -------------------------------------------------------------------------------- *)ベルギーには証券決済機関”ユーロクリア"があり、中国はその口座も利用して米国債を保有していると見受けられます。また、米財務省の統計では「ベルギー勢の保有」として集計される米国債は、その金額および月々の変動額から、その大部分が日本を上回る経済大国のものと推測されます(米国のQE3終了を支える舞台裏)。 そこで本稿では、ベルギー勢の保有(14年6月末からの9カ月間に1,113億ドル減少)を中国分(同74億ドル減少)に合算して集計しました。結果、15年3月末の保有高は.合わせて1兆5,138億ドル(=中国1兆2,610億ドル+ベルギー2,528億ドル)。 なお、15年2月末の日本の米国債保有高(1兆2,244億ドル)は、中国(1兆2,237億ドル)をやや上回りました。しかし翌3月末は、ベルギーから中国への勘定振替と見受けられる動き(ベルギーが前月比925億ドル急減、中国が同373億ドル.増)により、日本は2位に逆戻りしています。 |
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