日銀の追加緩和の本質は為替介入

2014年11月10日(月)

「中央銀行が年金基金と共同で円売り介入とはとんでもない!」

日本企業の第2四半期決算発表ラッシュで慌ただしいなか、日銀の追加緩和の速報を訪問先の会社で知ったときの筆者の所感(上記)である。

まずは、なぜ今般の緩和強化策が為替介入と解釈できるのかを、順を追って説明したい。

10月31日、日銀は実施している量的緩和(国債などの買い入れによる市中への資金供給)の拡大を公表。国債の買い入れ額を年30兆円増額し、マネタリーベース(*)でみた資金供給量を年80兆円へ増やす。

並行して同日、厚生年金と国民年金の資金127兆円を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、投資比率の見直しを正式発表。日本国債を中心とする国内の債券は35%(従来は60%)へ引き下げ、海外の債券と株式は計40%(従来は計23%)へ引き上げる。

ここで、GPIFが運用する国内債券の減少額(=127兆円×(0.60−0.35))は、なんと日銀が今後1年間に追加で買い入れる国債の額(30兆円)にほぼ一致することに注目!

また、実際の運用では上記目安から上下へのかい離(国内債券10ポイント、海外債券4ポイント、海外株式8ポイント)が許される点を考慮すると、GPIFの海外債券・株式の増加額も日銀の国債買い入れの追加額におおよそ等しい。

すなわち、日銀の追加緩和に伴い市中への資金供給のペースが30兆円拡大するとともに、国際証券投資を強化するGPIFの海外資産もおおむね同額増える。

ここで、円の資金供給の拡大とわが国の海外資産の積み上げの2つの要素こそが、わが国の為替介入の本質だ。なぜ介入と解釈できるのか?

2010年以降の円売り介入では、日銀が売った自国通貨の円は為替市場の取引相手(民間銀行)へ支払われることにより資金供給量を増やし(**)、買った外貨は米国債など海外資産に替えたうえでわが国の外貨準備を積み上げるからだ。

よって、日銀の追加緩和とGPIFの国債から海外資産への資金シフトの連携プレーは、同様に市中への資金供給とわが国の海外資産を増やす点で、事実上の為替介入と解釈できる。

本件の目的は、日銀が脱デフレに向けたインフレ期待の形成、GPIFが年金給付に必要な運用利回りの確保と称している。一方でとる手段は、実質的には円安を促す為替介入であり、掲げる目的と大きくかい離しており不可解だ。

ちぐはぐな一連の政策の背景には、建前とは別の目的が隠れているとしか思えない。それらの本当の狙いは、いったいどこにあるのか?

日銀の追加緩和とGPIFの海外投資拡大は、これまでのわが国の量的緩和を継続しながら米国のQE3(量的緩和の第3弾:12年9月−14年10月)を引き継ぐことが、真の目的と見受けられる。

9月末から為替市場では、人民元とユーロとの間で基軸通貨のドルを介さない直接取引がスタート。中国の最大の貿易相手は欧州である。以降、中欧貿易での代金受け払いと為替ヘッジでは、ドルの資金決済が不要となっている(ドル高が続かない背景に"ドル外し")。

決済需要の減少に伴うドルの価値低下が懸念されるにもかかわらず、FRB(米国中銀)は米国債などの買い入れでの資金供給を9月に250億ドル、10月に150億ドル実施したのを最後にQE3を終了した。

ところが、終わったはずのQE3は、日本の中銀と年金基金が実質的に引き継いでいる。ちなみに、日銀が今後1年間に買い入れる国債の追加額(30兆円)ならびにGPIFの海外資産の増加額は、ともに月あたりに換算すると上記FRBの買い入れ額におおむね等しい。

よって、米国に代わりわが国は、為替介入の同様の方式でもって、ドルの通貨と米国債など海外資産を買い支えていると解釈できる。

ドル/円(円相場)は、10月15日の急落時の安値(105.20円)から1カ月足らずで、なんと10円以上も反発(11月7日は一時115.59円)。上記ドル外しによる深刻なドル安要因のなかで強引にドル高が演出されているため、上下への値動きが非常に激しい展開はしばらく続きそうだ。

注視すべき米国情勢は、まずは12月11日に期限到来する政府暫定予算を更新できるか否か。議会の承認を得て更新できなければ、2013年10月に政府機関閉鎖に至ったときと同様にドル低迷の要因である。

また、米国の政府債務上限を必要なだけ引き上げられるのは来年3月15日までであり、以後は恒例の"デフォルト騒動"が想定される(米国の債務問題)。ちなみに2011年8月の騒動では、2カ月間にわたりドルは最安値を更新し続けた。

先週の中間選挙で野党の共和党が上・下院ともに過半数を制したため、暫定予算の更新と債務上限の引き上げの合意は一筋縄ではいかない。

筆者が日頃お世話になっている先をはじめ多くの日本企業は、先行き不確実性が極めて高い官製相場に翻弄され、来年も主要国の中でいちばん大きな為替リスクを背負い続けそうだ。

海外投資の「サッサと終えたい日本の量的緩和」へ続く

株式会社アナリスト工房

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*)マネタリーベースは、現金と中央銀行預け金(民間銀行の中央銀行への預金)の合計。別名はベースマネー、略称はM0。2014年10月末のマネタリーベースは260兆円。

**)2010年以降の円売り介入は、日銀の売った円が中央銀行預け金へ入金されることにより、マネタリーベースでみた資金供給量を増やす"非不胎化介入"の方式をとっている。